秋風が吹き、夜が肌寒く感じられる季節になった。東京湾沿いの誰もいない海岸をゆっくり歩き、遠くにぼんやり見えるレインボーブリッジが刻々と色を変えるのを眺めていた。停泊している巨大な船がこごもった汽笛の音を響かせ、はるかな故郷の伝説を運んでくるかのようだ。今夜も星が美しく、海風が心地よい……
日めくりカレンダーをめくって、自分だけが知っている記号を見つけた時、過去のたくさんのできごとが心に蘇ってきた。荷物をかかえてこの美しい島国に足を踏み入れたあの夕暮れから、心の中で育て続けた「思郷樹」(故郷を思う木)がいつの間にか19本の年輪を刻んでいたのだ!自信と希望に溢れた青春の歳月も、喜びや悲しみの交錯した感傷的な思いも、すべてが淡い記憶となって夢を模索し続けた年輪の中に溶け合っていく……
ふと振り返ると、遠くの高い街灯の下に、故郷を出て、もう後には戻れない気持ちで異郷へと向かう自分の姿を見つけた。静かな夜の中で、19年前の幻想と19年後のわが身が重なりあう。あの頃に比べると、幼さと困惑が影を潜め、強い意思と確かな決意が加わった。だが、惑うことのない心は今も変わることなく躍動している……
故郷を懐かしく思わない者はない。故郷こそが、真の意味で心の疲れを癒してくれる港なのである。だが、おそらく運命が定まっているのだろう。血液の中に漂泊の遺伝子が流れている種類の人間というものがある。彼らの人生の教科書には、永遠に「道の途上」という文字が書かれている。漂泊がやむを得ないことであったにせよ、考えた末のことであったにせよ、彼らにとって他の選択はあり得ないのだ。
世界というものは誰にとっても公平なものである。世の中の変化を経験して意外な収穫を得ることもあるし、辛酸を嘗め尽くして完全や成熟に向かう場合もある。人生は、経験が多ければ、それだけ充実する。今からさらに19年の歳月が過ぎた時、このように満足な気持ちで風に吹かれる夜を過ごしているかどうかはわからないが、ゆったりと落ち着いた心でいることは間違いない。「青春に悔いなし」だからである。
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