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タイトル:「嵐の前 9 逆恨み」  2007/05/11


9「逆恨み」

 「いやっ!やめて!」
 内侍は蔵人の手を振り切って叫んだ。蔵人は息を激しく切らせながら、内侍を押し倒し、胸乳を探った。
 これが主上の愛しまれる胸か、と蔵人はつぶれよとばかりに激しくもみしだいた。
 「あ・・ぁ・・・」
 内侍の息遣いが激しくなり、体全体が火照ってきたのが衣の中の蔵人自身にも感じられた。蔵人は舌を使って内侍の乳首をこね回した。内侍は泣いているのか、鼻をすすりながらも腰を捻って愛撫に少しずつ応えはじめた。

 (淫乱な女め・・・。こんな女を主上がご寵愛になるなんて、許せぬ!)
 蔵人は身勝手な嫉妬でかっと頭に血が上り、左手で乱暴に袴の紐を解き、一気に袴を引き下ろした。内侍の白いすらりとした脚が月光に照らされて妖しく浮かび上がっている。
 蔵人は無理やり内侍の脚を開き、繁みの奥に指を突っ込んだ。一瞬、内侍は息を飲んだ。
 「嫌・・・嫌・・・あっ・・・はぁっ・・・ん・・・」
 そういいながらも内侍の息づかいは次第に激しくなり、ねっとりとした液が蔵人の右手にたれて来た。

 蔵人は愛撫に陶酔しはじめ、内侍の目が冷静になってきている事に全く気づかなかった。
不意に冠の簪が抜取られ、顔に迫ってきた気配を感じて、蔵人はとっさに顔をそむけた。その隙に内侍は体を引き、体を起こした。そのまま素早い動きで袴を掴んで逃げようとした。

 蔵人はすかさず袴を踏み、髪を掴んで、内侍を引き寄せた。蔵人の頭に不意に関白に辱められた記憶が甦ってきた。
蔵人は後ろから抱きすくめた内侍の口に懐紙をねじ込み、下帯で上からくくりつけ、大声が出せないようにして、復讐とばかりに自分が関白にされたのと同じように、袴の紐で内侍の腕を縛り上げて、柱にくくりつけた。

 月明かりの光に照らし出され、泣きはらした目を一杯に見開いた内侍の絶望的な顔は白く美しく、黒い毛筋は面輪にかかり、赤い紐に縛められた白い腕は痛ましくも可憐で、蕾の様な乳房はせわしく隆起を繰り返している。腹はふっくらと上品な曲線を作り、黒い繁みは心持ち開きかかった、すらりとした脚の間におさまっている。
赤い袴と対照的な白い裸身は、牡丹の上に咲いた蓮の花の様に見える。

蔵人は自分の嗜虐心がこの上もなく刺激されるのを感じた。激しく湧き上がってきた感情に蔵人自身が驚いていた。

両手で激しく内侍の脚を開き、固くなった自分の物を内侍の中にねじ込んだ。内侍は腰を振って逃げようとする。蔵人はそれを押さえつけて、右・左と激しく腰を動かして内侍の中へ中へ、ねじ込んでいった。内侍の中は温かく、蔵人を包み込んでいる。内侍の抵抗で適度に刺激が加えられ、蔵人の中に熱い塊りが沸きあがった。

「あっ、あっ・・・。い・・・くぅ・・・。」
蔵人はかすれた声を上げた。

その声を聞いて、不意に内侍の目が輝いた。そして脚を蔵人の背中に絡めて、蔵人の動きにあわせて激しく腰を動かし始めた。蔵人は急に二人の調子がぴったり合ったことで益々快感を感じ、自分でも気付かないほど高速で腰を動かしていた。

「はうっ、はぅ・・・アア・・・・」
「うん、ぅ・・・はぁ・・・」

暗闇の中で、二つの影が激しく揺れ、一瞬動きが止まったかと思うと、脱力して倒れこんだ。

さぞ屈辱にまみれているだろうと考えつつ、蔵人は内侍の顔を見つめた。
内侍は瞳の下に涙の跡がいくつか残っていたが、満足そうにまぶたを閉じていた。

蔵人は内侍が満足しているので、なんとなくつまらなく感じた。やにわに内侍の顎を右手で掴んで持ち上げた。
「なんて淫乱な女だ・・・。どこの誰とも知らない男に犯されても快感を感じてやがる。」

内侍はゆっくりと美しい目を開けた。黒い瞳が涙に潤んで悲しそうに蔵人を見つめている。そして激しくいやいやをし、蔵人の頬に内侍の頬をこすりつけて、涙を流した。
蔵人は真心のこもった仕草に呆然となっていた。内侍の涙の熱さだけが感じられた。

しばらくして、蔵人は内侍を軽く抱きしめたあと、口の縛めを解いた。内侍は突然、蔵人の口を吸い始めた。その姿勢が余りに不自然で辛そうだったので、蔵人は袴の紐も解き、内侍を開放した。
ところが内侍は逃げるどころか全身で蔵人に抱きついてきた。

そして内侍は涙を流しながら、蔵人の顔を両手で挟み、まぶたと言わず、頬と言わず、首筋と言わず、口付けながら、こんな事をつぶやいた。

「あなたは蔵人様ですのね、蔵人様ですのね、本当に、私のずっとお慕いしていた蔵人様ですのね・・・!!」

蔵人はうろたえて、

「内侍殿・・・?まろを慕っていたとは・・・?そなたは主上の思い人のはず・・・」


内侍はうっとりとした目で蔵人を見つめて、髪をかきあげた。

「お気づきになっていらっしゃいませんでしたの・・?私は蔵人様に主上の居場所を聞かれたときから、蔵人様の事をお慕いしておりましたのよ。」
「でも蔵人様はいつでも主上の夜の御殿へ入りびたり。私には近づく隙がございませんでした。」

蔵人には、全く覚えが無かった。彼の目には主上以外の人間は全く入っていなかったのだ。内侍の存在を覚えたのは、あの関白に陵辱された夜、自分を馬鹿にしたような微笑を残したからだった。
「では、なぜ、あの、屏風の裏で一緒に居た時、まろをあざける様に微笑んだのだ?」

内侍は艶然と微笑んだ。
「あざける?とんでもない。私は私の運命を哀れんでいたのです。お慕いする人の目の前で、私がこれっぽっちも愛していない男の精を受けるという運命に。おまけにその男も私の事を少しも愛していないのですから。」

蔵人は眉をしかめた。
「男などと・・・なんと畏れ多い。・・いやとにかく、主上が内侍殿を愛していないとは?なぜ内侍殿はその場にいたのだ?そして何故、主上が今も内侍殿を頻繁に寵愛されているのだ?」

内侍はすっと目を細めて、低い声でつぶやいた。
「簡単な事です。あの夜、主上の元に近侍していたのが私だったから。そして、今も主上が私を抱かれる時は、頭の中は蔵人殿の事で一杯の時なのですよ。・・・おお寒い。小袖と袴を着てよろしいですか?」

「もちろん。・・・で、今の言葉はどういうことなのだ?」

「主上は私を抱くと、決まってあの夜の蔵人殿の媚態を思い出されるそうなのですわ。だから、蔵人を抱きたい時には代わりに私を抱くと、寝物語に話してくださいました。」
こんな状況においても、主上の自分への思いをきくと頬まで血が上がってくる自分の性(さが)を、蔵人はつくづく不思議に思った。

内侍は小袖と袴をするすると身につけ、長い髪を後ろにはねた。そして蔵人の方を向いて、にこっと笑った。蔵人は我知らず悪寒を感じた。蛇に睨まれた蛙の様な気分だった。

「また、逢ってくださいますわね。」
「え・・・・?」

内侍は蔵人の耳に顔を近づけて囁いた。
「この場だけで済ますおつもり?ならそれでもいいですけれど・・・」

横を向いて上を見上げ、内侍は付け加えた。
「『主上の想い者』である私を犯した事を世間が知り、それを放置していたら蔵人殿の愛する主上はどんな非難を受けることか・・。」

蔵人はかすれた声で、こういうのがやっとだった。
「この事を世間にばらすつもりか・・・?」

内侍は当然の様に答えた。
「蔵人殿がこの場だけの関係だと済まそうとするならば」

蔵人はここでまた、自分の失敗に気付き、天を仰いだ。
(何と・・・何という女だ!そしてまろは何て馬鹿なんだ!よりにもよってこんなに厄介な女を暗がりに引きずり込んでしまうとは・・・。)

内侍は袿を羽織り、艶然と微笑み、蔵人の首に手を回してきた。
「ね、今度はいつお逢いしましょう?そうね、今度の私の宿下がりの時がいいわね・・」

(つづく)

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続きは、完成しだい、配信します。

気長にお待ち下さいませ。

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葉桜

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