メルマガ:嵐の前
タイトル:嵐の前 一 「出会い」  2007/03/19


皆様、はじめまして。葉桜と申します。

今まで書き溜めていた平安BLを不定期でメルマガとして発行します。
小説は書きなれないので、拙い文章ですが、どうかあきれずにお付き合いくださると幸いです。

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嵐の前 一

「出会い」

平安時代末期、退廃の香りが漂う京の都の宮中の一角―

「主上は今宵どうしておられる?」

若い男が内侍に話しかけていた。男はすらりとした体つきに白く輝く頬を持ち、黒目がちで切れ長の瞳は艶やかに光り、その上に長い睫の影がかかっていた。

内侍は男に見とれながら、うわの空で、

「ただいま、御匣殿が上の御局によばれたと聞いておりますが。」

と答えた。

男は表情を曇らせた。その悩ましげな眉根がほのかな色気をかもし出す。

「そうですか・・・」

その男―六位蔵人、藤原高藤は、のたりと体の向きを変え、宿直所に戻っていった。

(なんと・・昨夜はあれほど燃えられて、明日も必ずとおっしゃったのに・・。)

はっ・・と高藤の表情が変わった。

(そうだ。これはいつもの事。気まぐれにまろを快楽の絶頂に導き、まろをとろかせた後にはすぐ、他の女をお召しになる。そう、まるでまろにあてつけるように・・・。)

高藤の瞳が曇った。

そして、すぐにその想いを振り払うように顔をきっと上げた。

主上がまろを愛していなくったって構うものか。まろだって愛してはいない。出世のために抱かれているにすぎない。

それに、主上はどんな事があっても、まろの体から離れられやしない。今までだって女性に寵愛が移っても、必ずまろのもとに帰ってきて、激しく体を貪った。目はまろを蔑んでいても、手はまろの肌触りを求めてさまよっていた。このまろの肌の吸い付くような感覚が忘れられないと何度もおっしゃっていたっけ・・。

高藤はまたきりっと胸が痛んだ気がした。

 

 

高藤は、代々国守を勤めるのが精一杯の諸大夫の家の、それも庶子として生まれた。

60の声を聞いてからようやく国の守になれた父が、美貌の家女房―母上―に溺れた結果生まれた子供だった。

当然、年の離れた兄も姉もいて、年老いた北の方に忌み嫌われた母は、高藤共々邸を追い出された。

父は、母を心配して時々食料や財物を届けさせていたようだったが、それも北の方に妨害され始めた。だから母は、泣く泣く高藤を寺の稚児にした。

高藤は育つにつれて美しい容貌が僧達の眼を引き、庵主様の想い者となり、当然夜の勤めも求められた。庵主様は優しかったが、どうにも夜のつとめは嫌だった。しかし、生きていくためには仕方ないので我慢した。

庵主様がお出かけの時には、高藤は日頃から眼をつけられていた僧兵達に次々と弄ばれた。彼らから解放され、放心状態のとき、高藤は母の優しく美しいお顔を思い出して、辛さに耐えた。

日々の辛い勤めに耐えていた時、突然高藤に悲報が届いた。

母が急死したと言うのだ。

父は、母への供養のために、自分を引き取ると言う。

高藤は、「自分と母を守れなかった父上がいまさらなにを!」と父を憎んだ。

高藤は元服の直前、院判官をしていた兄の猶子として、院に出仕した。

そこで、院の元に行幸しに来た帝の目に留まり、破格の待遇ではあるが、強く童殿上を求められた。

父は、一族と自分の出世の為に、一も二もなく帝のご要望に応え、高藤を童殿上に差し出した。

 

高藤が始めて童殿上に上がった夜―

主上がお忍びでお渡りになった。

ふっくらと白く上品なお顔つきの主上は、狩衣姿で高藤の局にいらっしゃって、酒を軽くお飲みになりながら、黒目がちの眼を優しく高藤に当て、一言、

「舞え」

とだけおっしゃった。

高藤は、寺の稚児勤めで、舞いの手は大体覚えてしまっていたので、胡蝶をひとさし舞った。

主上は、高藤の緩やかに動く袖の動きをひとしきり眺め、

「来い」

とおっしゃって、手を引いて、御帳台の中に入って行った。

 

高藤のその夜は、いままでとは全く違ったものとなった。

しわしわの僧とは雲泥の差の美しい壮年の主上に抱かれて興奮していた事と同時に、帝の風情のある御あしらいにしたたか酔った。

今までの僧はしつこく自分の欲望だけを満足させるために、高藤が嫌気を感じる様子を意に介さず、体をまさぐりつづけていた。

しかし、今回の主上は違う。

順序を追って、高藤の体をほぐして行こうとなさっている。

まず耳を噛み、袍の前をゆっくりと外し、胸の突起に手を這わせる。

高藤が吐息を漏らすのを見計らって、手を下の方に持っていき、肉棒を掴む。

高藤は、あまりに畏れ多くて、

「もったいない!!」と申し上げようとしたのだが、その前に唇をふさがれて、主上の舌でその言葉を絡め取られた。

高藤は主上の高貴な香りに包まれて理性を失い、自分でも信じられないほどの声を出していた。

主上は

「苦しいか?」とおっしゃって唇を離し、高藤の肉棒の先にあふれ出している液をそっと舌で舐めた。

高藤はびくん!と体を震わせ、また切なげな吐息を漏らした。

「おお・・また溢れてきておるよ。かわいい奴。」

主上は御手で高藤の透明な液をすくって、高藤の後ろの穴に丁寧に塗りつけた。高藤は余りの興奮で何にも考えられなくなり、主上のなされるがままになっていた。

主上は逞しい腕で高藤の体を四つん這いにさせて、高藤の中に挿入した。高藤の体は幸福感で弛緩しきっていたため、すべるように主上のモノをしっかりと受け止め、包み込んだ。

「まろに、こんな事が・・あってもいいのですね。」

「何だ?泣いておるのか?痛いのか?」

高藤はいやいやをするように頸を振った。主上は微笑んで、右手で高藤のモノを刺激し、左手で乳首を刺激し始めた。

二人の息遣いが荒くなり、同時に果てて、御帳台の中で倒れこんだ。

 

それから後の事を高藤はよく覚えていない。ただ、香ばしい腕に何度も包まれていたような気がしていた。

 

(何と言うことだ・・。)

主上との交わりの翌朝の高藤は、不安と動揺に苛まれていた。

高藤は、男との交わりは、あくまで生きていくためのもの、美しく生まれついた自分は避けて通れないものだから、嫌でもしなくてはいけないものなのだ、と固く信じていたのに、今宵も主上との交わりを望んでいる自分がいた。

そして、その高藤の願いは叶えられた。

主上は翌日も、その翌日も高藤のもとにおいで下さり、高藤を酔わせてくださった。

時々は御寵愛の女御をお召しになる時もあったけれど、いつも文を下さり、高藤は愛されているという幸福感を感じていた。

 

あんな日々もあったのに、どうしてこういう関係に変わってしまったのか・・。

主上が変わってしまったのは、まろが元服をしてからだろうか、それとも院と主上が対立するようになってからなのだろうか・・。

(つづく)
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