広島から友人がやってきたので、秋も深まったある天気のよい午後、新宿の歌舞伎町に散歩に出かけた。
東京に長く住んでいても、歌舞伎町は異国人にとって永遠に、心を惹かれると同時に恐ろしくもある、複雑な気持ちにさせられる場所である。昼間は気晴らしのための娯楽施設や特色のあるレストランが立ち並んで、日本独特の情緒のある魅力が漂っているが、夜になると、享楽的な酒池肉林の雰囲気に変化する。性感マッサージ、女装サロン、ソープランド……ネオンサインもけばけばしく、様々な風俗関係の店を照らし出している。
外国人ばかりでなく、日本人の同僚の誰もが異口同音に言う。「歌舞伎町?!アブナイよ〜。」
決して大げさに言っているのではない。十年前、華人マフィアと日本のヤクザが流血騒動を起こし、青龍刀で何人かが殺されたことがあった。五年前には店同士の開店競争の結果、人為的な火災で四十四人の命が失われた。現在、この歌舞伎町の狭い範囲で、電柱に三百六十度撮影が可能な防犯ビデオが五十台も設置されており、昼夜の別なく通行人の一挙一動を監視している。
歌舞伎町は確かに恐ろしい場所だが、その繁栄の裏には何が潜んでいるのだろうか?
中国の湖南省からやってきた李小牧氏は、ティッシュ配りの仕事から始めて、華人勧誘を専門とする案内人になり、警察とマフィアの間で不思議なバランスを取りながら歌舞伎町で二十年近くを過ごし、ついに自身のニュースメディアを持つ「新華人」のスターとなった。歌手になりたくて日本にやってきて、国際通話テレホンカードの販売で一躍富豪になった張紹興氏は、現在レストランやコンピュータショップを経営し、彼の会社「發發大世界」は歌舞伎町でひときわ輝いている。
歌舞伎町の象徴的建築物であるコマ劇場の前の鳩が飛び回る小さな広場の石段に友人と二人で坐って、遥か向こうで、演歌歌手の五木ひろしが新曲プロモーションのためにコンサートを行っているのを眺めていた。五木ファンである年配の女性たちは、少女のように叫んでいた。
歌舞伎町、この千変万化する街、人の世の混沌とした雰囲気が漂う街、生命力と退廃が充満する街。昼間には夜とはまったく異なる表情を見せるこの同じ空の下で、私はふとその呼吸を感じた。それは実に確かで、力強いものだった。秋も深まったある天気のよい午後のことである。 |