世の中に次々と新しいスターやアイドルが登場し、彼らを追いかける熱烈なファンの群を生み出している。近年「華流」が日本に押し寄せ、「韓流」も中国に進出した。だが、美男美女たちに向けてたかれるフラッシュや、雑誌やネット、テレビなどの狂ったような報道に目がくらみ、疲れ果て、誰もが「スター」を普通の目で見ることができなくなっているのではないだろうか。
練馬区の小さな会議室で、陳坤(チェン・クン)は笑顔で我々を迎えてくれた。中国では知らない人のないこの人気絶頂のスターが、第19回東京国際映画祭に参加するために来日し、東京に一日だけ滞在していたのだ。数え切れないほどのイベントの後でも、彼の美しい顔には少しも疲労の色が見られなかった。
今までに、日本で上映された彼の主演映画は「巴爾扎克和小裁縫(日本語タイトル:中国の小さなお針子)」だけである。正直言って、私の陳坤に対するイメージは、いろいろなサイトに書かれているような「憂鬱、沈思、冷淡、思いやりの中に、やや世をすねた不遜な雰囲気をたたえた何ともいえない瞳」とか、「憂鬱で穏やかで寡黙で、人の心を打つ。魅力的な容姿の下に自分自身と同じように変わりやすい心を感じているような」などのわかったようなわからないような論評を出るものではなかった。
しかし、三十分のインタビューによって陳坤は、私やその場にいたすべての人々が心の深いところに持っていた「スター」に対する浅薄な偏見を覆してくれた。彼は、たいへん聡明で心の広い青年だったのだ。彼の簡潔な言葉によって、人と人との間の心の隔たりが少しずつ溶かされて消えていくようだった。自分が演じる役柄を吸収し同化する情熱を持った活力溢れる現代青年。平常心をもって自分の栄誉や名声を静かに見つめる年齢を超越した成熟した人物。そして慈愛の心で貧しい子供たちを助ける敬虔な仏教徒といういろいろな面を見せてくれた。
陳坤の魅力的な人格は、若い頃ドイツに遊学したときに形成されたようだ。彼は日本とドイツの類似点を簡潔にまとめてみせた。都市が清潔なこと、人間が規律正しく礼儀を重んじること、何事にも真剣かつ細心に行うこと。「私は特に意識して自分が中国人だと思ったことがありません。常に自分は地球人だと思っています。」陳坤のこの堂々とした宣言は、私という一人の漂泊者に、自己を省みて勇気を奮い起こさせる契機を与えてくれた。
ありがとう、陳坤。この幸せな出会いに感謝して、私はこれからもあなたに心からの拍手を送り続けたい。 |