真っ白な表紙に、まだインクの香りも真新しい一冊の本。赤と黒の文字でくっきりと書かれた書名は「56歳での起業。」。本の背に描かれた著者のにっこり笑った似顔絵が、何かを語りかけてくるようだ。まだ発売前のサンプルを幸運にも手に入れた。著者はこのメルマガの発行人であり、描かれているのは、毎日我々が働いている職場のあれこれである。……ちょっと開いて読み始めたら、最後まで一気に読んでしまった。読み終わってから、またいろいろと考えさせられることがあった。
「56歳での起業。」はたいへんおもしろい。これは、一人の勤勉な銀行員が、転職して翻訳会社の役員になり、その14年後に56歳で独立開業し、様々の困難を乗り越えて事業を成功させるまでの物語である。自伝ではあるが、まるで手に汗握る冒険小説のようだ。著者は船の舵取りのように、読者をつれて困難の荒波をかき分けていき、最後には安全な場所へと到達する。
「56歳での起業。」は簡明でわかりやすい。創業の理想と現実との距離をさりげなく伝え、日常生活の小さいけれど感動的なできごとを述べ、これらがまるで昨日起こったことのように生き生きと語られていて、親しみやすい。娘たちが父親の起業のために奔走し、パートナーたちが給料が出せない状況でも心をそろえて協力する姿には、深く感動すると共に、人を信じる気持ちを強くさせられる。
「56歳での起業。」はいつも手元に置いておきたい本だ。出版社は、日本の社会現象となった団塊の世代の読者を対象にしていると言うが、物語の背後に含まれるものや、起業の成功に必要な資質である、革新への勇気、不屈の精神、度量の深さ、互いに敬う心などは、世代や空間を超えて読まれる価値があり、書架に置いて折々に読み返すべき本だと思う。
「56歳での起業。」を徹夜して読み返し、気がついたら明け方になっていた。本を閉じて窓を開け、朝焼けを眺めながら、心の中でつぶやいた。自分はまだ本にあるような起業の苦労を味わってはいないけれど、望んでもなかなか得られない今のすばらしい仕事環境を大切にしていきたいと……。 |