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[原理主義の罠]「総括・小泉改革」、それは冷酷な「日本のハイリスク・ハイ リターン社会化」だ 206.6.15 アンブロジオ・ロレンツェッティ(Ambrogio Lorenzetti/ ? -ca1348)『Allego ria del Gattivo Gererno(particolare)/善政の寓意』ca1338-1340 affresco、 Palazzo Pubblico 、Siena 【画像解説】これは「総括・小泉改革」の象徴に相応しい絵です。この絵の全 体はシエナ市庁舎の壁画で、この部分画像は「暴政」(暴君が支配する政治)の 寓意を描いたものです。ここでクローズアップした部分は、「悪政のアレゴリ ー」の中心に居座る「暴君」の図像です。 ・・・お手数ですが、この画像は下記URL(★)をクリックしてご覧ください。 ★http://www.francescomorante.it/pag_2/201ic.htm(上から5番目の絵が該 当する『Allegoria del Gattivo Gererno(particolare)/善政の寓意』です) 「暴君」の周辺には、御用学者、強欲な聖職者、令色で巧みに高給を食む官 僚、隠微で慇懃無礼な徴税官など小心のクセに悪魔的なほど保身の術に長けた 人物図像が配置されています。 一方、「暴君」の足元には「平和の擬人像」が拘束・抑圧された姿で寝転が されています。布と紐でグルグル巻きにされた憐れな「平和の擬人像」(弾 圧・抑圧された都市市民たちの象徴でもある)を繋ぐ長い紐を手にした、強欲 そうに見える悪人面の人物像は、イラク戦争で捕虜を虐待した米兵たちのイメ ージを呼び起こします。 一方、鬼のように二本の角が伸びた「暴君」の薄ら笑いを無理に押し殺した ような不気味な口元から漏れ聴こえてくるのは「テロとの戦い」、「悪の枢 軸」、「増税とリフォームなくして成長なし」などの恐ろしげなヒトラー口調 の雄叫びです。つまり、ここで描かれているテーマを一言で言えば「平和を望 む意志と生存権を奪われた市民(日本国民)の痛みと苦しみ」ということにな ります。 ・・・・・以下、本論・・・・ 6月15日付の日経記事「米インフレ圧力強まる」(第3面)によると、変動要因 が大きい食料品を除いたアメリカのコア消費者物価指数(5月)は3ヵ月連続 で前月比0.3%の上昇となっており、アメリカ経済のインフレ圧力が高まってい ます。従って、FRB(米連邦準備理事会)による追加利上げの可能性が付き纏っ ている訳です。 この背景にあるのは原油高とアメリカの景気回復の長期化だと同記事は分析し ています。が、その奥にあるのは、“借金地獄やローン破綻も厭わぬほど過度 に旺盛なアメリカ人の個人消費意欲”(参照、toxandoriaの日記[2006-02-21、 「国民の人身御供」を容認する「残忍な金融資本主義国」、ニッポン]、htt p://d.hatena.ne.jp/toxandoria/20060221)とアフガン・イラク両戦争で裾野 が広がった「産軍複合体」関連産業の飽くなき需要の拡大だと思われます。 そして、この記事の分析によると、アメリカの潜在成長率(潜在GDP(潜在国内 総生産)の年次比較による経済成長の概念/供給サイドから見た生産水準)の限 界(現有の装備と労働力で実現できる供給能力の天井)は3%台前半なので現 在の物価上昇ペースが続けば、アメリカ経済へ大きな打撃となる深刻なインフ レ・リスクが高まっているということになります。 ところで、同じく前日付の日経記事(日本の株価が日経平均で終値614円安まで 急落した背景についての分析記事/第3面)の中で、下記(★)の記述に目が止 まりました。 ★「日本は『ハイリスク市場』」・・・最近の株価下落は世界的でもあるが、 日経平均の年初来高値からの下落率は19%に達し、米国株の7%や英国株の8% (ともに12日終値まで)を上回った。・・・途中、略・・・その大きな理由は ヘッジファンドを通じた昨年来の巨額な資金流入の反動だ。日本の株式市場は 世界の投資家から見れば、インドやブラジルなどの新興国市場や貴金属市場と 同じ『ハイリスク・ハイリターン市場』に分類されている。・・・後、 略・・・ 一般に2006年3月期の決算は新しい経済環境に適応した日本企業がIT産業などを 中心として復活した結果だとされています。しかし、冷静に観察すれば、近年 の日本経済はむしろ製造業を中心とする伝統産業が経済循環の流れに沿って復 興してきたのだといえます。一方で、肝心のIT及び投資関連企業の周辺はホリ エモン、村上ファンドの暴走が象徴するように生産性を低下させ、リスクを高 める一方となっています。つまり、これは5年前に小泉構造改革が描いたシナ リオの狙いが見事に外れたことではないか、と思っています。 詳細なデータ分析はともかく大まかな記憶によれば、たしか5年前ほど前に日 経平均株価の指標となる企業の多くを旧来型からIT関連企業へ差し替えてお り、そのうえ、ほぼ同時期の実質経済成長率に関する計量モデルの見直しでは 担当官庁が“鉛筆をナメ”て(小泉政権の意図を先取りして?)些かのゲタを 履かせたはずです。ところが、皮肉なことに(表記のとおり)小泉政権の意 (規制緩和によって供給サイドを刺激して潜在成長率を高めるという目的)に 反し、“旧来型産業が中心となりつつ、民間主導で過酷なリストラなどによる 困難な環境条件に適応する努力を積み重ねた結果として日本経済がここまで復 興してきた”というのが現実のようです。 ところが、今に至っても小泉政権は自らの設計と結果のミスマッチには目もく れず「日本経済の復興は自らの構造改革の成果」だと強弁し続けており、誰も これに異論を申し立てられない(保身などの意識から申し立てようとしない) ところに現代日本の危機の真相があると思われます。そして、それを象徴する のが既述の「日本の株価下落の世界標準からの乖離」と「日銀の福井俊彦総裁 と村上ファンドの腐れ縁の発覚」であるような気がします。つまり、嘘の上塗 りの上で全てが踊らされてきたということのようです。「日銀の福井俊彦総裁 と村上ファンドの腐れ縁」の問題は、見方次第では日本国民のすべてを誑かし た深刻な日本政府ぐるみのインサイダー取引です(参照、毎日新聞・社説:社 説:福井日銀総裁 資産公開で透明度を高めよ、http://www.mainichi-msn.co. jp/eye/shasetsu/news/20060615k0000m070169000c.html)。 日本国民は、この5年間にわたって“本物の詐欺劇場”(規制緩和の旗印で日 本を『ハイリスク・ハイリターン』に作り変えるという隠れたシナリオの下で =嘘の上塗りでリスクをハイリスクまで高めるという恐るべきシナリオの下 で)を観劇させられたのではないか、という思いが募ってきます。結局、この 5年間に及ぶ「小泉改革」とは“300兆円近くの国債を気前よく増発する一方 (参照下記★)で、日本を疑心暗鬼のハイリスク・ハイリターン社会化しただ けのことではなかったのか?”と思われます。 ★「現在、日本政府が抱える長期債務残高(概算値)」=1,066兆円(出 典:日本経済が破綻するまで動きつづけるリアルタイム財政赤字カウンタ、htt p://ueno.cool.ne.jp/gakuten/network/fin.html) このような一種の投機型社会の進展によって投資家や一般国民が疑心暗鬼の心 理を募らせてリスク増大の悪循環に嵌る現象を、かのヘッジファンドの大立者 ジョージ・ソロスは「相互投影性」(Interreflexibility)と名づけているよう です(参照、2006.6.15付・日経新聞、シリーズ:資本市場と企業統治1)。流 石にソロスは上手いことを言うものです。 ともかくも、ポスト小泉では“この虚(嘘)と実像の摺り合わせ”が重い課題 となるはずです。結局、小泉首相が去った後に残るものは、インドやブラジル などの新興国市場や貴金属市場よりも「過剰なリスク市場」と化した危機的な 姿を晒す日本社会だけということになりそうです。一方で、「健全な市場経済 環境の崩壊と多数の善良な個人投資家の損失拡大、深刻な経済格差の拡大、限 りなく弱者に厳しい医療・福祉・年金水準の劣化、巨大銀行の過剰な肥大化 (経営責任回避のまま巨額の公的支援を過剰に受けたことによる一種のメタボ リックシンドローム)、底なしの労働・教育環境の劣化、JR西日本列車事故型 「大事故発生リスク」の拡大、止まることない自殺者数の増加傾向、深刻な人 間関係崩壊型犯罪の多発、政治的右傾化と監視社会化(共謀罪関連など)の進 行」など、更なる数多の悲惨と矛盾は放置されたままです。これでは、まった く「国家的なオレオレ詐欺」ではありませんか。 |