2006年4月26日第16号(通巻第32号) 毎週水曜日発行 ブログ 中文簡体 中文繁体
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ファッション・イベント

手で見る写真展 TOUCH AND SEE

先日、表参道のスパイラルビルにある「すぱいらるガーデン」で面白い写真展を見た。

会場に入ると、すぐ脇の白い壁にスクリーンに映し出された鮮やかな航空写真が目を引いた。傍らには「Touch and see目を閉じて触ってください」のメッセージが。目の不自由な人に写真の美をわかってもらおうという風変わりな展覧会だと思った。しかし、このプロジェクトのターゲットはそれだけにとどまらないことをすぐ知ることになる。

奥へ進むと、四角い展示テーブルに写真と説明文と触って感じる立体図のセットが、いくつも並んでいた。真ん中にはエメラルドグリーンの海に浮かぶハート型のさんご礁の巨大な写真が置かれていた。写真はヤン・アルテュス・ベルトラン氏による航空写真で、世界のありとあらゆる地域の美しい情景が撮影されていた。それらを眼鏡デザイナーのアラン・ミクリがアセテート・セルロースというアイウェアで使用する素材で手で触って感じ取れるよう表現した。説明文にも点字がつけられていた。会場には盲導犬をつれた人、介助の人を伴った目の不自由な方たちが何人も訪れていた。会場の係りの女性の説明によると「目の不自由な方が、これら立体画像を触るだけで全てを理解できるわけではありません。介助のかたがたの説明を聞きながら、そのイメージを膨らませるためのものです。」ここは視覚障害者と健常者が連れ立って、共に「空から見た美しい地上」を分かち合うためのプロジェクトだったのだ。

壮大な地球の美しい一瞬を捉えた写真を見て思う。人間も動物も、富める者も貧しい者も、目の見える者も見えない者も、おしなべてこの惑星のはかない生き物であり、平和に共生していくべき存在であると。

このプロジェクトは2003年ロンドンでの展覧会を皮切りに、ヨーロッパ各地を巡回し、2006年4月4日から10日まで東京表参道で開催された。 (西岡珠実執筆)

Photo by Tamami Nishioka.

スパイラル公式サイト http://www.spiral.co.jp
 
観光スポット・グルメ

おにぎりと中国の竹林

日本の代表的ファストフードで最も素朴なものと言えば、「おにぎり」を挙げなければなるまい。小学生のお弁当には欠かせないし、会社員たちもランチで愛用している。観光地に行けば売店で売っており、新幹線の車内販売のメニューにも入っている。

昔ながらのおにぎりは三角形で、外に一枚海苔が巻いてあるだけのものだった。だが最近、子供たちの食欲増進のために、あるいは夫への愛情を示すために、母たちも妻たちも頭を絞ってさまざまなアイデアをひねり出している。

数枚の六角形の海苔を貼り付けて作った「サッカーおにぎり」には、男の子たちが大喜びしている。おかかをご飯のなかに入れ、ご飯の白とおかかのコントラストが美しいおにぎりは、サラリーマンに人気がある。炊き込みご飯の五目おにぎりは、白いご飯が苦手な若い女性にも好まれる。また、三角おにぎりに飽きた家庭では、円筒形のものや小さな一口おにぎりなど、いろいろな形にトライしているそうだ。


さて、コンビニのローソンでは、春の新おにぎりを売り出した。その種類の多さには目移りしてしまいそうだ。中でも、新潟のコシヒカリを使用して作られた「たけのこおにぎり」には、何と大きな竹の子が一切れ入っている。この商品を製造している「おにぎり屋」では、おにぎり戦争の勝者となるために、去年のうちに中国の浙江省まで行って契約を交わし、広大な竹林に埋まっている「冬竹の子」を買い付けたのだそうだ。土の中から掘り出した「冬竹の子」は、春になって土を破って出てくる「春竹の子」に比べてずっと柔らかく甘く、値段は1.5倍も高くなる。この竹の子を鳥の油で軽く炒め、コシヒカリのご飯で包んで、瀬戸内海の海苔でくるんだという逸品である。

中国の竹林からやってきた「たけのこおにぎり」。その正統派の味が、日本の老若男女の味覚を楽しませている。
おにぎり奉行のおにぎり目録  http://www.tako.ne.jp/~a3-mori/onigiri.htm
 
先端技術・出版・雑学

本屋大賞の困惑

4月5日の晩、「2006年本屋大賞」が発表され、リリー・フランキーの「東京タワー オカンとボクと、時々、オトン」が大賞を受賞した。

本メールマガジンでも以前紹介したが、「本屋大賞」は芥川賞や直木賞のように作家や評論家が選ぶ文学賞と異なって、読者に最も近いところにいる書店員が選ぶというものである。彼らはまずそれぞれが「読んでおもしろかった」「もっとたくさん売りたい」本を3冊ずつ選び、その後10冊の候補作に絞り、最後にトップ3冊を選出する。

一昨年、初の本屋大賞に輝いた小川洋子の「博士の愛した数式」は、受賞前の販売数が9万8千部だったが、受賞後は一気に50万部を突破し、昨年末には文庫版が117万部に達した。去年の第二回で大賞を受賞した恩田陸の「夜のピクニック」は、受賞前の販売数が8万7千部だったが、現在はすでに25万部を突破している。今年の第三回大賞を受賞した「東京タワー〜」だけは、受賞前にすでに120万部を売り上げた大ベストセラーである。そのため、「本屋大賞は変わってしまった」という意見がある。もともとの「あまり知られていない作品を発掘するために創設した」という主旨に反するというのだ。別の見方をすれば、今年「東京タワー〜」が選ばれたのは読者の視点により近づいたとも言えるのだが、この賞自体の存在価値から言うと一つの冒険であることは間違いない。

この本を出版した扶桑社の目的は、「東京タワーの333メートルにちなんで、333万部売る」ことなのだそうだ。まあ、賞にこだわることなく、まずは読んでみましょうか?
(C)2006 Lily Franky

リリー・フランキー公式サイト http://www.lilyfranky.com/top/

 
イベント掲示板
日本のナンバーワ

最西端の島

日本最西端の島――与那国島。名高い「日本最西端の夕日」は、ここの西崎から見ることができる。天気がいい日には、111キロメートル離れた台湾も見える。島の周囲は27.5キロメートル、人口はおよそ1800人足らずである。

荒れ狂う波と「立神岩」などの荒々しい奇岩。与那国島には大自然の奇観が溢れている。ここには世界最大の蛾が生息しており、その羽は広げると180−240ミリメートルに達する。またこの島のそばには、巨大な海底遺跡が眠っている。1986年、海底で高さ40−50メートル、長さ200メートルの巨大な岩の階段が発見された。この階段の由来については諸説あり、一目見たいとやって来るダイビング愛好者が増えている。

与那国島の海水は澄み切っており、美しい珊瑚礁と奇怪な形をした海洋生物を観察することができる。また、黒潮に乗ってやってくるカジキを釣るのも、たいへんスリリングで楽しい。

与那国島では、日本唯一の60度を超える花酒(泡盛)を生産している。遥かに広がる波と向き合って美酒を味わうのも、多くの日本人にとって夢のように楽しいことなのである。

編集部からのお知らせ

「東京流行通訊」のブログが4月1日に公開されました。このメールマガジンに掲載されている話題のほかに、ブログ独自のコンテンツも続々登場いたします。どうぞ、お早めにアクセス

→記事も視点が新鮮で、いつも楽しく読ませていただいています。読み終わった後に、新しいことを知ることのできたちょっとした満足感を味わせてもらっています。【日本  KAGE

→ うちの妹は日本かぶれで、妹の影響で私も日本の流行に興味を持つようになりました。貴メルマガのおかげで、日本についてより広く深く知ることができます。今後もがんばってください!【台北県  kenny

→このメルマガがとても気に入っています!特に、日本の最新流行ファッションについてのニュースに興味があります。【武漢市  王NINA

→制限されたスペースの中で、何とかもっと情報量を増やすことはできないでしょうか?【済南  打破沙鍋問到底

→ 偶然「東京流行通訊」を発見して、大喜びしています!すぐにこの情報を友人達に伝えようと思います。【チチハル市  老辺

【お詫びと訂正】
先週19日発行の日本語版東京流行通訊第15号の「美女ロボットの誕生」の記事の中で、FTの体重が800kgとあるのは800gの間違いでした。お詫びして訂正いたします。

配信サイト
ALAYA
芸能・ドラマ・音楽

日中演劇交流 ― 鵜山仁と過士行の場合

東京・初台の新国立劇場で4月1日から13日まで「カエル」が上演された。中国現代演劇を代表する劇作家、過士行の新作を、鵜山仁が演出。鵜山仁氏は、文学座に所属し、芸術選奨文部大臣新人賞、千田是也賞、紀伊国屋演劇賞個人賞、読売演劇大賞最優秀演出家賞並びに大賞などを受賞した今の日本演劇界を代表する演出家の一人。去年の秋、紀伊国屋サザンシアターで上演された「朱鷺雄の城」でも好評を博した。

「カエル」は、海辺の理髪店で、理髪師と客が議論し、旅人が傍らで待っており、女が田植えを始めるうちに海面が上昇してきて店が水没する、というあらすじ。サミュエル・ベケットの「ゴドーを待ちながら」を思い起こさせるような不条理劇を、中国の劇作家が書いたというのが興味をひいた。ベケットなどフランス不条理演劇の流行は日本では70年代だったが、中国では80年代に流行り始めたとのこと。何も出来事が起こらないまま世界の終焉を暗示させるという終末観と、理髪師たちの話題に上る一茶の俳句という取り合わせがいかにも魅力的だった。この脚本を過士行氏に頼むに当たって、制作側から「アメリカの9.11事件と、インド洋の津波を思い起こさせるような事件を入れること、登場人物は6人以内」など、細かな注文があったそうだ。また、舞台では、オーストラリアのペット用カエルが8匹登場していて、それが大変高価なカエルだったという。舞台を実際に見た人は、「カエルは居たのはわかったが、どんなカエルか良く見えなかった。」というから、演出はなかなか難しかったようだ。中国でも上演される可能性はあるが、年内すぐにというわけではなさそうだ。

すでに鵜山氏は来年9月から新国立劇場4代目の芸術監督に就任することが決まっている。今回のような外国の原作を演出するような演劇の国際交流にこれまで以上に力を入れたいという。今から大変楽しみである。 (Nyanya執筆)
鵜山仁さん関連公演の劇評リンク
  http://homepage2.nifty.com/SayCorner/KansoLink/people/puyama.html
 
世相・若者の生き方

アリメールのアリバイサービス

「今夜飲みに行かないか?」こんな上司の誘いに、どうしても「ノー」と言えないあなた。「アリメール」について知ったら、大喜びするでしょうね。

アリメールは今日本で流行している新しいサービスである。顧客の設定した時間に、顧客の携帯電話に指定した内容のEメールを送ってくれるというものだ。何と至れり尽くせりのサービスではないか。

例えば、ぜんぜん興味がないのにどうしても出席しなければならない集まりがあった場合、会が始まって30分も経たないうちにあなたのケータイに「緊急事態発生、すぐ会社に戻れ」というメールが届く。そこにいる人たちにこのメールを見せれば、実に円満に抜け出すことができるのだ。

つまり、アリメールというのは、あなたのために「言い訳」のメールを代行してくれるサービスなのである。

というわけで、さっそく使ってみた。まずケータイで「アリメール」にアクセスして、会員登録をする。そして専用のメールアドレスに「田中部長」「母親」などの名前を登録しておけばOK だ。70あまりの「言い訳」メールから自由に選択して、受信時間を設定する。さて、10分経ったら、「母親」からメールが届いた。「今日は家族会議よ。忘れたの?」これをそこにいた友達に見せたら大笑いされた。「昼間っから家族会議かよ。おい、早く帰れよ。」

どう?すごいでしょう?

この定型の「言い訳」を使うだけなら無料である。自分で書いた内容や、録音を流す音声通知サービスを利用する場合は、毎月315円支払う必要がある。現在この「アリメール」の会員は5000人を超えており、その中には女性からメールが来たといつわって、自分に魅力があると見せかけている男性もいるのだそうだ。くれぐれも、ばれないようにご用心あれ! (本文は雑誌「R25」の関連する文章をリライトしたものである)
アリメール公式サイト http://arimail.jp/pc/
 
編集後記

日本語は難しい。あまりの難しさに、途方にくれることもある。

日本で何年も苦労の日々を過ごしたとしても、他人の言葉を一生懸命まねて勉強しても、日本語を完璧にすることは至難の業だ。

永遠にからみ合っているかに思える複雑な格助詞、副助詞、終助詞。いつもめまいを感じさせられる未然形、連体形、命令形……、あれこれと考えをめぐらして、よし理解できたと実感しても、胸いっぱいに溢れる思いを日本語にしようとすると、言葉はたちまちひどく単調な調子になり、まるで小学生の作文のようになってしまう。怒って文句を言っているときでも、たどたどしい日本語のせいで相手の笑いを誘ってしまう。

日本語は、気高く傲慢な女神のようで、我々の胸にはなかなか簡単には飛び込んできてくれない。

十年前から、中国語を学ぶ日本のお年寄りのグループと付き合っているが、偶然に彼らの書いた作文をまとめた五冊の文集を見る機会があった。最初のころはまるで金銭出納帳か備忘録のように平板な中国旅行記が並んでいるのに、最近のものはなかなかしっかりした中国文化探訪の論述になっている。ある老婦人は感慨深くこう言った。「中国語をしっかり勉強したいんです。中国語は世界で一番美しい言語ですから。」そうした言葉に出会うたびに、心を動かされる。

だが、日本語こそ世界で一番美しい言語なのではないだろうか。五千年の歴史を持つ偉大で豊かな中国文化が、大和民族の純朴で勤勉な精神の中に浸透している。夏目漱石、川端康成から、大江健三郎、村上春樹まで、日本語というひときわ高くそびえる大樹は、数え切れないほどのすばらしい成果を残してきた。

中国語が雄壮で偉大なシンフォニーであるとすれば、日本語は豊かな表現力で人をひきつけるセレナーデである。

運命の巡りあわせで、日本語が第二の母語となったからには、それに立ち向かう以外に選択肢はない。たとえ一生をかけて努力しても、あるいはその片鱗に触れることしかできないかもしれない。しかしあの中国語を熱心に学ぶ日本のお年寄りたちが、くもりのない鏡のように無言で真理を照らし出してくれる。全身全霊で日本語という世界で一番美しい言語を感じ取らなければならないということを。