上海の女性車掌 (日本)鉄人52号
上海の乗り合いバスは路線によっては運転手一人のワンマン
カーもあるが、大概は車掌が乗っている。車掌は女性の場合が多く、運転手は男の方が
多い。
車掌の席は後方出入り口の近くと決まっていて、どんなに
込み合っても客が座ることは許されない。一見切符のモギリと料金徴収だけの単純労働
に見えるが、これで中々経験を必要とする仕事なのだと最近分かった。まずバス停に着くと我先に乗り込んでくる客の顔を瞬時に覚えなきゃならない。空いていれば器用に
乗客の間をすり抜け、新客の料金を徴収するが、かなり込み合ってきてそれも無理と
判断すると、定位置から大声で怒鳴る。
「あんたとアンタ払ってないョ!」
そうするとよくしたモンで、客から客へと手渡しで小銭が
運ばれてくる。お釣りがある場合は又この流れの逆で戻って行く。
自動車車線が青になったら、道の中央に人影があろうと徐行する
気配などまったく見せず、ビュンビュン飛ばして来る。こちらはまさに前門の虎、
後門の狼状態。目の前を行き交う車の風圧も相俟って、髪も逆毛立つ恐怖の数分間で
ある。こんな調子だから路線バスも右折の場合、並み居る自転車軍団を押し退けて、
強引に割り込んで曲がらなければならない。この時がもっとも女性車掌の見せ場でも
ある。
「当心!当心!(危ないぞ!どいて、どいて!)」
バスの横っ腹を素手でドンドンと叩き、声を限りに叫ぶ。
時には赤い布切れを振ったりもする。バスは小奇麗に変わり近代的になったが、
やってる事は以前と大して変わっていない。
朝の出勤時間帯と夕方を除けば、昼間はバスの中も割と空いて
いる。
女性車掌の座席前には備え付けの小さなボックスがある。昼時に
なるとそこの引き出しからおもむろに弁当を取り出し、乗客が居ようと平気で
頬張りだす。周囲の顔色を窺うことも無く、これだけざっくばらんと自由に仕事が
出来たらどんなに楽しいだろうと・・・・・・おっと、食後のミカンまで剥き出した
ぞ。
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