メルマガ:仇花の記憶〜ショタやおい雑話〜
タイトル:仇花の記憶 05/08/10 96号  2005/08/10


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仇花の記憶〜ショタやおい雑話〜

第二巻弐拾弐回 分別
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御機嫌よう。葡萄瓜でございます。
ではゆるゆると綴らせて戴きましょうか。

JUNE・耽美・ボーイズラブ・やおい…境界線が
はっきりしている様で時々曖昧になっている此
れ等の区分を今回は御肴に。
先ず、やおいの定義には広義と狭義があると言
う事を最初に申し上げます。
広義のやおいとは同性間交歓を描く作品全般を
示すもの。同人誌「らっぽり」【註1】誌上にて
定義されたものでございますね。その下位概念
として狭義のやおい、キャプテン翼同人誌ブー
ム以降に定義された男色風味パロディ・二次創
作と言うものがあります。現在「やおい」と言
われて皆様が連想するのがこの狭義のものでは
無いでしょうか。広義のやおいからはもう一つ
の流れとして一次創作も発生しておりますが、
こちらには明確な名前が付けられていなかった
様です。それ等の内小説群は後に『耽美小説』
と名付けられ【註2】、その派生から漫画やイラ
ストも耽美と呼ばれたりする様になりました。
JUNEの場合、先述の流れとは異なった流れの中
で成立していた様です。雑誌「JUNE」周辺でそ
の美意識にそぐう世界観を持つ作品群、として
形成されてきた様です。耽美的な観点を持つ創
作としての同性愛、とも言うべきものでしょう
か。
ここで問題になりますのは、ボーイズラブはJ-
UNEと耽美いずれの流れの延長線上で発生したか
と言う事です。
筆者が資料を集めた上で考えますに、ボーイズ
ラブの流れは耽美と共に在った様に思われます。
初期の「ボーイズラブ」と言う語はほぼ「耽美」
の言換え語として存在致しましたし。【註3】
JUNEは、時代が変わってもJUNEで在り続けまし
た。JUNEの名の下に全ての作風が収斂され、一
つの美意識として再構成されていたと観るべき
ではなかろうか、と思われます。
耽美とボーイズラブの距離を少しずつ遠ざかっ
て行ったのはJUNE以外の勢力が打ち込んでいっ
た楔による、と考えた方が妥当でしょう。

では、耽美からボーイズラブへの移行があった
と言うのは何時頃と考えるべきか。此処で或る
作品を取り囲む状況の変遷をサンプルとして御
覧戴きます。

「ベイシティ・ブルース」
神崎春子(現;神崎竜乙)作

筆者の手元には三つの版が存在します。
・ロマンJUNE掲載『シャドウ・ハンター』
 (88.10.5発行/サン出版)
・VelvetRomanシリーズ 
 新書上製/92.12.25初版/二見書房
・CHARADE BOOKS
 新書/95.10.25初版/二見書房
面白いのは、この三つの版では意義付けがそれ
ぞれ違うと言う事です。
ロマンJUNEと言うのは誌名からお判りの通りJ-
UNEの系列雑誌【註4】です。ですから区分とし
てはJUNEに該当致しましょう。
そして二見書房のVelvetRomanシリーズ。これは
勁文社及び白夜書房のシリーズに続き耽美小説
叢書の基礎を固めたシリーズです。
そして最後の二見書房CHARADE BOOKSと申します
のは、ボーイズラブノベルズと明確に打ち出し
た先駆けのシリーズではなかったか、と史料上
からは読み取れます。
JUNEから耽美に移る迄の四年間、そして耽美か
らボーイズラブに移る迄の三年間。その合計の
七年間、神崎春子と言う作者の描き出す世界の
理念は少なくとも変わっていない様に思えます。
変わったのは周囲の状況でしょう。
JUNEの中で通じていた美意識だけでは物足りな
いと言う感覚から少し開かれた「耽美小説」の
世界がうまれ、更に耽美小説の中に流れていた
「同性同士と言う枷」と言う通奏低音を取り払
う形でボーイズラブと言う世界が発展する。大
雑把に説明するとこうなろうかと思われます。
そう言う事から考えてみますと、二見書房から
「CHARADE」と言うレーベルが発足した辺り【註5】
が現在のボーイズラブの起点である、と捉える
のが妥当ではないか、と。
この辺りの状況説明が曖昧になっているものだ
から徐々に区分の境界も曖昧になってきたので
はないか、と筆者は思ってしまうのですが。

さて、此度はこれにてとりあえず筆を擱かせて
戴きます。次号まで、御機嫌宜しゅう。
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註1
『らっぽり やおい特集号』
らっぽり編集事務局/波津彬子:責任編集
79.12.20初版

小説JUNE 2001年3月号 に再録。
No.129/01.3.1発行/マガジンマガジン 

註2
公称される様になり出したのは1991(平成3)
年12月、勁文社より『耽美小説SERIES』が刊
行されだしてから。
それまでは個別の作品のコピーとして「耽美
小説」坏と用いられていたりした。

註3
comicイマージュ及び小説イマージュ(白夜
書房)のキャッチコピーとして〈BOY'S LOVE〉
が提唱されていたが、版元サイドでは同誌に
掲載されていた作品群、及びその周辺の作品
群を〈耽美〉と認識していたらしい。

註4
正確には「小説JUNE」の増刊。

註5
雑誌「CHARADE」創刊 94.3.1
CHARADE BOOKS創刊 94年11月?
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仇花の記憶〜ショタやおい雑話〜
第二巻弐拾弐回 2005.8.10発行

文責:葡萄瓜XQO
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