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タイトル:仇花の記憶 05/04/10 83号  2005/04/10


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仇花の記憶〜ショタやおい雑話〜

第二巻拾回  やおいことば来歴(壱)
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御機嫌よう。葡萄瓜でございます。
ではゆるゆると綴らせて戴きましょうか。

今回と次回のお題はやおいの言葉に関する歴史
の補足です。やおいと言う言葉が定義されて以
降・ボーイズラブ定着迄の事を年を追いつつ少
し振り返ってみたいと思っております。
お浚いの部分もございましょうがご容赦下さい
ませ。

「やおい」と言う言葉の内容が初めて定義され
明文化されたのは1979(昭和54)年12月20日に
発行された同人誌『RAPPORI やおい特集号』誌
上の事である、と言う史実が人口に膾炙されて
久しいと思います。ここに於いて「山なし・落
ちなし・意味なし」がやおいの語源であるとと
りあえず明文化され、後に定説化された訳でご
ざいます。
この時点でやおいが発祥した訳ではありません。
定義と語源が明文化された最初と言う訳でござ
いますね。其の事はこの本に収録の同誌同人座
談会でも言及されております。そしてもう一つ
言及しておけばこの定義の時点での〈やおい〉
にはアニメパロディと言う意味合いは含まれて
いなかったと言う事です。
その時に定義された〈やおい〉とは、今の言葉
で言うと〈耽美〉若しくは〈JUNE〉と呼ばれる
べきものでした。『JUNE』の創刊間もない頃【註1】
でもございますし、影響が皆無だった、とは申
しません。
今日の状況から言いますと、この〈やおい〉と
は広義の定義であろうかと察せられます。そう
言うテーマの下に製作された作品全般を包括す
る、そう言う感じでございますか。

そして、〈やおい〉は通若しくは通ぶる人々の
間でのみ交わされる言葉になっていきました。
少なくとも、往時の状況を資料で見る限りは今
日の様におたく以外の人々にも膾炙される兆候
は微塵も無かった様に思えます。
其の状況を変えたのが、同人誌界に於けるキャ
プテン翼ブームでした。1980年代後半の事です
ね。このブームの中に参加していたあるサーク
ルが今日の意味合いでのアニメパロディとして
〈やおい〉と言う語を用い始め、そこから伝播
したと伝え聞いております。
ただ、それだけが今日に至る状況の全ての説明
になるか、と言えばかなり無理があります。其
の当時の同人誌市場と言っても今日とは桁が違
うでしょうし、第一即売会も規模が違います。
ここで忘れてはいけないもう一つの媒体があり
ます。同人誌アンソロジーと言う存在です。
同人誌界で話題を呼んだ諸作品が傑作選と言う
形で編まれ、そして商業出版市場で流通する。
今日では当たり前の手法なのでしょうが、当時
の漫画同人誌発の動きとしては画期的な手法で
は無かったでしょうか?
そこに追い風を送る様に聖闘士星矢のアンソロ
ジーも編まれる様になります。言うなれば競合
と言う形でございますか。
そして更に追い風として、ふゅーじょんぷろだ
くとの独占市場であったアンソロジーと言う土
俵に青磁ビブロス(現BIBLOS)が参入し、花を
添える様になりました。
ここまでの要素が揃うに至り、〈やおい〉の認
知度は良くも悪くも上がったと考えられます。
そう。今日で言う〈やおい〉の定義…男性キャ
ラクター同士を絡ませるアニメ・パロディ…が
為されたのはこの時期であると言えます。狭義
の〈やおい〉でございますね。
ここで生まれた原動力が後に様々に発展してい
く事になるのです。今日の意味合いの〈耽美〉
と言う定義が生まれたのも実はこの時代以降の
話だと推測されるのです。
一方その頃、オリジナル作品耽美作品の牙城で
あった『JUNE』周辺にも微かに動きはあった様
です。『小説JUNE』1988(昭和63)年12月号
(通巻34号)の表紙には「J.NOVEL」と言う文字
が躍っております。『JUNE』創刊10周年【註2】
の節目の意気込み表明だったのでしょうか?この
「J.〜」表記、小説のみならず漫画や映画にも
適用されていた様です。が、惜しいかな余り根
付かずに暫く使用された後に看過されてしまっ
た様です。
歴史を語る際のもしは禁句なのでしょうが、こ
の時点以降「J.〜」と言う表記が広く定着して
いたならば、この方面の展開もまた少し違った
様相を見せたかも知れません。
因みにその時期からほぼ十年を経た後の90年代
終盤に当時の日本文学の流れを形容する言葉と
して「J文学」なる呼称が提唱されていたと筆者
は記憶しております。こちらも現在Web検索で探
す事がやや困難な語となっている様です。
「J.〜」表記と「J文学」。この二者に因縁は無
いとは思うのですが。

さて、狭義の〈やおい〉が成立し、定義が固ま
った事で同人誌作成に参加される方は格段に多
くなったと拝察されます。取り扱い作品(ジャ
ンル)も多くなり、又それに伴うアンソロジー
も多く編まれる様になりましたし。
其の一方で、オリジナル作品:殊に小説を書か
れる方にとっての劇的な状況変化も起こってい
たのでございます。「J.〜」に代わる、今に伝
わる変化が。

この続きのお話は、次回配信分4月20日の回にて
させて戴くと致しましょう。
では、此度はこれにてとりあえず筆を擱かせて
戴きます。次号まで、御機嫌宜しゅう。
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註1
1978(昭和53)年。創刊時の名称は『コミック
JUN』。第3号より『JUNE』に誌名変更。当時の
版元はサン出版。

註2
なお、創刊10周年記念企画として『カセットJUNE』
を製作すると言う運びになり、製作中であると
この号に記載されている。
乱暴に言うならばこの企画からBLドラマCDの歴
史が始まったとも言えるのではないか?
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仇花の記憶〜ショタやおい雑話〜
第二巻拾回 2005.4.10発行
(2005.3.19脱稿)

文責:葡萄瓜XQO
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