メルマガ:ニューヨーク・ブラックカルチャー・トリヴィア(ハーレム)
タイトル:NYBCT#297/日々の考察・黒人篇  2004/08/14


今回はロングバージョンです。
miniバージョンは【原則・月水金】にお届け。
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         New York Black Culture Trivia #297
    ニューヨーク・ブラックカルチャー・トリヴィア

        ベスト・オブ「日々の考察」

           2004/08/14
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 こんにちは、みなさん。日本はお盆休みで、しかもオリンピック
ですね。

 さて、私のウエブサイトにはブラックカルチャー以外のことをテ
レテレと書き綴っている「日々の考察」なるコーナーがあるのです
が、たまにはブラックカルチャー・ネタも書いてしまっています。
そこで今回は今年上半期に書いたブラックカルチャー・ネタ8本を
お届けします。

日々の考察
http://www3.diary.ne.jp/user/310766/


■2004/01/10 (土) NYのワースト高校

 ニューヨークの公立学校は荒れ放題。最近は日本の学校も怖いら
しいけれど、その怖さのレベルがちょっと違う(と思う。)なんと
いっても入り口に金属探知器があり、警備員がいるわけです。

 そんな状態にニューヨーク市長がとうとうキレて、「ワーストス
クール12」を発表し、その学校にめったやたらな数の警官を配備
させた。

 若い黒人警官が「生徒はお巡りのことなんか屁とも思ってないね」
と言ってた。どういうことかと言うと、現行犯逮捕でない限り、警
官は子どもに手出しできないのだ。「なにか悪いことをやっていそ
う」というだけで手荒なことをしようものなら、逆に児童虐待とか、
人権無視で訴えられる。

 他にもいろいろ問題があって、今回の措置の善し悪しがいろいろ
と議論されているけれど、それは置いておくとして、その公立高校
&中学校ワースト12に、なんとハーレムの学校がランクインして
いないのである。驚いたでしょ。

 12校のうち、6校がブルックリンにある学校、4校がブロンク
ス、1校がクイーンズ、最後の1校はマンハッタンのロウアーイー
ストサイド。

 ワースト20くらいまで広げると、さすがにハーレムの学校も入
ると思うけれど、日本で「ハーレム、めちゃくちゃ怖そう!」とか
言われているのが間違った先入観だということの証明ですね。



■2004/01/08 (木) 黒人の方(かた)はコワい

 あるウエブサイトの掲示板で面白い書き込みを見つけた。ニュー
ヨークのブルックリンについての表記。

> 黒人の方ばかりで怖い雰囲気でした。

 むむむむ…。なんとも言えない微妙な日本語。

 そもそも、「方(かた)」とは、「人(ひと)」の丁寧な言い方
だから、「黒人の方」はオカシな二重表現。

 それに、発言者がブルックリンを怖いと思ったのは、そこに居た
のが黒人ばっかりだったからのようで、それならば「黒人の方」っ
ていう丁寧な言い方はヘン。この人にとって黒人はネガティブな存
在だったわけだから。「犯罪者の方ばかりで怖い雰囲気でした」と
は言わないでしょう、この人も。

 要するに「黒人は怖い」けれど、「黒人を黒人というだけで差別
してはイケない」というポリティカリー・コレクトを知っている。
しかも「黒人」という言葉自体に差別的な響きがあると考えている
人も多い。だからこんなヘンな表現になっちゃったんでしょうね。

 ちなみに、その人が怖いと言ったブルックリン。かなり広い区な
のでいろんなエリアがあり、ブルックリンというだけで「怖い」と
いうのは大間違い。けれど中には確かに「荒っぽい」場所もありま
すです。はい。



■2004/02/08 (日) ヤムルカとスイカ

 ニューヨークのエリート高校同士のバスケの試合があった。一校
はユダヤ系、他方はアフリカンーアメリカン。試合が盛り上がって
きたときに、アフリカンーアメリカンの応援団が「ゲフィルトフィッ
シュ!」「ヤムルカ! ヤムルカ!」と叫び出し、これが大ごとに
なった。

 ゲフィルトフィッシュとはツミレみたいなユダヤ料理で、ヤムル
カはユダヤ教の男性がかぶっている小さなお皿みたいな帽子。

 ユダヤ系の生徒の父親は「わたしたちが『スイカ』『カラードグ
リーン』などと言えば黒人は人種暴動を起こしたはずだ」と怒り心
頭。ちなみにスイカ、カラードグリーンはアフリカンーアメリカン
の好物。

 このお父さんはポイントをついている。「黒人だけが他人種、他
エスニックを揶揄できるライセンスを持っている」問題ですね。

 黒人は奴隷制と人種差別でさんざんな思いをしてきたし、白人は
加害者なので、白人は黒人をからかえない(少なくとも公の場では)、
けれど黒人はなんでも言える、という状況がアメリカにはある。

 いずれにせよ、これはマイノリティ同士の話ではある。白人アメ
リカ人に向かって『コーク!』『ハンバーガー!』と叫んでも全然
嫌みにならないし。あ、でもイタリア系に『スパゲッティ!』とか、
アイルランド系に『ジャガイモ!』とかいうと、やっぱりケンカに
なるか。

 難しい国です、アメリカ。



■2004/02/18 (水) 気の重くなる話だけど現実。

 先月、ブルックリンで19歳の黒人青年が白人警官に撃たれてな
くなった。青年は自宅アパートの屋上にいただけで、犯罪者ではな
かった。

 先週、クイーンズで中華料理の配達をしていた18歳の中国系青
年が、16歳の黒人少年ふたりに強盗殺人された。

 最初の件では、黒人たちは「白人警官による虐待はもうたくさん
だ」と言った。次の件では中国系移民たちが「声を上げることの少
ない私たち移民だが、これは許せない」と言い、その裏には「いつ
も被害者ぶっている黒人だが、おまえたちは加害者でもある」とい
うニュアンスがあった。

 中華料理の配達員はよく強盗に遭っている。殴られたり、刺され
たり、撃たれたり、最悪のケースでは今回のように殺されたり。加
害者はたいてい黒人かラティーノだ。



■2004/04/02 (金) NYPDブルー

 ブロンクスのプロジェクト(低所得者用公営アパート)のロビー
で、そこに住んでいた若い黒人男性が銃で自分を撃って自殺した。
ロビーにはNYPD(ニューヨーク市警)が設置した防犯用の監視カ
メラがあって、自殺の模様も撮影されていた。

 後日、その自殺シーンがインターネットに流れた。

 NYPDのカメラなのだから、テープにアクセスできるのは警察勤
務者だけのはず。



■2004/05/02 (日) 晴天の日のハーレム

 NY Streamというストリーミング映像サイトで、わたしのハーレ
ム・ウォーキング・ツアーを取材していただいた。その日はお天気
もよく、取材先の店の人たちもみんなよくしてくれて、楽しい仕事
となった。
http://www.nystream.net/tourism/harlemtour/index.html

 ハーレムほど天気によって雰囲気が変わる街も少ないかもしれな
い。青空が広がると、空間の広く取られた街の造りが際立つ。歩い
ていて、のんびり、ゆったりとした気分に浸れるのだ。

 取材の前日にツアーがあり、男性客ふたりと、ハーレムいちばん
の廃虚エリアを歩いていたときのこと。通りの右側にはガラスの無
くなった真っ黒な窓枠が目立つガイコツみたいな廃虚が並ぶ。けれ
ど左手側には公園があり、ベンチにはお天気が良いのでお年寄りが
数人座っていた。街路樹は春になって緑の葉っぱをつけているし、
そこから木漏れ日が差している。

 そんな複雑な風景を前にして、お客さんは「ハーレムって思って
いたより良いところだなあ」と言った。


追記:読み直して気づいたけれど、ブルックリンやブロンクスでの
事件についてたくさん書いている。「ハーレムの方が安全」を強調
するために意図的に書いているわけでは決してない。日々の事件を
拾うと必然的にこうなる。


■2004/06/11 (金) 合掌〜レイ・チャールズ逝去

 レイ・チャールズが死んじゃいました。73歳だったそうで。

 「えー、そうかー、死んじゃったかー。歳だし、仕方ないけど、
なーんか残念」。ネットで第一報を見たとき、そんな気持ちになった。

 生涯を通じてクールだったってうか、いい味出してたよねぇ。映
画「ブルースブラザーズ」での、ゲットーの楽器屋の店主役なんか
サイコーだった。盲目なのに、少年が万引きしようとしているのが
ちゃんとわかっててピストル撃つシーン。「ヒッーヒッヒッ」とか、
肩をゆすって笑ってなかったか?

 天国でも肩ゆすりながら神さまに「ヒッーヒッヒッ」と笑いかけ
つつ、楽しくピアノ弾いて、歌いまくってください。合掌。



■2004/06/12 (土) いろんなレイ・チャールズ

盲目のハンディを抱えながら米ソウルミュージック界の伝説的歌手
盲目の歌手
盲目の伝説的ソウル歌手
盲目の天才ミュージシャン
歌手のレイ・チャールズさん
米国の国民的ジャズ歌手
米国の歌手
ソウル音楽の大御所として知られる天才歌手
ソウルミュージックの草分け
ジャズ、ブルース界の偉人
ソウル・ミュージック歌手
ソウル歌手
伝説的歌手
カントリー、ブルース何でも来い
ソウル、R&Bから、ジャズやゴスペル、カントリーなど、幅広い
音楽の才能

 以上はすべて「レイ・チャールズ死去」を伝える日本のネット記
事からの抜粋。あらゆるジャンルをやった人なので、ライターさん
もそれぞれの表記をしています。

 ライター仕事をやっていると、自分の全然知らない人物のことも
書かなくてはならないことがある。そういう場合どうするかという
と、海外メディアと特約している日本のメディアに属している場合
は、海外から来たニュースを翻訳。特約してない場合も勝手に参考
にさせてもらいます。だって知らない人のことは書きようがないから。

 「ほー、この人、盲目だったのか。じゃ『盲目のハンデを乗り越
えて……』と。へー、いろんなジャンルを歌ってたんだ。じゃ、
『ソウル、ジャズ、ブルース歌手』と。」

 このライターはレイ・チャールズが歌だけじゃなく、ピアノを弾
き、曲も作っていたことや、カントリーまで取り入れていたことは
気にかけない。それに「盲目のハンデを乗り越えて」なんて本当の
ことだけどレイ・チャールズへの手向けの言葉にはふさわしくない。
そんな苦労人みたいなこと、本人も言われたくないだろうな。

 逆にライター自身がたまたまレイ・チャールズのファンだった場
合は、妙な思い入れが入っちゃいます。「『歌手であり、ピアノ奏
者であり、ソウル、ジャズ、ブルースからカントリーまで実に幅広
くアメリカのポピュラー音楽を…』…ありゃ、文字数が足りないよ。
仕方ない『天才』としておこう。だって本当に凄いミュージシャン
だったんだから」 これは「愛」ですね。ヒッ−ヒッヒッ……合掌。



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