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■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■ New York Black Culture Trivia #241 ニューヨーク・ブラックカルチャー・トリヴィア リトル・ブラック・ブック 黒人男性が抱える問題 2004/03/28 ■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■ 手もとに『リトル・ブラック・ブック』という、10センチ四方程度の 小さなブックレットがある。表紙は黒で、タイトルが白抜きで印刷され ているだけのシンプルな装丁。ニューヨーク・ブルックリン在住のキャ ロル・テイラーという人権活動家の女性が、1985年に自費で出版した ものだ。 表紙をめくると、そこには「アメリカで黒人男性が生き残るために。 もしくは構造的な人種差別社会で健康に生きるために」と書かれている。 本文の出だしは「ルール1:もし警察に呼び止められたら、決して逃 げるな」 通りを歩いていて警官に不審尋問のために呼び止められ、それを振り きって逃げようとして背中を撃たれた黒人男性は実際に存在する。数年 前にも、やはり警官を振りきって逃げようとしたティーンエイジャーが 射殺された。手にミルキーウェイ(チョコレートバー)を持っていたた め、警官は「夜間で暗かったため、それを拳銃だと思った」と証言した。 こういった事態を避けるための普段の心がけ、もしくは逮捕されてし まった場合の「名前と住所以外は黙秘し、弁護士の到着を待つべし」と いった指示が「ルール2」「ルール3」……として延々と書かれている。 中盤には「ルール19:食事の際のワイン以外はアルコールを飲むな」 「ルール20:ドラッグには手を出すな」といった日常生活の心がけが書 かれている。後半には「ルール28:読み書きを学び、標準英語を話せ。 (=黒人英語を使うな) そして大学に進学せよ」とある。「大学進学」 の部分にはアンダーラインが引かれている。ニューヨークのような都市 部では、大学の卒業証書がなければオフィスワークに就くことは難しい。 高卒でしかもなんの技術もなければマクドナルドの店員などサービス業 につくしかない。これでは出世と収入に限界があり、安定した人生設計 を立てることができないのだ 最後には「もし、あなたが以下のことを行っているならば、(1)あ なたは自分自身の敵であり、(2)同胞ブラザー&シスターの敵でもあ る」とある。「以下のこと」とは「ドラッグ、飲酒、銀行強盗、(他人 が身に付けている)ゴールドチェーンのひったくり、レイプ、脅し、地 下鉄内でつばを吐くこと、幼児性的虐待、避妊もせずに女性を妊娠させ るために追い回すこと、そうやって生まれてしまった子どもの面倒をみ ないこと、妻や恋人を殴ること、子どものお菓子を取り上げることから 殺人まで」 ・・・・・ このブックレットが1985年に出版されてから約20年が経った。昨日、 テレビでニューヨークのローカルニュース局NY1を見ていると、ケヴィ ン・パウエルというライター兼人権活動家である若い黒人男性が、黒人 男性の抱える問題を話し合うためのミーティングと、解決するためのワー クショップを開くというニュースがあった。 ミーティングは「The State of Black Men」と名づけられている。こ の場合の「State」とは「状況、状態、在り方」といった意味合いで、つ まり現在の黒人男性が置かれている社会的状況と、そこから派生する黒 人男性自身の精神的な在り方の両方を指しているものと思われる。 ニュースでは、ミーティングが開かれるブルックリンの街頭で、通行 人の黒人男性たちに「黒人男性はどんな問題を抱えているか、どんな問 題を話し合いたいか」とインタビューをしていた。答えは「ドラッグ、 失業、教育の欠如、犯罪、警察による暴行」だった。 統計によると、ニューヨーク市の就労可能年齢(16〜64歳)の黒人 男性の失業率は48%。つまり黒人男性の半数は無職なのだ。ハーレムの ストリートを歩けば、平日の昼間でも異常にたくさんの男性が佇み、あ るいは歩道に持ち出したイスに座って世間話をしている光景を見ること ができる。 全米に於ける黒人の人口比が13%であるのに対し、逮捕歴のある者全 体に占める黒人の比率は30%、実際に刑務所に入った者全体に占める黒 人の比率は41%(これは、黒人に比べて他の人種は逮捕されても刑務所 行きを免れるケース(裁判で無罪となる、懲役刑ではなく執行猶予など の軽い刑罰を受ける)が多いということか) このままで行けば近い将来、黒人男性の3人にひとりが投獄経験者に なるという。 ミーティング主催者は「われわれ黒人男性は6つの要素を高める必要 がある。政治的パワー、経済的パワー、文化的パワー、精神的パワー、 そして健全な内面と、健康な肉体」 1985年に『リトル・ブラック・ブック』は警察による不審尋問に対 する備えを記載したが、2004年、黒人男性はいまだに「警察による暴 行」を憂えている。1985年に『リトル・ブラック・ブック』が犯罪に 手を出すなと警告したにもかかわらず、2004年、黒人男性の3人にひ とりが刑務所に入ろうとしている。1985年に『リトル・ブラック・ブッ ク』が大学に進め(=安定した職業に就け)とアドバイスしたにもかか わらず、2004年、黒人高校生の中退率は50%前後に達している。 黒人男性を取り巻く状況と、黒人男性の精神性=「ステイト・オブ・ ブラック・メン」は、この20年で、いったいどれほど変わったのだろう か。 ※この記事はHPにもアップしてあります。そちらには写真もあります http://www.nybct.com ================================ ■■■ お知らせ ■■■ 以下の記事を執筆しました。ぜひ読んでみてください。 ● U.S. FrontLine4月1日発行号(在米邦人向け・日本語週刊誌) 巻頭特集「Love & グリーンカード〜女が語る国際結婚」 日本人女性がアメリカ人男性との結婚を考える理由は? アメリカに暮す7人の女性へのディープなインタビュー集 ※東京の有隣堂書店でも販売します http://www.nybct.com/8-profile_yurindo.html ※入手希望の方は有隣堂もしくは以下に問い合せてみてください U.S. FrontLine News Inc. toiawase@usfl.com(日本語) http://www.usfl.com(日本語) ================================ お知らせ 連載エッセイ「125th Street, Harlem」 ファッション雑誌 LUIRE(ルイール) リットーミュージック刊 5月号(3/26発売) 「ヒップホップを聴かないハーレムの若きアーティスト」 ================================ お知らせ リアルなハーレムを体感できる【ハーレムウォーキングツアー】 http://www.nybct.com/11-tour.html ================================ 発行人:堂本かおる Keidee@earthlink.net バックナンバーはホームページで http://www.nybct.com ================================ ■登録/解除の方法 http://www.nybct.com/7-5.merumaga.html http://www.mag2.com/ このメールマガジンは上記URLよりいつでも登録/解除可能です。 ================================ |