メルマガ:風のひとり言――マスコミの裏を読む
タイトル:「風のひとり言――マスコミの裏を読む」第38号  2004/01/29


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         「風のひとり言――マスコミの裏を読む」vol.38
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□■□ 「風のひとり言」その38□■□-----------------------------------
「裁判員制度は必要なのか?」
国民はホントに
知っているの?

 これまで余り大きく取り上げられることはなかったと思うのですが、今週2
7日の各紙朝刊には「裁判員制度の骨格が固まった」ことが、大きく報じられ
ています。一面で取り扱った新聞もいくつかありました。

 私はこれまでにも何回か、この問題について意見を述べています。改めて自
分のスタンドポイントを明らかにしておくと、根本にあるのは「果たして、今
の日本にこの制度は必要なのか、馴染むのか?」という疑念。ただ一方で、制
度そのものの理念に反対する理由は、全く持ち合わせてはおりません。

 そもそも、この問題を深く考えたことのある人というのは、それほど多くは
ないのではないでしょうか。以前も言及しましたが、いくつかの世論調査によ
ると、そもそもこの制度づくりが進行していることを知っているのは、対象者
の4割弱。知らない、とする人の方が多い。また、制度が導入されることを前
提にしても、「自分が人を裁くことには不安がある」とする人が6割ほどいて、
しかも自分が被告の立場ならば、「職業裁判官に裁かれた方が良い」とする人
の方が多いのです。ちょっとセンセーショナルな結果だとは思えませんか?

 まぁ、背景には制度に対する理解不足もあるでしょうから、ごくごく簡単に
制度の輪郭に触れておきます。

 裁判員制度は2001年6月、政府の司法制度改革審議会が「司法への国民
参加を実現する」として提言。翌年の3月に閣議決定されて、導入が既定事実
になりました。その後、政府の検討会や与党のプロジェクトチームが検討を重
ねてきましたが、昨年末からの中身の濃い議論で秘密の保持に関する検討や、
構成メンバーの員数についての自民・公明両党の対立などが浮き彫りになった
ところです。

 これまでの議論のポイントを細かく述べる前に、話を分かりやすくするため
に今回決まった与党合意の中身を箇条書きにしておきましょう。(1)合議体
は裁判官3人、裁判員6人。一部の事件は裁判官1人、裁判員4人で審理が可
能となる(2)対象は最高刑が死刑、無期懲役の罪のほか、故意に被害者を死
亡させるなどの重大事件(3)裁判員は20歳以上の国民から無作為に抽出。
病気・仕事・育児・介護などの理由で辞退できる(4)裁判員の氏名、住所な
ど個人情報は非公開(5)評議の経過について裁判員は守秘義務がある。違反
の場合は懲役刑か罰金(6)評議は合議体の過半数による多数決(7)控訴審
は裁判官のみの構成とする。(今回の裁判員制度に関する記事は、朝日が断然
詳しいので、要約は朝日を参考にさせてもらいました)

報道の自由との関係は
重大な懸念に

 裁判員制度が司法制度的にどのような意義があるかについては、この際詳し
く触れるのは措いておきましょう。要は「裁判を国民に開かれたものにしまし
ょう」ということです。ポイントだけ、述べておきます。

 まず、私の立場からすると導入以前の問題として、果たしてこの制度がきち
んと機能するのかとの危惧があります。理由は、(1)国民に理解が不足して
いること(2)果たして自分の時間を犠牲にしてまで、協力的になり得るだろ
うか(3)知り得た事実を“墓場の底まで”持っていくことは可能か――など
です。さらに言えば、私はまだ国民に「社会の枠組みの中での個人の責任と自
覚」や「罪と罰に関わる人間の原罪に対する想念」が不足しているように思う。
しかして、判断が情緒に流される危険性があるように思えるのです(決して、
欧米の国民の意識が高いなどと言っているのではありませんよ。生活様式や歴
史の違いから、まだ自覚が足りないということです)。

 一方、制度の理念は大変に立派なものだと思うし、これまでの裁判制度に大
きな欠陥があることは認めます。特に迅速化の問題は深刻でしょう。しかし、
もう既に導入が決まっている裁判員制度は、導入後の課題に関してもとても大
きな岩礁として立ちはだかっているように思えてなりません。

 一番の大きな問題は、報道の自由との関係でしょう。先の例示でいうと(4)
の裁判員への接触の禁止、(5)の守秘義務に関わる部分です。

 これらが本当に実施されるとなると、裁判員自体に不正や不適格があったと
しても、マスコミは検証が全くできないことになる。さらに、審理が行われて
いる最中はともかく、それが終わった後の判断の是非や検証については、国民
の知る権利に照らしてもある程度の報道が保障されるのは、当然のことではな
いでしょうか。この辺りに関しては、自民党は恐ろしく神経質です。自衛隊の
報道などに重なる抜き難い“情報の囲い込み”を感じます。

 また、(7)では控訴審は裁判官のみによる審理にしていますが、せっかく
裁判員による市民感覚に則った自由な審理で、無罪が獲得されたとしても、そ
れが上級審でアッサリひっくり返されるようなことは、いかがなものかなとも
思います。

 さらに、一部の新聞が言及しているように、被告が起訴事実を認め、検察・
弁護側とも異議を唱えない場合は、裁判官と裁判員を1人対4人にすることが
できるとしますが、被告が公判の途中で否認に転じた場合はどうするのか。焦
点になった、裁判官と裁判員の比率にしても、まだ日弁連や民主党の主張とは
大きな開きがあります。まだまだ、議論は続くのではないでしょうか。

 でも、国民が裁判制度を考える非常に良い機会であることは確か。もう実現
することは決まっているのですから、この際前向きに考えるべきでしょう。し
かし、自分の心持ちの照らして考えても、「人を裁く」というのは何とも大変
なことであります。くれぐれも、辞退者続出…なんてことにならないように期
待する、私のひとり言ですが……。


□■□ 後書きのつぶやき□■□----------------------------------------
「変態議員と嘘つき議員」
政治家は簡単に
ウソをつけないもの

 正月気分もすっかり抜けて、「ヤレヤレ、これからまた厳しい現実と向き合
わないといけないのか」と思っていましたら、世間では「自衛隊のイラク派遣」
「鳥インフルエンザウイルスの拡大」「古賀衆院議員学歴詐称疑惑」「大阪の
中3長男虐待事件」――と息もつかせぬさまざまな話題が飛び出してきます。
なかなか、自分の意識が追いつかないのが現実のようです。

 今、国民にとって一番の懸案といえば、自衛隊のイラク派遣でしょうから、
最近かまびすしくなっているイラクでの報道規制、およびそれに先行する官邸
と記者クラブの不協和音について書くつもりでいました。しかし、一番どうで
もいいような、それでいて大騒ぎになっている古賀潤一郎議員が、週初に福岡
市内で市民に向け「私は辞めません。給与を返上して、これからも皆さんのた
めに働きます」などとやってしまったもので、話が収まらなくなりました。ほ
んの少しだけ、この問題に触れておきます(今日、民主党は除名処分に踏み切
ったとのこと。初めからキチンとやればいいのに……)。

 結論的には、私は「辞める」べきだと思います。それこそ前任者がヒドイ醜
聞騒ぎで人気を落としたので、私は経歴は知らないもののイケメンとともに期
待していたところ。しかし、ここまで“幼児性”を顕わにされてしまうと、何
とも「???」です。とにかく、初めから「大学には行きましたが、テニスに
精を出し過ぎて卒業はしていません。スイマセン」と言えば良かった。それが、
嘘の上塗りになってしまったところに問題があるのです。この種の嘘をついて
いる人は他にもいるでしょうが、カワイゲのある嘘と違って、今回はいわば確
信犯でしょうから、責任はどこかで問われてくると思うのです。

 ただ、最終的には選挙民が決める問題。山拓がまた浮かび上がってくるのは
何とも癪なところですが、単なる人気取りの側面だけで政治家の人格や行動を
判断しては、断固いけないと思います。関西人はノリで知事を選んだりもしま
すね。しかし、前例もあるようにそれは結局、市民を苦しめることになるハズ
だと考えています。

大本営発表は
究極の愚

 紙面が限られているので、イラクでの報道について少しだけ。ホンに福田官
房長官というのはヒドイらしいですね。事前の報道で情報が漏れた時に、その
怒りようは大変なものだったらしい。石破防衛庁長官をどなりまくったのは有
名な話だし、今でも記者クラブとはギスギスしているようです。

 でも、公式論になってしまいますが、イラク派兵に大義があると首相が言う
のなら、その内実の報道には最大の便宜を図るべきでしょう。それが全く反対
の動きになってしまっていることに、情けないものを感じます。

 もちろん、この種の事態が“国家機密”だらけであることは十分分かります
よ。何よりも隊員の安全を最優先させなければならないことは当然でしょう。
しかし、サマワで自衛隊のジープを報道の車がカーチェイスするなんて話を聞
くと、どうも話が転倒しているような気がします。

 隠すべきところは協力し、刻々の動きで隊員の家族を含めた国民が知りたい
と考えられるところは、配慮の上で報道すれば良いのです。決して「大本営発
表」の愚を繰り返してはならない、というのは言うまでもないことでしょう。

 ついでに、週刊誌は「新聞記者は政府のいいなり。記者クラブ制の枠組みを
戦争報道にまで持ち込んでいる」と盛んに新聞を非難しています。これもある
部分、当たっているところはあるのでクヤシイところですが、その週刊誌の記
者だって政治家や幕僚の1次情報は新聞記者から得ているハズ。不毛な非難ば
かりしないで、国民の知る権利に応えられるような共闘は組めないものなんで
しょうかねぇ〜。

 普段はともかく、こうした機会が一番の一里塚なのでしょう。情報は固定的
に一元化しないで、あらゆるメディアに開放すべきなのは当然。その上での交
通整理は、新聞協会なり雑誌協会なりで調整していけば良い。これも、現場の
判断は優先されるべきですが、あくまで相手(政府)に言いなりにならないこ
とが、絶対に必要なことなのです。

今週のことば……「裁判員制度」
 刑事裁判の審理と量刑・評決に一般の国民が参加する制度。開かれた裁判と、
国民の利用しやすい迅速な裁判をめざすために取り入れられた、司法制度改革
の柱の一つ。
 刑事事件のうち、重大な事件について選挙人名簿等で無作為に選ばれた一般
市民が、裁判官と対等の立場で評議を行うことが、これまでの裁判制度とは根
本的に異なる。アメリカ・イギリスの「陪審制」よりは、フランス・ドイツの
「参審制」にどちらかといえば近い。
 政府の司法制度改革推進本部が、2004年をメドに整備を進めている。

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