メルマガ:月刊小説メールマガジン『君が好き!』
タイトル:月刊小説メールマガジン『君が好き!』2003/10/15  2003/10/15


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月刊小説メールマガジン         2003年10月15日 発行
『君が好き!』  vol.69
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こんばんは^^ いきなりですが、本号は3話収録の豪華版となりました^^*
篠原が2作品を書き上げてくれたのでいそいそとサンドイッチ状態にしてみた
り♪(笑) 読み応えのある号となっておりますので、どうぞお楽しみ下さいま
せ!
(瀬乃 美智子 拝)
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今月の目次
▼けだるい午後のひととき・04    篠原美姫緒
▼密やかな花・05         瀬乃美智子
▼君が御世に・20          篠原美姫緒
▼あとがき
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        【けだるい午後のひととき】第四話
                           篠原美姫緒

 お盆休みが明け、待望のM井S友の新井との闘いの幕が切って落とされた。
「どうでしょうか? お答えはでましたでしょうか?」
 相手が女だとみて、馬鹿にしているのか、交渉もまともにしていないにもか
かわらず、「答えはでましたか?」だという。
「はい。10:0ということですね。それで決めましょう」
「ま、まってください。それはないです」
 天保がきっぱりと言い切ったんで、相手は少し慌てた。
「あら、なぜですか?」
「ですから、法律で右直事故は8:2と決まっているんですよ」
「ええ、それは法律ではなくて、判例ですよねぇ。」
「はい。」
「その判例には、修正要素というのが載っていますが。修正要素に該当するこ
とが多々あるんでは?」
「いえ、そいうものはありませんよ」
「物的証拠があるのに、修正しないなんておかしいですね」
「なにが証拠に値するんですか?」
 この担当者はとぼけているのか、はたまた本当に知らないのだろうか。
「今回の事故で、お互い右と右がぶつかっています、直近右折になりますね」
「いや、なりませんよ」
「はぁ?!」
 弁護士もとい、元検事がお墨付きを出した「直近右折」はないという。
「何故、右と右がぶつかっているのに、直近右折にならないか、わかるように
説明してください。」
「ええ、ですから、右と右が衝突していても、直近右折にはならないというこ
とです。」
 なんか、この担当者、ああいえばこういうで話しができない。
「…。あと、石井さんは徐行していませんでした。」
「いえ、徐行していましたよ。本人がそういいました。ぶつかる直前に止まっ
たということは、徐行していたことになります。」
「だから! 右折車が止まったらなら、衝突しないで直進できたでしょ!」
「そうとは限りません。」
 おいおいおいおい。資料と同じ対応だよ。
 M井S友は社員教育で、加害者の過失を減らせたら昇進でもできるシステムな
のだろうか。
「あと、石井さんは早回りもしていました。これは目撃者もいますから動かせ
ませんよ。」
「その目撃者は衝突した瞬間をみていたんですか?」
「いいえ、衝突して、車を動かす前を見て居ます」
「まぁ、目撃者はいても関係ありませんから。交差点の中央付近で衝突してい
たと石井は言っておりますので」
「加害者の証言がすべてじゃないでしょう」
「いえ、私どもは加害者の代理をしているのですから」
 ふと、兄の有栖の言葉が蘇った。

『お前、被害者なんだろ? 被害者なのになんでもめるん?』

 もっともだ。被害者が加害者に対して、正当な賠償を受けるのは当然である。
加害者の代理である保険会社が、加害者に代わって正当な賠償をするのは、加
入者に対する義務であり、被害者は請求できる権利がある。
 ただでさえ、車を壊されて困っているのに、さらに追い討ちをかけるよな保
険屋の傲慢な態度。被害者は車を壊されただけでなく、保険屋による保険金詐
欺の被害者にもなるわけだ。
「わかりました。」
「では、8:2でよろしいですね?」
「いいえ。担当を代わってください。」
「はぁ?」
「担当を代わってください。他の人と話しがしたいです。あなたの上司と代わ
ってください。」
「私の上司…ですか…」
「そうです。あなたはマニュアルしか話せないので、きちんと人としてお話が
できる方、あなたより立場が上の方に代わってくださいと言っているのです。」
「上司と話すのは構いませんが、なにも変りませんよ」
「構いません。そしたら、それなりの手段をとるまでです」
「裁判ということですか?」
「そんなに裁判したいんですか? 私はやっても構いませんよ。被害者が正当
な主張をしているだけですから。100%勝訴だし、敗訴したほうが金払うだけで
すから。私の懐は痛みません。勝ち目のない裁判やるつもりがなかったら、上
司にかわりなさい。」
 M井S友側は、脅し?脅迫?でよく、裁判の話しをする。裁判になったら金が
かかるだとか、こちらは弁護士がいるのでとか、そちらの立場が悪くなるだと
か。ありがちなパターンだと、弁護士に一任するので、裁判でも自由にやって
ください。というもの。
 ならば、こちらから、しっかり言い切ったほうがいいと夢路からアドバイス
をもらっていた。
 相手はダメだと思ったのか、上司に代わりますので、と言い残し保留になっ
た。
 電話口から聞こえる保留音が、ちょうど1曲終わるころ、いかにも中年らし
い男の声がした。
「はい。お電話変りました。カスタマーセンター所長代理の東井と申します。」
「被害者の松岡です。」
「大変申し訳ないのですが、もう一度事故の状況を説明していただけませんで
しょうか?」
 天保は丁寧に事故の状況を説明した。
 その上で、新井のいままでの諸業を説明する。
「ええ、手元にある事故車の写真を拝見していますが、石井が徐行していたと
は言えませんね。それに、直前停止は停止とは認めていません。」
 ほほぅ〜 と天保は相槌をした。担当者が変ればこうも見解が変るのだろう
か。新井氏の無能さを露呈している。
「わかりました。わたしの方で、もう一度確認をとってみますので」
 と、快い返事をしてきた。
 これで話しが少しは進むだろうと、安堵する天保であった。

                             《つづく》
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            「密やかな花・5」
                           by瀬乃美智子

魔王の訪れに城の内部は緊張が支配していた。
とはいえ、皆、魔王自体を恐れているわけではない。
彼等は普段、王カウネルと契約を結ぶオーカーと対している為、魔界の者自体
には慣れているのだから。

恐れているのはイグルーツそのもの。
かつて自分の契約主であるカウネルに反目してここを後にしたはずの彼を、オ
ーカーが連れ戻してきた事に彼等は不安を抱いていたのだった。
それでなくとも体調のすぐれぬ王に、悪い影響を与えなければ良いのだが…。


馬車を降り、オーカーに導かれるまま城に足を踏み入れたイグルーツを、城の
者たちは遠巻きに見守る。
彼等が今まで接してきたオーカーとは違い、人を寄せ付けぬその雰囲気。
今までの魔族とは違う…そう彼等も感じているようだった。


「お帰りなさいませ、オーカー様」

女官長がオーカーを笑顔で迎え、ちらりと気付かれぬ程度の視線を背後のイグ
ルーツに向ける。

「彼は私の客だ。…しばらく滞在する事になるだろうが、特にかまう事もない。
イグルーツの為に部屋を…。」

「部屋の仕度の必要はない」

弱々しくも凛と響いたその声。


そこにいた全員がはっと背後を振り返れば、城の玄関――広間へと通ずるホー
ルの階段を、ゆっくり下りてくる王カウネルの姿に気付く。突然の出現に、一
同は慌てて彼を迎え入れた。

既に体調を崩していた彼が、城の人目に立つ場所まで出てくる事は大変に珍し
く、はっと我に返ったオーカーは急いで女官たちに王の補助に付く様に指示し
た。

「あぁ、驚かせて済まぬな。でもたまには自分の部屋以外の空気を吸うのもよ
いものだ」

気が付かずに申し訳ございませんと詫びる従者たちに王は怒った素振り一つせ
ず、穏やかに微笑んでその手を借りる。


ゆっくりと階段を降りきり、王は二人の魔王まで歩み寄っていった。

「お前の部屋は決まっておる。そうだな?イグルーツ」
「………っ。」


王の問いに、しかしイグルーツは答えなかった。
いや、答えぬというより、問われた事にさえ気付いていなかったのかもしれな
い。

先程までピリピリとした威圧感を振りまいていた気配はもうなく、金色の髪の
魔王は…ただただ目の前のかつての…いや、今現在も契約書上は主である目の
前の人物を見つめていた。
その表情はまるで、お前は一体誰なのだとでも言いたげで…。

目を見開いたまま、カウネルのことをまるで見知らぬ者を前にしたような表情
で見つめた後、――――それをいぶかしむオーカーの表情にやっと気付き、う
ろたえたように慌てて目線を外したのだった。


「…どうした、イグルーツ。…あぁそうか…、私は随分面変わりしただろう?
 もう随分な歳だからな」

そう言って、カウネルはそっと微笑む。
その表情は確かに、姿形こそ花の威力で若々しいままだが、成熟された老齢の
それで、彼の重ねた年月の深さを漂わせていた。


だがイグルーツは彼の言葉に返事を返そうとはせず、ただだだ、今度は場違い
な場所に来てしまったかのような居辛さをその表情に浮かべていた。


「…彼には私の隣室を」
「え?あの部屋をでございますか?」

王の言葉に、侍女は思わず問い返す。
この数百年間、カウネルが王となってからどんなことがあっても使わせなかっ
た王の隣室。
それがかつてこの魔王が使っていた部屋だった事を、この時人々は初めて知っ
たのであった。


「イグルー…っ。」
「疲れた、部屋で休む」

王の次の言葉を遮るように、イグルーツは足を進める。

お待ち下さい、その前にお部屋の準備を!と思わず声をかけた女官長に、イグ
ルーツはそんなものはいらん!と言い捨てて勝手に城の奥へと足を進めていっ
たのであった。


「よい捨て置け」

慌てる皆に、カウネルは久しぶりに高らかに笑い放つ。

「彼にとっては、勝手知ったる我が家のようなものだ」

嬉しそうに微笑む彼の横顔を、オーカーは久しぶりに元気な様子でいる彼に喜
びつつ、何故か胸騒ぎを隠せぬのであった…。

                               《続く》
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             君が御世に20
                             篠原美姫緒

「では、あとでまた参ります。」
「はーい」
 宮仕えも板についてきた。中宮とも仲が良く、この仕事にやりがいを感じて
いる。
 笙子は、中宮の部屋を後にした。内裏はすっかり秋色に染まり、紅葉がはら
はらと散っている。
「そういえば…」
 里帰りしている女房が、藤壺の御前の紅葉が見たいといっていたっけ。
 申し訳なさそうに、一枝折って、歌を結んだ。

 吹く風も枝にのどげきみよなれば散らぬ紅葉の色をこそ見れ

「秋ですね。」
 不意に背後から声をかけられて、枝を落としてしまった。
「あーあ。資盛へのお届けもの?」
「い、いえ」
「そんなぁ、おどおどしないでよ。私は物の怪でもありませんよ」
 そういうと、重衡は枝を拾い上げ、笙子へ手渡した。
「はぁ…」
「右京は、いっつも俺を見ると逃げるからなぁ。なんで?」
 なんで?といわれても、返答につまる。平重衡といったら、女房方の憧れの
的。平家の人間と親しくしているだけで、嫌がらせやら陰口など日常茶飯事。
こんな、二人っきりで内内裏の庭で話しなんかしていたのを見られたら、そりゃ
もう。
「恐れ多くて…」
 無難な返事をしておく。
「そんなこと言わないで、資盛よりも仲良くしてくれよー」
「ええええ?!」
 重衡は、笑った。
「おもしろい」
 またからかわれたらしい。
「女房皆に、そういうことおっしゃっているの、知っていますよ」
 と、突っ込んで見る。
「そんなこというなよー。言う女房だってちゃんと選んでいるんだ」
「そうなんですか?! 女房全員に恋文を贈っているのかと思っていましたわ」
「あははははは 右京はおもしろすぎ。まぁ、資盛に飽きたらいつでも俺のと
こ来てくれ。というか、文くれたらいつでもいく!」
 冗談とも本気ともつかない捨て台詞を残し、見回りだと称して散歩しにいっ
てしまった。
「んもう。。。」


「僕は最近、紫式部研究をしているんですよ」
 資盛が都にいない夜、決まって隆信の誘いがある。
 隆信は、優しく包み込むような包容力をもっていた。それだけに、女として
とても居心地がいいのはいうまでもない。
 この男もいろいろな女との噂は絶えないが、母との特別な関係ということも
あり、幼い時から側にいる。
 笙子の父が源氏物語の研究家であった。その父を慕っていた隆信である。
「まぁ、父がいたらさぞ喜ぶでしょう」
「お父上さまには、とうていかないませんよ」
「そんなこと…」
 父親を誉められて嬉しくないはずがない。今は亡き父ではあったが、父の偉
業は、後世文学史に残るものである。
「笙子どのも、歌にさらに磨きがかかっておいでだ」
「あら、隆信さまに誉められるなんてなんて光栄かしら」
 笙子と隆信の恋文は、歌にはじまり歌に終わるほど、「歌」が中心になって
いる。
 隆信が
 
 思ひわくかたもなぎさによる波のいとかく袖をぬらすべしやは

 と贈ると、笙子は
 
 思ひわかでなにとなぎさの波ならばぬるらむ袖のゆゑもあらじを

 と、返るので、さらに隆信は

 君ならで誰にか袖をかこつべきなほ思ひわくかたはなければ

 と返せば、

 移ろはむことにこそかねてうかりけれ色なる人の散らす言の葉

 と締めてくる。かと思えば

 移ろはむことな思ひそ浅からぬ色をば色にそむとしらずや

 などと、可愛いことも言ってくる。
「歌も、姿も大人びたところもあれば、少女のようなところもある。光源氏の
ように男が育てたいと思わせる女性だ」
「まぁ!」
 これだけ誉められれば悪い気はしない。朝までお互い抱擁し合った。


                               《続く》
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はーい、お疲れ様でした♪
そうそう瀬乃は先日の連休箱根に行って来たのですが、皆様はどう過ごされて
いました? 色々ハプニング続きの旅行だったのですが、最後のトドメは…、
どうも調子が悪いなーと思っていたカメラに、旅から帰ってきてから肝心な
…フ…フフ…フイルムが入っていなかった事実に気付いた事です(素汗)
まだ家族には言ってません(本気;)

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 月刊小説「君が好き!」メールマガジン  2003/10/15 69号
 発行責任者 :篠原美姫緒  kimigasuki@1-emishop.com
 Webページ:http://kimigasuki.hp.infoseek.co.jp/
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 発行システム:『まぐまぐ』『melma!』『Mailux.com』『E-Magazine』
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