メルマガ:青い瓶の話
タイトル:「青い瓶の話」 No.47  2003/09/05


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 ■■■                  青い瓶の話
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 ■■■                                                 風をあつめて。
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                                                2003年9月5日号 No.47
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●青瓶デスク・平良責任編集-「晩夏に聴きたい曲 2」


○「大阪の唄」・松川 勝成
○「夏の終わりに聞く音楽」・戸越 乱読堂
○「風をあつめて」・渡邉 裕之

○「緑色の坂の道」
 北澤 浩一

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●「大阪の唄」・松川 勝成


 国道26号線を南に下っている。
 粉塵を巻き上げるトラックに挟まれて、頭にはメットもかぶっていない。私が
高校生の頃には、未だ50ccバイクでのメット着用は義務ではなかった。考え
てみれば危険このうえないが、気分は爽快だった。まして、県境を越え、和歌山
に入る頃には車も減り、海に並走することになるので堪らない。

 女っけのない仲間だった。
 土曜の授業が終わると、四、五人で国道を下った。そうして、加太や磯子の浜
で酒盛りをし、日曜の昼頃に二日酔いの頭をかかえて、よたよたと来た道を戻る。
夏休みの盛況なシーズンは全く芸がない。春や晩秋がいい。ようやく冬を越した
浜の溜息や、人を拒み始める刹那の瞬きが、もてあました力を癒してくれ、酒の
肴になった。

 酒が入るとばかばかりやっていた。いや、私以外は皆、本当のばかだと後に気
づいたのだが。
 例えば、Kは、酔うとバイクに乗りたがった。公道は流石に皆に止められて、
防波堤の上をぶっとばしていた。ある時、血と水でぐしゃぐしゃのKが海からあ
がってきたので、聞いてみると防波堤の先端のテトラポットに愛車はひしゃげて
挟まっていた。その後、数年、その残骸の朽ちてゆく姿を楽しめた。Kはと云う
と、病院にも連れて行ってもらえず、内部消毒に励んでいたために、未だに冬は
傷がちくちくと痛むそうだ。
 例えば、夜も更け、暗闇の中に恋人らしき二人連れが三々五々と散り始める頃。
酒を小休止して寝るもの、買い出しにゆくもの、テントを張るもの、と一応は気
をつかう。しかし、口元は皆、けっ、と無意識にいらだっていた。
 その時、あるアベックから叫び声があがった。男性は気絶し、女性は失禁して
泣き出している。何があったのか? 突如、暗い海から怪獣が襲ってきたそうだ。
そのとき私は水びたしで裸のまま突っ立っていた。何故だ? 怪獣とは何者だ。
もう一人の水びたしのMと共に、私にとっては深い謎である。

 女っけがなく、酒と原付以外に何もなかったかと云うとそうでもない。
 皆で買ったラジカセをタオルに包んで浜で唄をかけていた。その唄は、大阪の
シンガーの唄で、その頃の我々の気持ちを代弁しているものであった。

 大阪の唄、と云うと、後年、たかじんの「やっぱ好っきゃねん」をカラオケで
聴き、関西人以外は頼むから唄うナ、と思ったが、この唄もそんな唄である。
 東京に出るかどうか迷っていた浪人時代。キャバレーやクラブ(今のウザいも
のではなく、女性のいるそれです)で太鼓叩きをやっていた頃、ポケットにはア
リスの「帰らざる日々」という文庫本を持っていた。アリスと云うと今時の人に
は笑われるのだろうが、その頃の私には、ドラム担当、キンちゃんの章がたまら
なく、ミュージシャンとしてではなく、男、かくありき、と本気で思い込んでい
た。その中でも、この唄の主は登場し大阪を体現してくれていた。

 直接ではないが、狭い同じ店で彼の妹と飲む機会があった。
 彼女自身もシンガーであり、ハスキーな声がバーボンによく似合っていた。小
麦色の肌で煙草が身に馴染んでいた、しかし真夏ではなく外れた季節の海がぴた
りとはまる。そんな人だった。

 結局、上京し大学に入ると、酒やバンドや小説というストイックな世界を離れ、
普通の学生に成りすました。同世代の男女の中に紛れこむと、それはそれでまん
ざらでもなく、あっという間に四年が過ぎた。
 卒業して、柄でもなく上場した会社などに籍を置くと、これもまんざらでもな
い。ただ、自分そのものを出せる場所ではない、という違和感が澱のように腹の
底に耽溺してゆくのがじわじわと自覚され、仕事の成功毎に大切なものをバータ
ーとして削がれてゆくような危機感がつのった。

 ある時、臨界点を越したように、ただ飲みたい欲望のままに、飲み歩いた。会
社の勤態もへったくれもない。毎日、飲んで、飲んで、ただ飲んで。周辺は会社
を辞めるかもしれない、と思っていただろう。
 気がつくと百人町のどっかの飲み屋のカウンターにふせっていた。喉が異様に
乾く。時間などわからない。ただ、おんぼろのカセットから、唄が流れていた。
あの頃の色々な想いや焦りや意味のない充実感が体の中に蘇ってきた。
 因果関係など判りはしないが、辛いとき、飲みたいときには、この唄を聴けば、
もう少しは社会人のふりを続けられるかな、と思った。気づくと泪が頬をつたっ
ていた。
 店の外は曇っていて、月は出ていなかった。夏が終わろうとしている。

 「月の明かり」という唄を聴くと、今でも、十代後半の脱皮の時期や、二十代
前半の迷いの時期が思い出されてならない。

 
松川 勝成:keimidori@hkg.odn.ne.jp
会社員

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●「夏の終わりに聞く音楽」・戸越 乱読堂


 CDは便利な音源だ。小さく、軽い。昔のLPレコードに比べて扱いやすい。
盤を傷つけないように慎重に針を置くだけだ。いや、針そのものが無い。プログ
ラムするとランダムに演奏したり好みの曲だけを選んだりもできる。
 しかし、CDが登場して以来音楽はなべてBGMとなってしまった。掛けっぱ
なしが当たり前だ。我が家には50枚装着のオートチェンジャー付CDプレーヤ
がある。連続演奏にすれば2,3日は放っておいても次々と音楽を再生する。

 一時は終日ランダム演奏を楽しんでいた。好みのCDしか入れていないのでか
かる曲の大半は好きな曲だ。ビートルズだったり、カントリー&ウエスタンだっ
たりKポップ、タイの歌謡曲あたりがが入れ替わり掛かるので意外性があって面
白かった。しかし、半年もすると氾濫する曲に飽きてしまった。所詮BGMだか
らだ。

 40年近く前、初めて手にしたビートルズのLPレコードは「オデオン」レー
ベルで日本では東芝が発売した赤盤だった。レコード盤自体が赤く半透明なのだ。
それをステレオ(当時はオーディオをこう呼んだ)のコンソールの上部にあるタ
ーンテーブルに恭しく置き、精神統一して針を落とすと、飛び上がりたくなるよ
うな曲が始まるのだ。ロングプレイと言いながらも片面は30分足らずで、5、
6曲で終わる。針を戻さないと不快な雑音が出て、レコードも傷む。とてもBG
M然とは聞いていられない。自ずと「レコード鑑賞」となった。

 夏の疲れが残るこの頃は、BGMも「レコード鑑賞」も似合わない。仕事をさ
ぼった昼下がり昼酒に酔ってうつらうつらするところに風に乗って隣家から届く
かすかな調べを「あの曲なんだったか?」と聞くのが風情があって良い。できれ
ばCDやMD音源ではなく、ラジオ、それも中波の少しくぐもったような音が似
合う。楽曲をしいて一曲選ぶと「ドリフターズ」(ビートルズに本公演の前座を
やったバンドではありません。念のため)「渚のボードウォーク」かな。でも曲
は何でも良い。四半世紀ほど前の古い曲でメロディーラインがはっきりあるもの
でさえあれば。


戸越 乱読堂:fabulousboy@anet.ne.jp
隠居

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●「風をあつめて」・渡邉 裕之


■レビュー もとパリで毎年12月に1年間の出来事を急激に場面を転換させながら
諷刺的に演じた一種の喜劇形式。第一次大戦後各国に流行、喜劇・美人行列・オ
ペレッタなどの諸要素を取り入れ、音楽と舞踊をないまぜて、多彩な演出をなす
に至った
(『広辞苑』より)。

「ひび割れたガラスごしに/摩天楼の衣擦れが/鋪道をひたすのを見たんです」
その時だった。

 大道寺、宇賀神、大地の牙、さそり……。大地の神々が憤怒の形相で立ち上が
り、丸の内のビルの壁に亀裂を入れ、街路にガラスの雨を降らせた。

 1980年のことだった。神宮前の地下にある喫茶店で私は人を待っていた。当時、
私はファッションショーの製作会社の舞台監督助手をしており、その日はある百
貨店の販促課の課長に会うことになっていった。

 しばらくすると江戸の旦那衆の色艶をもったその中年男はやってきて私の前に
座った。私はもう25歳だったが世間の仕組みが子供のようにわからなかったし、
事務所の人間もそのような私だからこそ、この役目に就かせたのだ。何も話さず
私は持っていた封筒をさし出した。男はすぐ手にとり封筒を拝み、「センセイに、
お礼をいっといて」とそれだけいって立ちあがった。

 事務所の社長は、商業演劇の演出を長く続けていた人で、自分のことを数人い
る社員に「センセイ」と呼ばせていた。センセイはレビューを得意としたが、そ
うしたものを見せる小屋は最終的な形で消えてしまったということもあり、つい
数年前からファッションショーの世界へと転じた人だった。

 そんな時代だというのに私といえば10代の頃から日劇ミュージックホールなど
に通いつめ、この演劇形式こそ都市の全体を全体として表現できるものだと信ず
るようになっていた。たまたま知り合った踊り子からセンセイを紹介してもらい、
ファッションなどまったく興味はなかったが、レビューを演出するセンセイの下
で働けるということだけで夢中になり、その事務所に無理やり入れてもらったの
だった。

 仕事の大半は雑用だった。中にはこんな仕事もあったわけだ。サラリーマンに
しては派手なスーツの背中のその男を見送りながら、あの封筒の中には札束が入
っていたと私は思っていた。しかし、それを数えようとはしなかった。ギャンブ
ルか女のことで急に入り用になった金を出入りの業者に出させたのだろうが、そ
う考えているのは、今思い出している40代の私であって、その時は考えているだ
けでも嫌でただ事務所で渡されたモノをさし出しただけなのだった。とはいって
も後味の悪さは残っていた。私はこんなことをするために舞台の世界に入ったの
か。

 背中の男が喫茶店のドアを開けて出ていった。 
 その時だ。回り舞台は動きだし、ドルや円、マルクにフランの記号の付いた衣
装を纏った踊り子たちが狂ったように踊り出す都市の風景が展開する。
 白髪混じりのマッシュルームカットの センセイが、いきなり振り向いてこうい
う。
「ワタナベ、おまえだったら、どうするんや?」
 ボクですか、ボクだったら……丸の内のビルを模した聳えたつセットに張り付
いた何十人ものガラスの精霊たちが、一斉に飛び下りて、あのガラスの雨を現出
させます!

「このデパートの販促課の連中は、みなK大学の出身者で湘南あたりで遊んでいた
金持ちの坊ちゃんばかりなんだ。デパートっていうのは客が大切だろ、就職でき
ないバカ息子を引き取るってこともしなきゃいけないんだ。さっきの課長も相当
ひどくって、撮影で連れていったモデルをみんなでまわしちまったらしいよ」
 そう教えてくれたのは、婦人服売り場で行われるファッションショーの特設ス
テージの裏側で機材の調整をしていた照明担当のYさんだった。ジーンズにレイバ
ンのサングラスをしていて、「政府関係のイベントで、経歴を調べられ、出入り
禁止をされちゃったよ」とうれしそうにいっていた。

 1980年、裏方の仕事にはそんな人が何人もいた時代であった……いや、嘘だ、
ファッションショーのスタッフは六本木のディスコあたりで遊んできたような連
中が多かったのであり、私はそれが嫌でたまらず、学生運動やフリーコンサート
のことを話せる人を探そうとしていたのだった。だが、1980年とは、そんな人た
ちがイベント会社や照明会社の経営者に正式になるようなちょうどそんな時期で
あり、私が見つけだせたのは、酒好きで少し原田芳雄に似ていた照明のYさんだけ
だった。そんな人と舞台裏に佇む25歳の私だった。

 冒頭に記した唄「風をあつめて」をロックバンド、はっぴいえんどが赤坂のモ
ウリスタジオで録音したのが1971年9月6日。東アジア反日武装戦線が丸の内の三
菱重工本社ビルを爆破し死者8名を出したのが1974年8月30日。25歳の私が神宮前
の地下にある喫茶店で封筒を渡したのが1980年9月2日。この原稿を書いているの
が2003年8月29日。急激な場面転換を演出することもなく私はレビューの世界から
去っていた。

 晩夏、私は「風をあつめて」を聞く。


渡邉 裕之:hiro-wa@qa2.so-net.ne.jp
ライター

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○緑坂

虫。




■ 夏が去ってゆく。
 ゆるやかな斜面をころがるように。


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●本日のウダツ

・46、47号のテーマは「晩夏に聴きたい曲」です。今年みたいな中途半端な夏の
終わりにこの主題を選ぶあたり、私の往生際の悪さがあらわれています。
 近頃また暑さが戻ってきて、夏好きとしてはありがたく思うのですが、単車に
乗りながら受ける夜風は明らかに温度が変わってきています。

 季節の移ろいはどうしてこうも感情を左右するのでしょうか。
 私が落ち着いて秋を迎えられるのは、だいぶ先になりそうです(青瓶デスク・
平良)。

・今後もデスクを中心に、ある種テーマをもった編集を時折行なってゆきます。
 テーマは適宜、BBSに告知いたします。読者からの投稿は大歓迎のココロ。
 また、このようなテーマで、というような要望もおよせくだせえ。
(ココロのボス、北澤)

BBS:http://bbs.melma.com/cgi-bin/forum/m00065121/
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■「青い瓶の話」                              2003年9月5日号 No.47
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□編集長:北澤 浩一:kitazawa@kitazawa-office.com
□デスク:榊原 柚/平良 さつき/三浦 貴之
□「青い瓶の話」BBS:http://bbs.melma.com/cgi-bin/forum/m00065121/
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