メルマガ:月刊小説メールマガジン『君が好き!』
タイトル:月刊小説メールマガジン『君が好き!』  2003/09/02


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月刊小説メールマガジン         2003年9月1日 発行
『君が好き!』   増刊号vol.40
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こんにちわ〜。
いよいよ新学期。微暑さでけだるい1日をいかがお過ごしでしょうか?
夏コミに来てくださった方、ありがとうございました(^○^) 

さて、今回の増刊号は緊急企画です!
篠原が1ヶ月ほど前に、交通事故に遭いまして、保険屋さんとの示談交渉が、
恐ろしいほどまでに難航しています。なんでだろ〜
保険屋のひどい仕打ちに、被害者の方々で泣き寝入りをした人も多いかと思い
ます。(謎)
「自分に過失がない」と思ったら、絶対に自分の保険を使ってはいけません。
保険を使う=罪(無実の罪をかぶる)ことになるのです。

ということで、篠原が体験している(現在進行形)保険屋さんとの、怒って、
笑っての示談交渉を「風の声を聞け!」(陵しお作品)シリーズのキャラを使っ
てお届けします。

★随時、HPは更新しております♪
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増刊号 今月のラインナップ  
●緊急企画【けだるい午後のひととき】第一話 篠原美姫緒
●愛の寸劇劇場 【ちょっとおかしな二人の話《兄弟編2》】瀬乃美智子
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       【けだるい午後のひととき】第一話
                             篠原美姫緒

「あぢぃあぢぃダンパティダンダンダ、鬱」
 松岡天保(あたり)は、ひさびさに夏らしく晴れたので近所のプールに来て
いた。市営とはいえ、2時間300円と格安なうえに、流れるプールやウォーター
スライダーなどといったものまでついている。
「夏休み、ガキばっかりだぁ。」
 今年は、気象庁の発表とはかなりはずれて、冷夏であったので、今日のよう
な、「夏らしい暑さ」は、実に鬱である。
 2時間ほど軽く泳いだ後、空に夏特有の夕立の気配がしてきた。
「延長しないで帰るベ」
 8月5日、午後3時近く、天保は愛車のスズキセルボで駐車場を後にした。
駐車場から出るとすぐに信号がある。赤信号で止まると、右側にあるミニストッ
プが目に入った。
「お腹すいたなぁ。なんか買っていこうかな…」
 なんて思っているうちに、信号は青へ。
「ま、いいや」
 バックミラー越しに雷が見える。
 交差点の中央付近で、右折レーンに入ってくる対向車が見えた。
 天保はそのまま直進をする。
 対向車は、天保に気がつかなかったのか、スピードを落とさずに曲がりはじ
めた。
「はぁ!?」
 慌ててブレーキを踏んでも、こんな至近距離から右折されては到底間に合わ
ず、

どっかああああああああああああああああああああああん!!!

 爆発音のようなけたたましい音を立てて、愛車のセルボと対向車は衝突した。
「ま、まぢかよ…」
 天保は、本能的にすぐ100番通報をした。
 ふと見上げると、目の前の歩行者信号が点滅をしている。
 左側には、信号待ちをしている直進車がいた。
「物損だから、動かしてもいいか。横からぶつかったら余計危ない」
 あとちょっとで交差点を抜けるところだったのに…
と、ほんの数メートル前の横断歩道をさけて止まった。
 事故を起こした相手も、バックで対岸へ引き返し、止まった。
「す、すみません! お怪我ありませんか?」
 中から出てきた、中年のおやじは「大変申し訳ない」と深々と頭を下げた。
「いま、警察に通報しましたので、もう少しでくると思います。」
 と、歩道でうろうろ警察を待つことにした。
 やじうまのおばさんは、ニコニコしながら話しかけてくる。
「んまぁ、ものすごい音がしたから、慌てて出てきちゃったわよ! あんな音
してたけど怪我はない?」
「はい、いまのとこ大丈夫です。ムチウチは明日にならないと出ないし」
 天保は、自分が医者であるということは言わない。何せ、死体を相手にして
るので、外科は専門外だ。

 ゴロゴロゴロゴロ
 暗雲が立ち込め、いまにも雨が降り出しそうである。
「あら〜、雨降りそうね。雨降ったら、うちのガレージにでも入ってなさいね」
「はい、ありがとうございます」
 と、やさしいやじうまのおばさんは、洗濯物しまうから、と家に入って行った。
 程なくして、原付に乗った婦警さんが現れた。
「あなたは向こうから直進してきたのね。」
「はい。」
「その辺でぶつかったのね」
 衝突現場には、ヘッドライトのかけらが散乱していた。
 愛車のセルボは、右側の前のヘッドライトからタイヤにかけて凹んでいる。
「あぢぃ…」
 エンジンはかかるものの、クーラーが完全に壊れてしまった。
 相手の車は、右側のヘッドライトから中央にかけて破損している。
「向こうから走ってきて、ああ青だなぁって思って、そのまま右折しようとし
たら車がいたんです」
 相手は石井と名乗った。
「そう。右折レーンに入ってこの辺で右折したのね」
「ええそうです」
 婦警は、加害者に立て続けに質問をする。
 警察の裏事情というのだろうか。交通事故の場合、警察は加害者に多く質問
をする。自分が被害者だと思っていても、警察に多く質問を受けた場合は、実
は加害者であることのほうが多い。ようは、加害者に言い訳させているのだ。
「はい、では、このあとの賠償は保険との示談になります。一週間後に事故証
明がでますから」
 物損ともなると、警察の処理は早い。
「今、保険屋に電話したので、今日中に電話があると思います。本当にすみま
せんでした。」
「はぁ。」
 まあ、物損でこっちは悪くないんだし。こんな事故に保険使うのはもったない。
と天保は、石井に名刺をもらい、保険屋との示談交渉に臨むことになった。
「雨降りそう…。家までもつかしら」
 エンジンがものすごい音を立てている。
 車内は蒸し暑い。
 なんとか、家までは動いてくれた。駐車場に止め、家に入ると、シャワーの
ような雨が降ってきた。
「あたり!! なんだあの車は!」
「おおおおとっつあん!」
 長年乗ってきた(父買い)愛車が無残な姿になっている。ボンネットからは
雨が蒸発した湯気が出ていた。
「私、直進。相手、右折」
「そうか。怪我なかったか?」
「うん。もうすぐ保険屋から電話あると思うから」
 信号のある交差点での右直事故なら、割合は相手8:2自分が基本。修正要
素があるから、こっちの主張は相手10:0自分でいけるはず。まぁ、相手9
:0自分が妥当なところで落ち着くだろう。と、長年の経験からついでに賠償
の試算を出してみる。
「あの車8年乗ってるから、価値は20万あるかないかだろうし…。ぎゃぁ! 
全損だわさ。修理代の方が高くつくやん。新車買うしかないかぁ」
 豪雨に打たれている愛車の姿が実に痛々しい。
「はぁ…」
「電話遅いな」
 父親が少々いらだちながら言った。もう、保険屋に電話してから1時間半は
経っているのに、電話はちっとも鳴らない。
 雨も止みそうにない。
「お腹すいた…」
 冷凍庫をあさり、冷凍ラーメンを調理する。
 ずずずずずずー
 美味しそうな音を立てて、ラーメンを食べていると、待ちかねた電話が鳴っ
た。
「このたびは、当方の契約者石井との事故、お見舞い申し上げます。私、この
事故の担当をさせていただく、新居憲二(しんいけんじ)と申します。」
 保険屋は5時を過ぎてから、電話をしてきた。担当者は丁寧な口調でマニュ
アルどおりに言った。
「えと、これからの示談交渉は、松岡様の保険会社との交渉でよろしいですね?」
「いいえ、保険はつかいません。」
「と、もうされましても…」
「10:0なんだから、保険使う必要ないでしょ」
「おっしゃられている意味がよくわかりませんが…」
 な、なんだこいつ?!
 天保は、一瞬、保険屋の言葉に耳を疑った。
「だから、10:0で石井さんが悪いから、保険を使う必要がないんです。聞
こえました?」
「ちょ、ちょっとそういうわけにはいかないんですよ。全く松岡様に過失がな
いとは言い切れないですし」
「はいはい。」
「松岡様が、相当スピード出していらっしゃったんではないんですか?」
「はぁ?!」
「スピードを出していたのに、過失がないとはいえませんよ」
「あの…。ちゃんと石井さんに確認したんですか?」
「はい。石井のほうから電話をいただいたときに、事情は聞きました。」
「なら、どういう状況だったかわかるでしょ」
「はい。ですから、スピードが出ていたと…」
「スピードが出ていたのは石井さんです。私は赤信号から青信号になって、車
を走らせたんですよ。しかも軽自動車ですから、めいいっぱい踏みこんだって
速度はでません。」
「しかし、信号のある交差点での過失割合は右折車8:2直進車と法律で決ま
っていまして…」
 きたきたきたきた。保険屋お得意のマニュアル攻撃。
 天保は、保険屋との交渉には仕事上慣れている。兄の有栖(ありす)や夢路
(めろ)といったバックもついているので、保険屋の裏事情にも詳しい。
 保険屋同士の交渉なら、8:2であっさり決まってしまうだろう。なにせ、
修正要素や事実関係なんか関係ない。ようは、自分の保険屋が儲かればいいだ
けのこと。この新居という担当者も、最初から事実関係なんか関係なく、保険
屋同士で8:2で決めてしまおうという、腹だったらしい。
 でも、天保は無実なのに罪をかぶってしまうほどお人好しではなかった。
「とりあえず、ちゃんと石井さんに事情を聞いてくださいね。そんな、保険屋
同士の馴れ合いは、私には通用しませんから」
「では、もう一度お電話いたします。」
 と、新居は電話を切った。ためしに、新居の保険会社に確認を入れてみる。
ときどき、大会社の保険屋と名乗って、示談交渉の代理をする不貞な輩もいる
ので、これは必須だ。
「M井S友K上か。ああ、あの女優さんが踊ってるCMのところか。最近合併した
んだよな。たしか」
 もう6時を周っていた。
「お電話ありがとうございます。M井S友K上です。本日の営業時間は終了しま
した。平日の営業時間は…」
 立った今、電話かかってきて、掛け直して『営業は終了』とはどういうこと
ねん!!
「おいおい…。これだから大会社は…。」
 雨の音がすごい。
 天保も雨の音にまけないくらいに、音を立ててラーメンをすすった。


                              《続く》


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     【ちょっとおかしな二人の話《兄弟編2》】
                           by瀬乃美智子


レイモンドを見送ったカミアは、うきうきとクローゼットを開けたり、戸棚か
ら旅行用のバックを取り出したりしている。

レイモンドから誘われた彼の実家への旅は、まだ日程さえ決まってはいなかっ
たが、嬉しくてたまらないのだろう。
家を出た彼がすんなり実家の敷居を跨がせてもらえるかは分からないが、それ
も楽しめばいい。


「〜♪…―――ん?」

バッグを選び、乾拭きをしていたカミアの手が止まる。
彼女の手を止めたのは玄関のチャイムの音。

「誰かしら?」

今日はもう訪問者の予定はなかったはずだけど…。
カミアは小首を傾げながら、玄関近くのインターホンの受話器を上げる。


「はい、どちら様でしょうか?」

『狙撃部にお勤めのカミアさんのお宅はこちらでよろしいでしょうか?』

相手の言葉に、一瞬にしてカミアの笑顔が消える。
名前は玄関脇のポストでもこのアパートの住人からでも知る事ができるが、カ
ミアの職場…しかも彼女が所属している部署まで知っている人物は極々身内し
かいない。
しかも、ここまで挑戦的に確認されては、カミアが警戒するのも当然である。
数々の凶悪犯の狙撃を担当してきた彼女には、逆恨みする組織の人間も少なく
は無いのだ。


「いいえ、違いますけど?」

インターホンをフリーハンド設定にし、カミアはそっと気付かれぬようにサイ
ドテーブルの上のバッグを手にする。
先程カミアが用意していたものよりかなり小さいそれは、非常の折、必要最低
限のものを持って逃げられるようにしている非常用の荷物であった。

『…あら、辺ですわね。こちらのはずなんですけど…。』

自分とそう年齢も変わらない様子の少女の声に、しかしカミアは警戒を緩めな
い。音が漏れないように外に面した窓に近づき、外の街道を見下ろす。

ここは2階、窓から飛び降りようとして降りられぬ高さではない。

(…やっぱり…っ。)

窓の下でこちらを見上げている金髪の男性は見張り役だろう。
もう少し隠れて潜んでいればいいものの、彼は窓の真下でこちらをじっと見上
げていた。

『…あの、私怪しいものではございませんのよ?』
「そうなんですか?」

声ではにっこり微笑んでいるが、カミアの手は携帯の緊急ボタンを押していた。
これで緊急信号が本部に届いているはず、あとは時間稼ぎを…。

「…え!?嘘!」

携帯の画面を見てカミアが焦る。
普段なら何の損傷も無く発せられる緊急信号が、電波の遮断によりエラー表示
のまま固まっていた。

「妨害電…。」
『ごめんなさい。そのおかしな玩具なら使えなくさせて頂いたわ。私、人間の
そういう玩具には詳しくはないけれど、変な波動を感じたもので…。』

少女の言葉に、カミアはぞくりと硬直する。
こちらの様子を見られている…。
隠しカメラか何かを…?と部屋の中に眼を走らすが、別段変化は見て取れない。

『…お許しは頂いていないけど、入らせて頂くわね?』


言葉と共に、玄関のドアノブに手がかけられる気配。
――ドアには勿論鍵が掛けられている。

「やめなさい! 入ってきたら撃ちますよ!!」

カミアは持っていたバッグから銃を取り出し、玄関へ通ずる通路へと構える。

しかし、次の瞬間……。

「っ!」

カミアは聞きなれぬ音に我が耳を疑う。
鍵かかかったままのドアノブが力任せに回される音。
限界まで達した錠前は、鈍い金属音と共にねじりきられ、共に壊れ去る。

「失礼致します」

今までインターホン越しだった声が、直接カミアの耳に入ってくる。
優しげな少女の声。
ドアが開け放たれた時、そこにはその声に相応しい黒髪の少女が佇んでいた。

「ごめんなさいね、少し力を入れすぎたみたい」

困ったように引きちぎったドアノブをそっと床に置き、少女はするするとカミ
アの元へと歩み寄る。

「…近づかないで!撃ちます!」

はっと我に返ったカミアは、銃を構え直す。
しかし少女は立ち止まる様子が無く、カミアは仕方なく銃口を下方へ構え直し、
発射する。
この近距離では、もう警告用の空砲を撃っている暇は無い。

「っ!」

少女の動きを止めるはずだった一発目の弾丸は、少女の足元で何かに弾かれた
ように横へそれる。

床に当たった!?
いや、そんなはずは…と思いながら、カミアは2発目・3発目と歩みを止めな
い少女に発砲する。
足と腕――急所を外したはずのそれは、何故か少女には一発も当たらず弾かれ
る。いや、認めたくはないが、当たっているのだ。ただ、それが柔らかなはず
の少女の皮膚に当たって弾かれてしまうのだった。

「止まれといっているのよ!」

少女と距離を置く為、カミアは下がりながら警告する。

「…あら、怖がらないでいいんですよ。私たち、あなたにお願いがあってまい
りましたの」
「ではお断りします、どうぞお帰りを」

わけが分からぬ状態ながら、気力だけは保ち続ける。
常々集中力を持続させる訓練を欠かさぬカミアならではの精神力であった。


そんな張り詰めた空気を割ったのは、聞き覚えの無い青年の声。


「…随分騒がしいが、終わったか?」
「っ!」
「…あっ!」

それは、先程まで窓の下にいた青年であった。
何の警戒心も無く部屋へと入ってきた彼は、二人を見て無表情のまま…あまり
騒ぐとご近所に迷惑だぞ?と、場違いな言葉をカミアに言った。

「動くなっ!」

カミアが青年に向かって、銃を向ける。
しかしその刹那、あれほどまでに笑顔を崩さなかった少女の表情が一変する。

「駄目!竜彦には手を出さないでっ!!」

次の瞬間、少女の姿はかすみ、部屋いっぱいに巨大な何かが横たわる。
カミアは圧倒的な質量の出現に後方に強く体を叩きつけられ、一瞬にして意識
を失う。

後には…、部屋の中に狭そうに身を屈める一匹の竜と、竜に抱えられた先程の
青年。

「――瑠璃葉、太刀見家と違って、一般家庭の部屋は狭いから元の姿に戻っち
ゃ駄目だって言っただろ? 彼女を踏み潰さなかったからいいものを…。」

『ごめんなさい、竜彦』


床に倒れる少女を少しだけ心配げに見る青年に、部屋いっぱいに身を横たえた
竜は、すまなそうに翼で顔を隠すのだった。


                              《続く》

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
 あとがき
 次回の本号の「君が御世に」もお休みします。
 すみません。篠原、かなり腹立ってまして…(汗)
交通事故に関するご意見など受け付けております。
ちなみに、保険会社などは微妙に伏せてありますが、
「あ、うちここと契約してる」と心に思った方。他の保険会社に乗り換えまし
ょう。あそこは、ダメです。JAROと国民生活センターと消費者生活センターに
苦情言わないと…。
この話しは事実をもとにしています。

君が好き!はリンクフリーです。
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 月刊小説「君が好き!」メールマガジン  2003/9/1 増刊号
 発行責任者 :篠原美姫緒  kimigasuki@1-emishop.com
 Webページ:http://kimigasuki.hp.infoseek.co.jp/
 発行システム:『まぐまぐ』『melma!』『Mailux.com』『E-Magazine』
 マガジンID:0000025584 m00012567 ms00000142  loveyou
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