メルマガ:露骨。
タイトル:露骨。〜第53号〜  2003/07/29


女は諦めたように素直に全身から力を抜いた。
其処には想像していたよりもずっと大きな安心感があり、
わずかのあいだ、
女は自分の置かれた状況を忘れ去ってしまう。

ふと周りの景色に左目を向けると
世界は一斉にオレンジ色で染められていて
女はぼんやりと片目でそれに見入った。
何台もの車がどれだけ凄い速さで通り過ぎていこうと、
依然、美しさを衰えさせることがない。
此処にはこんなにも美しい場所が存在していたのかと、
初めて目にするその風景に見蕩れながら、
女は意識の奥底に微かに残っている筈の記憶を
どうにか引き戻そうと必死だった。

あのときもやはり、
今日と同じような状況下にあって、
同じような時間が流れていた。
やはり車は恐ろしい勢いで走り去っていたが、
辺りは今よりも遙かに真っ暗だった。
頭上には高い高い木から生えたたくさんの枝葉が
幾重にも連なり合い
それらが街灯の明かりに照らされ
まるで其処だけが切り取られたかのように、
真っ白な光を帯びてざわめいていた。

女は気付いた。
こういった瞬間に見た景色は、
記憶に残るのだ、と。

女の目は閉じられない。
女はますます、その世界へと埋もれてゆく。



                    
                     エイラ(eila)
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