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女は諦めたように素直に全身から力を抜いた。 其処には想像していたよりもずっと大きな安心感があり、 わずかのあいだ、 女は自分の置かれた状況を忘れ去ってしまう。 ふと周りの景色に左目を向けると 世界は一斉にオレンジ色で染められていて 女はぼんやりと片目でそれに見入った。 何台もの車がどれだけ凄い速さで通り過ぎていこうと、 依然、美しさを衰えさせることがない。 此処にはこんなにも美しい場所が存在していたのかと、 初めて目にするその風景に見蕩れながら、 女は意識の奥底に微かに残っている筈の記憶を どうにか引き戻そうと必死だった。 あのときもやはり、 今日と同じような状況下にあって、 同じような時間が流れていた。 やはり車は恐ろしい勢いで走り去っていたが、 辺りは今よりも遙かに真っ暗だった。 頭上には高い高い木から生えたたくさんの枝葉が 幾重にも連なり合い それらが街灯の明かりに照らされ まるで其処だけが切り取られたかのように、 真っ白な光を帯びてざわめいていた。 女は気付いた。 こういった瞬間に見た景色は、 記憶に残るのだ、と。 女の目は閉じられない。 女はますます、その世界へと埋もれてゆく。 エイラ(eila) eila@usa.co.jp ■イヴェント日記。↓ http://www.memorize.ne.jp/diary/78/46929/ ■掲示板。↓ http://bbs.melma.com/cgi-bin/forum/m00057741/ |