メルマガ:月刊小説メールマガジン『君が好き!』
タイトル:月刊小説メールマガジン『君が好き!』2003/7/15  2003/07/16


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月刊小説メールマガジン         2003年7月15日 発行
『君が好き!』  vol.63
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こんにちは^^ まだまだこちらは梅雨があけきりませんが皆様の周りはいかが
ですか? 瀬乃は只今修羅場中♪ …あ、修羅場といっても男女の恋の揉め事
ではなく、原稿が忙しい方の修羅場ですよ(笑)
さあさあ、梅雨を吹っ飛ばす感じで小説にGOー!…て、瀬乃の新作暗めなん
だけど…(汗) まぁ、気にせずに楽しんでやって下さいませ^^
(瀬乃 美智子 拝)
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今月の目次
▼君が御世に・19          篠原美姫緒
▼密やかな花・03         瀬乃美智子
▼あとがき
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              君が御世に19
                          篠原美姫緒

  笙子は平家に縁のある方々からの便りに、自分をいとおしく感じた。

 なんて温かい方々…

 だが、笙子の知らないところで、平家は崩壊の一途をたどっていたのである。

「おじじと法皇さまの溝は深まるばかりだ…」
「まぁ」
 伽の後、資盛が申し訳なさそうにきり出した。
「また、法皇の熊野の御幸についていくことになった。またしばらく会えない」
 そういって優しく額に接吻をする。
「そうですか…」
「源氏が不穏な動きを見せ始めているのだ。法皇さまは源氏に近づこうとして
いる。……笙子に言っても仕方のないことだが…」
「なんでも言ってくださいな。私は世の政(まつりごと)のことはわかりませ
んが、あなた様が心の内に秘めていて、吐き出せないでつらいお顔をされてい
るのを見ることができません。」
「笙子…」
「わたくしを人形だと思ってなんでもおっしゃってください」
 一つしか違わない年下の男を優しく包み込むように抱いた。
「ありがとう…。笙子の胸が私の心休まる唯一の場所だ」
 そい言われては、悪い気はしない。
 夜が明けるまで愛し合った。


 十月に入って、同じ建礼門院仕え、大納言の典侍といった藤原経子に文をし
たためる。なにせ彼女は重盛の正妻であり、維盛の母である。そして大納言成親
の妹でもあった。
 重盛亡きあと、小松谷の邸に篭りっきりで、静かな暮らしをしているという。

 かきくらす夜の雨にも色かはる袖の時雨を思ひこそやれ

 とまるらむ古き枕にちりはゐてはらはぬ床を思ひこそやれ

 と二首したためた。
『色かはる』とは、

 時雨の雨 まなくしくれば 槇の葉も あらそひかねて 色づきにけり

 という歌から、紅葉の雨とかけて、紅涙すなわち血涙のことである。
 とどめ残っている重盛の思い出を払えないでいることをお察しします。
 すると二首お返しがあった。

 おとづるる時雨は袖にあらそひてなくなくあかす夜半ぞ悲しき

 みがきこし玉の夜床にちりつみて古き枕をみるぞ悲しき

 もう重盛さまはいらっしゃらない。
 愛する夫を失った女の悲しみは、泣くことでしか晴らせないのだろうか。
「励ましの文を書いても、慰めにもならないわ…」
 笙子は熊野にいるであろう資盛を思った。

 このまま帰って来なかったら…

 そう思うと、心が熱く、自然と涙が出てくる。
 そして、資盛がいなくなるのを見計らったかのように、隆信から歌が贈られ
てくるのだ。
 
 昔思ふにほひか何ぞ小車にいれしたぐひの身にあらなくに
  
 返し

 いづれとは思ひもわかずなつかしくとまる匂いのしるしばかりに 

 資盛と別れてつらい自分と
 隆信から誘われて喜んでいる自分がいる。

 お二人ともいつか本当のお別れがくるのだろうか。
 その別れはすぐそこまできていた。

                             《つづく》
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            「密やかな花・3」

                           by瀬乃美智子

最後の謁見が終了し、謁見の扉が歯車の音と共に閉じられる。
扉から排出された人影は、謁見の控え室へとその身を再び戻された。

「イグルーツ」

彼を待っていた人物がその名を呼ぶと、まだいたのかと…、そのきつい目線が
オーカーを貫いた。

「話があるのだ」

黙っていても埒があかない。
早速話を切り出そうとするオーカーに、イグルーツは無視を決め込み出口の扉
へと向かう。

「待て!話が…。」
「私にはない」
「…カウネルの事だぞっ!」

その名に…、一瞬、イグルーツの足が止まる。

「…彼は今、死にかけている」
「―――それが?」

どうしたというのだと…、オーカーを睨み上げる彼の目が言っていた。
既に彼は自分の主ではない、なんの関係があるのだと…。
逆恨みをすね身でも、そのぐらいの分別はあるらしい。
いや、恨むからこそその名を持ち出されること自体、嫌悪するのかもしれない。

「お前の力がいる」

オーカーの言葉に、イグルーツの眉が微かに上がる。
だが次の瞬間、その表情は更に険しくなり、私が奴を助けるのに力を貸すとで
も思っているのかとでもいうように、ぎりりと歯を食いしばる。

「…いいざまだ」


それだけ言い、イグルーツはきびすを返す。
オーカーが止める声にも立ち止まらず、謁見の間の大扉にその手をかざす。

「待て、イグルーツ! …これが何だか分かるか?」

最後の手段とばかりにオーカーのマントのローブの中から出された筒状の何か…。
古びたそれは、黄色く変色しながらも、まだ紙の形をなしていた。

ゆっくりと…イグルーツがその身を返す。
微かに振り返った彼は、鋭い眼光でオーカーの手の中のものを見据えていた。

「…何故、お前は人間と契約しない?」

オーカーの静かな声が謁見の間に低く響く。

「…人間を嫌って? いや…それだけではないはずだ」

その理由がここにあると…。オーカーの真っ直ぐな目が言っていた。
しかしその目は微かに左右に目配せされる。

この部屋はオーカーとイグルーツの2人きりではなかった。
他の魔王たちは退室していたものの、見張りの門番や、世話係の魔物たちが数
名控えている。
彼らは決して口は軽くはないが、魔王たちに問われれば素直に聞いた全てを話
すだけの力弱き者たちだ。

だから、ここは言い争うには妥当な場所ではないと…、オーカーの目は言って
いた。

「…外に私の馬車を待たせている。そこで話そう」


あそこならば、邪魔者はいない。
イグルーツはオーカーをきつく睨みながらも、導くように部屋を出るオーカー
の後に続く。
その目は…、ずっとオーカーの懐にしまわれたひとつの書類を睨んでいた…。




「…王君、お加減は」

身の回りの世話をする侍女の言葉に、ベッドの上の王は軽くうなづくのみで答
える。
ここしばらく床を離れる事ができぬ彼に、不安げな周囲の反応。

常ならばそばから離れることのないオーカーがいない事も、余計に皆の心を沈
ませていた。

「あの…、オーカー様はどちらへ?」

侍女の言葉に、王は…なんとも例えようのない表情を浮かべ、短く答えた。

「私の…過去を取り戻しに言ったのだよ」

王の不可思議な答えに、侍女は首を傾げるばかりであった…。


「…魔王は、複数の人間と契約を交わすことは出来ない」

下級の魔族と違って、力が大きい彼らは行動に制約がつく。
契約した人間同志が敵対するような事態を避けるため、魔王たちは決して複数
の人間と契約をしないのた。

馬車の中で、オーカーは静かに言葉を綴る。
自分の向かいに座るイグルーツをなるべく刺激しないように、それでいてなお
かつ…、目的を達成すべく…。

「イグルーツ、お前はカウネルとの関係に失敗し、魔界へ戻った。…しかし、
その時一番大切な事を怠った」

オーカーの言葉に、イグルーツは何も返さない。

「…それがこれだ」

言葉と共に、オーカーは先程イグルーツへとかざした紙筒を取り出し、広げる。
そこには、普通の人間には読めぬ言語と、血のサイン…。
悪魔と人間が交わす、魂の契約書。


「イグルーツ、お前は怒りに震えて彼の元を去ったばかりに、契約の破棄を怠っ
た。――これがある限り、お前は他の人間とは契約できない」

険しさを増すイグルーツの表情。
常ならば、たとえ契約を解かなくとも、その人間の死と共にその契約は塵と帰
す運命。
しかし、それが…その2百年の長きに渡りされずにきた理由が、イグルーツ自
身の行いにあった。


「――恨むならカウネルではなく自分を恨むがいい、イグルーツ。彼を…カウ
ネル=ハマイヤードを老いぬ体にしたのはお前なのだからな」


それは彼が生き続ける限り、永遠にイグルーツには契約許させないという事実。
オーカーの言葉は、静かに馬車の中に響き渡ったのだった…。

                               《続く》
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あとがき
瀬乃の新作は、書いててすんなりかけるのです。
やはり、魔族ものが好きなのですよね…。因縁と性…、運命と人の心の織り成
す何かを書くのが好きなのです。
皆様は…、どうお感じになるのかな?(*^ー^*)

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 月刊小説「君が好き!」メールマガジン  2003/7/15 63号
 発行責任者 :篠原美姫緒  kimigasuki@1-emishop.com
 Webページ:http://kimigasuki.hp.infoseek.co.jp/
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