メルマガ:露骨。
タイトル:露骨。〜第50号〜  2003/07/07


そのつい前日にも訪れたばかりだというのに
諸事情あって二日連続で足を運ぶことになった現代美術館、
今日は探検をするぞ、とひとり心に決めて、
まずは図書館に入ってみました。
地下へと続く階段を降りて
ひとたび足を踏み入れてみると、
其処はまるで夢の世界のようです。
膨大な数の資料が揃えてあって、
思わず、行きたかったけれど行けなかったもの、
ワタシの中で想い出に残っているもの、
などの美術展、建築展、そのほかもろもろのカタログを、
大喜びでそれはそれはどっさりと机の上に運んで置き、
たっぷり一時間半以上もかけて読み耽ってしまったのでした。

静かな激しい時間を堪能したあとは
レストランの近くにある少し重めのドアを開けて、
そのまま外に出てみました。
(丁度お昼どきで、チラリと覗くと
レストランはとても賑わっていました)
この美術館は、出入口をたくさん持っていて、
何処かから迷い込んできた人にも、
何処かへと迷い込んでしまった人にも、
どんな人へでも手を差し伸べてくれるのです。
ところが今日、ドアを開けた途端、
其処には穏やかな池が広がっていて、
それを横目に、Uターンするかのように
石の坂道を上がっているときに、
チョロチョロと水の流れる音が聞こえてきて、
ああ、この美しい音を聞かせたくて、
そして、この綺麗な坂を目に入れさせたくて、
柳澤孝彦氏はこの空間を設計したのかもしれない、
なんて、初めて思ってしまったのです。
(それほどこの風景は感動的でした)

建物の周りに設置されたたくさんのオブジェを観察しながら
夏の日射しを浴びて
もう一度館内へ戻っていくと、
今度はカフェに入り、
チョコ&チーズケーキとクランベリージュースを注文しました。
それをテラス席へ持っていって
生暖かい空気の中で一口、一口、
味わっていくのです。
ケーキの味は魔法の味。
舌先がとろけて、感覚を麻痺させてくれる甘い甘い、味。
満足したワタシは再び探検を開始し出すと、
ほどなく2階のテラス席から先ほどの池のある場所まで、
ぐるりとひとつに繋がっていることを発見しました。
そして、カフェ内は円状に造られていて、
其処を回って抜け出ると、
また屋内でのテラスのような場所がぽつんとあって、
其処から館内が見渡せること、
エレヴェイタァには「閉」のボタンが無かったこと、
(待っていれば自然に閉まるのです。
不幸な事故をこれ以上増やしませんように)
トイレットがたくさんたくさんあること、
(とても親切な設計だと思う)
などなど、新しいことを、次から次へと発見していきました。

さて、一息ついて常設展に入ると、
此処はもう本当に本当に素晴らしい空間でした。
何度かこちらには訪れていますが、
その都度、毎回毎回、
その展示主題、展示作品、展示デザインの充実ぶりには、
息を呑みます。
天井が高ぁくて高くて、
すべての面から、この美術館の荘厳さを際立てようとしています。
何だか嬉しさでいっぱいになりました。

それから、無料で使えるインターネットをしてみたり、
チラシ集めに精を出し、
たくさんの素敵なイヴェントたちの情報を得ると、
地下2階の講堂へと移り、お話を聞きに行きました。
今日は浅葉克己さんと松永真さんの講演会が行われるのです。
「われらデザインの時代」と題されたおふたりの対談は、
スライドや楽しい小話も交えつつ、
田中一光氏の追悼を忍ぶようでもあり、
何より、戦後から現代、そしてこれからの、
「デザイン」というものの在り方について、
滔々と語ってくださりました。

2時間を越えた講演会、
胸に広がる不思議な充実感を持って講堂を出ると、
いよいよ本日いちばんの目的、
「田中一光回顧展」
ドキドキしながら展示会場へ一歩を踏み出し、
安藤忠雄氏のペットボトルを駆使した展示デザインにも、
またドキドキ。
そして……。
一光氏は一光氏でした、最期まで。
彼は、本当に本当に、
このお仕事を、そして演劇を、
そして日常生活のあらゆるものを、心から愛していらっしゃいました。

今回、いちばん感激したこと。
此処は、何処へ行っても、何階へ行っても、
たとえ地下だとしても、
光が窓いっぱいから差し込んでくる空間が完成されていること。
そして、アトリウムから一光展、
一光展からジブリ展、
地下のスペースからジブリ展が覗ける、などといった、
相互と相互のスペースが独立せずに、
リンクし合う関係が均等な配分でもたらされていること。
これこそ、美術館のあるべき姿だと思いました。
妙な閉鎖感を出してしまってはいけないと思うのです。
芸術とは、美術とは、
誰にでも平等に提供され、得る機会が与えられるものなのです。

美術館を出るころ、
時計を見るともう夕方の5時を過ぎていて、
朝10時に訪れた筈だったので、
まるまる7時間もこの空間で過ごしたのね、
と考えると、
思わずにこにこと笑顔にならずには
いられなくなってしまったのでした。

美術館。
それはまさに、存在そのものがアート。



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