メルマガ:近現代史を考える
タイトル:近現代史を考える(33)  2003/05/20


33.「マルコポーロ」廃刊事件
   (その13)




私が、「ホロコースト」について、
こうした論争が存在する事を知った
切っ掛けも、今お話した事と大いに
関わりが有りました。


話を「マルコポーロ」廃刊事件に戻
しますが、そもそも、私が、この論
争について知った切っ掛けは、「マ
ルコポーロ」廃刊事件(1995年)
から6年前の1989年、ニュース
ウィーク日本版で読んだ或る記事に
有りました。


その記事は、「ホロコーストに新解
釈/「ユダヤ人は自然死だった」で
揺れる歴史学界」(ニュースウィー
ク日本版1989年6月15日号)
と題された記事ですが、その内容は、
驚くべき物でした。即ち、アメリカ
の歴史学界で、或る歴史家が、アウ
シュヴィッツで死亡したユダヤ人の
多くは、実はガス室などの手段で殺
されたのではなく、病気や飢えと言
った原因で死んでいた、と言う著作
を発表し、大論争に成って居る、と
言う内容の記事だったのです。これ
は、言うまでも無く、それまで私が、
本やテレビで教えられて来た「ホロ
コースト」の説明とは、全く異なる
内容の説明でした。


ですから、初めてこの記事を読んだ
時、私は、ひどく当惑させられたの
ですが、その記事で興味深かった事
は、その歴史家が誰かと言う事でし
た。


その歴史家は、アーノ・メイヤー
(Arno  Mayer)と言う歴
史家で、当時、プリンストン大学の
教授と言う地位に在る人物でした。
そして、ニュースウィークのその記
事に拠れば、左翼であり、祖父が強
制収容所で居る人物だと言う事でし
た。又、この記事には書いてありま
せんでしたが、ユダヤ人でもある歴
史家だったのです。


ですから、この歴史家は、どう考え
ても「ナチの弁護」などする様な人
ではありません。その上、プリンス
トン大学教授と言う高い地位に在る
歴史研究者なのですが、そんな人が、
「アウシュヴィッツのユダや人の多
くは、病気で死んだ」と主張する本
を出版したと言うので、「ガス室」
の存在を信じていた当時の私は、そ
の記事を読んで、大いに当惑させら
れたのでした。


しかし、この記事を切っ掛けに、私
は、それまで信じて疑わなかった
「アウシュヴィッツのガス室」につ
いて、実は、論争が存在する事を知
ったのでした。そして、このメイヤ
−教授の様に、どう考えても「ナチ
の弁護」などする筈の無い人が、こ
の様に、従来の「ホロコースト」と
全く異なる歴史を語る人が居る事を
知って、「何かが有る。」と考える
様に成ったのでした。



既にお話したラッシニエの場合と
同様、欧米で、「ホロコースト」に
疑問を投げ掛ける歴史研究者は、ド
イツ人や政治的にドイツ寄りの人々
と言う訳では毛頭なく、元レジスタ
ンスやユダや人と言った、ナチスド
イツの犠牲者の側の人々に及んでい
る、いや、彼らこそが、その中心的
役割を担っている事が、このメイヤ
ー教授の著作を巡る騒動にも反映さ
れて居た訳です。−−その事に、私
は、非常に興味を抱いたのでした。


                       (続く)






平成十五年五月二十日(火)












     西岡昌紀(にしおかまさのり)
    (内科医・元厚生省医務官・
     「アウシュウィッツ『ガス室』
       の真実」(日新報道)著者)

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