メルマガ:月刊小説メールマガジン『君が好き!』
タイトル:月刊小説メールマガジン『君が好き!』  2003/05/15


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月刊小説メールマガジン         2003年5月15日 発行
『君が好き!』  vol.59
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ゲホゴホゴホゴホっ(>o<) 皆様こんにちは遅くなりましてすみません(汗)
風邪引き美智子でございます。皆様お体は大丈夫ですか?私はすっかりダウン
です。ああ、折角の美声が…(聞こえないので言うだけタダです(笑))。
季節の変わり目、どうぞお気をつけ下さいね。
さぁ、今回は瀬乃の新作連載開始でございます(*^ー^*)
(瀬乃 美智子 拝)
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今月の目次
▼君が御世に・17          篠原美姫緒
▼密やかな花・01         瀬乃美智子
▼あとがき
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              君が御世に17
                          篠原美姫緒

  夏も盛りになると、暑さも極度になり、小松のおとどの容態が急変した。
 宮中には、陰陽師・祈祷師・僧侶などが入れかわり立ち代わり祈りを捧げて
いる。
 都では、今日も百鬼夜行が出たとか、妖怪が出たなど、夜は人も歩かないほ
どになってしまった。重盛の容態は日に日に悪化していく。祟りだという人も
多い。
 治承三年八月一日。清盛と後白河法皇の間を唯一つないでいた、内大臣平重
盛が薨る。享年四十一歳。いわゆる厄年であった。
 気丈に振舞う重盛の子供たち。
 維盛も資盛も、涙一つみせずに葬式を執り行っている。
「なんて、遠い存在…」
 笙子は、先月の法講といい今日のこの葬式といい、平家の格の違いにただた
だ自分が惨めになるだけであった。
 

 裏庭の池では、涼しそうにとんぼが蓮の花にとまっている。鯉が蓮を揺らす
と、とんぼはそっとはなれ、また別の蓮へと止まった。
「ひゃあ!」
 誰かに後ろから抱きつかれ、思わず声をあげると、とんぼはどこかへいって
しまった。
「笙子…」
「資盛さま?!」
 資盛は、右京の頬に自分の頬をくっつけた。
「ひ、人目につきますよ!」
「いいよ、別に」

 どきどきどきどきどきどきどきどきどきどきどきどきどきどきどきどきどき

 数分であったが、笙子にはとても長く感じられた。
「今夜…」
「は、はい?」
「今夜、車を迎えにやるから」
「うん」
「必ず、来て」
 資盛はそれだけ言い残すと、静かに立ち去って行った。
 


 資盛のいうとおり、夕刻には牛車が屋敷の前に来ていた。
 ためらうことなく、その牛車に乗る。
 静かにゆっくり車は走り出した。
 大通りから裏路地へと入ると、一軒の質素な屋敷へと入って行った。
 戸を開けると、そこには普段着に着替えた資盛がたっていた。
「こ、こんばんわ」
 笙子が挨拶するやいなや、彼は笙子の右手をぐいっとひっぱり、ひきずりだ
すように引き寄せた。
 笙子は足を取られ、バランスをくずし、牛車から落ちそうになる。すると資
盛はそのまま抱き上げた。笙子の胸のあたりに、資盛の顔が来る。
「お、おろしてください」
 恥ずかしそうに、見下ろすと、こちらを見上げる青年の顔があった。
「や〜だ」
「やだってやだってやだってやだってやだってやだって…」
 笙子の足は、地面から浮いており、ちょっとてれかくしのように足をぶらぶ
らさせてみた。
「このままつれてく」
 屋敷の裏へ回り、そこから座敷へと上がる。
 蚊帳のなかには布団が用意されていた。
 資盛は笙子を下ろすと、いつもよりも強く抱きしめた。資盛は笙子に会うと
かならず、強く抱きしめるが、今日は少し震えていたかもしれない。
「笙子」
「はい」
「少し胸を貸してくれないか?」
 いうないなや、資盛は泣き崩れてしまった。
 平家を保っていた父重盛が死んだからだろうか、いつもの資盛とは全く違う
姿であった。そこにいるのは、雲の上の平家御曹司ではなく、ただのいとおし
い青年である。
 笙子はやさしく包み込むようにそっとなでた。
「資盛さま、遅くなりましたが、お悔やみ申し上げます。」
「笙子、僕は…。君が思うほど強くないし偉くもない」
「資盛さ…ま…」
「所詮、おじじと親父の諸行の上に駒として居座っているだけだ」
 資盛はそっと顔を近づけてきた。
「僕は、君が好きだよ」
 資盛のキスは、少ししょっぱかった。


                             《つづく》
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            「密やかな花」

                           by瀬乃美智子
「カウネルの治療の方法が分かったぞ」

魔王オーカーは、屋敷の暗い書庫の中でひとり歓喜に打ち震え、呟いた。

我が契約の主 カウネル。
彼と契約し、どれだけの時を一緒に過ごしてきたことだろう。
一国の王である彼の傍らにはいつも自分がおり、彼は事あるごとに自分の力を
必要としてくれた。

しかしそんな彼も、歳をとり、今は病床の身だ。
しかもその病は、魔道に深く関わった者独特の病で、数千年の時を生きてきた
オーカーでさえ初めて実際かかった人間を目の当たりにした希少の病だ。

魔族たちの間ではその病を治すすべは、死あるのみと言われているが、やっと
彼は自分の所有する膨大な資料の中からその方法を見出したのである。

「しかし、これは…。」

それに必要とするある一粒の種に、オーカーは深く沈んだ溜め息をひとつつい
た…。



「オーカー様だぞ」

魔界の地。
魔王や魔族たちが帝王陛下に謁見する為に訪れる巨大魔宮にオーカーの姿はあ
った。
もっとも謁見用とはおおげさで、訪れた多くの魔族たちは陛下にお会いするで
もなく、仲間と話したり情報交換をしたりと…、言うなれば、魔族たちの社交
場といった風情が強い場所であった。

魔族たちはここで、今、どれとどの魔王が親密で、どの派閥が一番力を有して
いるのかを図っているのであった。

そして、今日、その宮殿を訪れた魔王オーカーは、今、魔界の魔王の中では古
株のお歴々を除けば一番の実力を持っているとされている魔王であった。
もっとも、古株のお歴々を除けば…というのは、オーカーが古株の彼らの顔を
立てているからであって、実力でも常にナンバーワンなのは言うまでもなかっ
た。

何より、オーカーはその深い知識と力の強さだけではなく、人柄で多くの支持
を受けていた。
魔族には珍しく、自分の利益よりも、魔界と主の利益を優先し、一歩引き状況
を判断し、どっしりと構えた落ち着きを有していた。
それを魔族のくせに奇麗事ばかりぬかしやがってとという者たちもいるが、そ
んな者たちは大抵オーカーの実力よりももっとしたの魔族ばかりで手を出すよ
り、口だけの者ばかりだ。



「おお、オーカー。どこへ行く?」

魔族のひとりがオーカーへと声をかける。
金色の髪に銀の甲冑、生える尻尾は彼の本来の姿を思わせる狼のそれ。

近衛兵騎士団の隊長だがオーカーよりかなり身分は低く、しかし、気さくに話
し掛けてもオーカーなら嫌な顔ひとつしないのを知っているのでいつもこんな
感じであった。

オーカーも…もとより、魔族であるのだから今の姿が本来のものかはさだかで
はないが、見た目はかなり人間に近い。人間の外見齢で言えば二十代も後半。
決して長くない漆黒の髪を軽く後ろに流し、西洋の騎士団の制服を思わせるそ
れは、マントも含めて全て黒で統一されていた。

「どこにいく? そっちは今やばいですよ?」
「――何かあったのか?」

呼び止められて、オーカーは何事だと近衛隊長に訪ねる。
すると金色の狼は、奥に聞こえぬようにとこっそりオーカーの耳元へと囁いた。

「今、奥にイグルーツの奴が来てるんでね。あなたは行かない方がいいっても
のです」

魔王イグルーツ…、この魔宮の中で唯一、オーカーを嫌っている事を公言して
はばからない魔族。
そのオーカー嫌いは魔界では有名な話で、オーカー自身も、その事で何度も嫌
な思いをさせられたことがあったのである。

「そうか、それはよかった…。」

教えてもらえて…、という意味だと思い、なんのおやすい御用と言おうとした
近衛隊長は、次の瞬間、オーカーの口から思いも寄らない言葉を聞いた。

「奥にいるなら探す手間が省けた。――私は彼に会いに来たのだ」

                               《続く》
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あとがき
はい、今回からはじまりました瀬乃の新作「密やかな花」いかがでしたでしょ
うか?この作品は、私が以前からずっと暖めていたお話です。続き物ですが、
あまり長引かない程度に、でも描きたいシーンはそれなりにちゃんと踏まえて
かいていけたらなと思っております。
…思いっきり洋風魔族なのに、題名が和服チックですねという突っ込みはどん
どん受け付けておりますが(笑)、楽しんでいただけたらと思います。


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 月刊小説「君が好き!」メールマガジン  2003/5/15 59号
 発行責任者 :篠原美姫緒  kimigasuki@1-emishop.com
 Webページ:http://kimigasuki.hp.infoseek.co.jp/
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