メルマガ:月刊小説メールマガジン『君が好き!』
タイトル:月刊小説メールマガジン『君が好き!』2003/05/01  2003/05/01


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月刊小説メールマガジン         2003年5月1日 発行
『君が好き!』   増刊号vol.36
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 こんにちわ、篠原です。
 新緑が瞳にまぶしい季節となりましたね! 
 暑いかったり寒かったり風が強かったりと、体調を崩しやすい季節ですが、
だれないように、新緑の中を散歩してはいかがでしょう。
 篠原はいまだに自然に触れません(爆) 花粉症がアレルギーが…

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増刊号 今月のラインナップ  
●愛の寸劇劇場 【ちょっとおかしな二人の話《傘編》】瀬乃美智子
●『聖獣戦記』第9章 篠原美姫緒
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     【ちょっとおかしな二人の話《傘編》】
                           by瀬乃美智子


振り仰げば雨粒。
それはサラサラと自分に向かって振り落ちて、乾いた髪と服を濡らして行く。

ああ、これからデートだって言うのに何てタイミングで降り始めるのか…。

そんな思いが胸を閉めた瞬間。
…ふっと、レイモンドは病室のベッドの中で目が覚めた。

今日は春もうららな絶好のデート日和。
昼間は仕事のカミアに遠慮して、夕方彼女の家でディナーをご馳走になる約束
だ。

外出届は既に提出済み。
少し疲れたので昼寝を…と思ったのだが、どうやら予知夢を見たらしい。

夢の中で自分が歩いていた道は通ったことのない道。
多分、住所を頼りに今日訪ねる予定のカミアの家への道だろう。

「雨が降るのか」

こういうちょっとした予知夢ならいつもの事。
レイモンドはベッドから起き上がると、売店に傘を買いに出る。
折角、彼女の家を初めて訪問するのに、濡れ鼠というのはなんともいただけな
い。

「さて、何を食べさせてくれるのかな?」

少し変わった彼女の手作り料理を想像して、レイモンドはくすくすと笑みをも
らしたのであった。




「今日、彼が家に来るのー♪」

携帯に向けて楽しそうにお喋りを続けるカミアは、空いた片手でテーブルや棚
の上の拭き掃除に勤しんでいる。
料理は既に仕込み済みだし、後は彼の到着を待つばかり。

時間がなくて部屋に花の一つも飾ることが出来なかったが、普段から世話を欠
かさない窓辺の植木は薄桃色の花びらを綺麗に風にそよがせていた。

「じゃあ、またね」

携帯を切り、カミアは窓辺から外を仰ぎ見る。
タクシーで行くからというので、住所だけ教えたのだが、彼は本当にちゃんと
来れるだろうか?
少し心配になりつつも、折角だから花に水をやっておいてあげようとジョウロ
を手に取った。

外は夕焼けが綺麗だが、綺麗に咲き誇っている花に水を上げることに夢中になっ
ていたカミアは、外の街道に横付けになったタクシーの存在にしばらく気付か
なかった。

「そう言えば、この前大家さんに怒られたっけ」

花に水を上げながら、カミアはつい2〜3日前に大家さんに言われた事を思い
出していた。



「さて…と、ここだな」

タクシーを降りたレイモンドは、まず頭上を振り仰いだ。
まだ雨が振る様子はないが、彼女の家に着く前に降り出すはず。

あんまり前にさしても可笑しいと思われし大変微妙なところなのだが(それ以前
に、今日は快晴だった為、傘を持っていること自体かなり浮いている)、今日雨
が降る事を知っているレイモンドは心の準備はもう万全。
自分だけが知っているんだというちょっとした優越感に浸りながら、いつでも
来い状態で傘を持つ手に力を込めていた(意外と子供みたいな人だ)。


ええっと彼女の家は…と、視線を漂わせれば、すぐ近くのアパートの2階の窓
辺で何やらニコニコと微笑んでいる彼女が目に入った。

余裕の笑みを浮かべながら、彼女が佇む窓辺の真下に歩み寄る。
それは予知夢に見た光景そのままで、レイモンドはそろそろだな…と感じなが
ら、傘のボタンに手をかけた。

「あっ、レイモンドさん!」

(今だっ!)

レイモンドは極々自然体で傘をさす。
そして、そこには大粒の雨粒…。
雨粒。
………。
…雨粒?

「あー!ごめんなさいレイモンドさん!!!!」

カミアは窓の下で傘を差すレイモンドを見て絶叫する。

「大家さんに植木の水遣り、勢い良くやりすぎると道を通っている人にかかる
からやめなさいって言われてたんでしたー!」

それは彼女の言う通り雨粒などではなくて。
彼女の持つジョウロから降り注いだ大粒の水のシャワー。
レイモンドはしばし呆然とそれを見あげた後――。

「雨の正体は君かー!」

思わず叫んだ彼を、道を歩く一般人は一斉に振り返る。
かなり目立っている。
というか、かなり変!

ジョウロのシャワーの集中攻撃を彼にしかけているカミアも変ならば、それを
傘でサブサブ受けまくっているレイモンドもかなり変。

「っていうか、早くジョウロを止めなさい!」
「それを言うならレイモンドさんも一歩後ろに下がれば全然濡れませんよ?」

次の瞬間、カミアはジョウロを上げ、レイモンドは一歩下がる。
残るのは何故か晴れ上がった夕暮れの街道で、塗れた傘を手に佇むレイモンド
ただひとり。

「――い、入口はどこだ!」

真っ赤になって叫びながら、レイモンドは入口を探しまくる。

早く中に逃げ込みたい…(がくり)。


                                                        《おわり》


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      『聖獣戦記』            篠原美姫緒


   第九章 聖戦


「私は召喚士どころの力じゃない。」
 毅彦が言っていた。お前は俺より力がある。星から離れろ!
「私はやっぱり人間じゃない! ティーア…獣だぁ!」
 忘れようとしても忘れられない、消えることのない過去が咲羽に重くのしか
かっていた。
「咲羽。私もティーアだったが、今はすっかり獣になってしまったのぅ。ふぉ
ふぉふぉふぉ」
 ひょうひょうと、麒麟姿のイアンが言った。
「イアンさま」
「まぁ、咲羽。この世にティーアと人間が存在するのは、人間の過去の過ちの
産物だ。いますぐには自分の運命を受け入れられないかもしれないが、いまま
で『人』として生きてきたお前が、改めて『ティーア』として覚醒したのには
理由があるかもしれない。」
 イアンは一息いれて、語り始めた。
 
 今、ヒンメルは崩壊の過程をたどっている。5つの国はバラバラになり、ヒ
ンメルの人々にとって、心の支えとなっていたフォールラードゥングも内部摩
擦で崩壊寸前だ。
 ちょうどヒンメルが、今に生きている人々が、歴史を変える瞬間なのかもし
れん。


「いまのヒンメルは、七百年の平和ボケで病んでるからな」
 アレリニオは吐き捨てるように言った。
「まぁまぁ、皇帝陛下。」
「イアン様! もう皇帝ではありません!!」
「じゃあ、私のことも『イアン様』なんて、『様』をつけて呼ぶな」
 ん、もう… っとアレリニオはすねる。
 愛くるしいばかりの麒麟の姿になったとはいえ、仮にもフォールラードゥン
グ本殿大神官だった人を、呼び捨てするわけにはいかない。というか、呼び捨
てになどできない。
「前回の魔大戦の時は、一部の聖獣が暴走しただけで終わったが、今回違う。
七百年も眠りについていた聖獣たちが次々に蘇ってきている。逆にいえば、い
ままで温存していた力を解放するため、相当なものになるだろう」
 麒麟姿のイアンは、手が痒いのか、舌でペロペロと毛づくろいをする。まる
で猫のように、顔を手でくるっと洗った。
「すっかり猫だ…」
「いや、私は麒麟。」
「しぐさが猫だっつうーの! おっさん!」
「おっさんと呼ぶな!」
 ついさっき? まで、大神官と皇帝だった男の会話とは、とても思えない。
「咲羽」
「はい」
「おぬし、さっき『星に憑いていた朱雀を封印した』と言ったな」
「はい」
「フラメの守護神である朱雀が、自分で封印を解いてたといのか?」
「私がタイタンを呼び出した時、星が…」


 五年前の夏、田んぼのあぜ道を咲羽と星は歩いていた。少し歩くと、住宅地
開発中のため、草ぼうぼうの広い原っぱに出る。
 子供たちにとって、オーカスは当時ヒーローであった。オーカスの真似をし
ては空に魔法陣を描き、聖獣呼び出しごっこなる遊びをしていた。
 誰がオーカスで誰が聖獣で誰が悪者の役をやるかでよくもめたものである。
 咲羽たちも例外ではない。
 聖獣を呼び出す瞬間を、テレビ中継され、興奮冷めやまらない。 
 そこで、さっきテレビでやっていたように、咲羽は空に手をかざし、呪文を
唱えながら、精一杯大きな魔法陣を描いて見た。
 すると、空に描かれていた魔法陣は、いつもなら、手が空を切って終わって
しまうのだが、今回ははっきりと空に残り、魔法陣の下から巨人が現れたので
ある。
「で、でてきちゃった…」
「やばい! 咲羽逃げろ!」
 田んぼと野原で、周りに高い山などない場所では、その光景がよく見えた。
たちまち街中は大騒ぎとなった。カメラやビデオカメラを持ち出す者、TVの中
継者など、あっという間に集まったが、それはタイタンが消えた後だった。
 星に手を引かれながら、咲羽は心の中で祈った。
『星の赤い鳥さん。助けて』
 すると、前を走っている星の体から、透き通ったもう一人の星が現れる。が、
星自身は気がついていないのか、咲羽の手を力いっぱい握り、なるべく遠くへ
行こうと走りをやめない。もう一人の星は咲羽に微笑みかけると、赤い鳥となっ
て、タイタンにぶつかって行った。そして赤い鳥もタイタンも溶けるようにし
て消えたあとには、封印の魔法陣が残っていた。


                              《続く》


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 あとがき
 篠原の知人が入院する病院で『ブラックジャックによろしく』のロケやってます。
第二話の撮影くらいまでは、患者さんでも近くに行ってロケを見ることができ
たのですが、今ではバリケードができ、双眼鏡がなければ見えません(爆)
 患者や見舞い客でもないのに、化粧濃くて派手派手の服きた若いお姉さん達
が病院にタムロするようになってしまいました…。
入院患者さんが心置きなく会話できる場所に、その女の子たちは居座ってしま
い、大変迷惑しています。

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 月刊小説「君が好き!」メールマガジン  2003/5/1 増刊号
 発行責任者 :篠原美姫緒  kimigasuki@1-emishop.com
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 発行システム:『まぐまぐ』『melma!』『Mailux.com』『E-Magazine』
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