メルマガ:屋久島発 田舎暮らし通信
タイトル:屋久島発 田舎暮らし通信  2003/03/15


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  2003/03/15
『世界自然遺産の島』   屋久島発・田舎暮らし通信(第72号)

      http://www.yakushimapain.co.jp/  屋久島パイン株式会社
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このメールマガジンは、北海道から屋久島に移住し、現在弊社屋久島支店の社員が
本人の移住経験を踏まえまして、屋久島の日常を発信しています。


●フキン売りの少年

ある夜のことだった。
「こんばんは」と、玄関で声がする。
私の家に突然訪ねてくる人なんて、誰だろうと思いながら、玄関の灯りともした。
玄関には、裸電球のほのかな灯り。
そのまま吊り下げたのでは、裸電球は割れやすいので、針金を螺旋状に電球の回り
に巻きつけて覆うようにしてある。
これで裸電球にも、少しは品が加わる。

家の周りには外灯もなく、近所の人もまだ帰宅していないようで、私の家だけに灯
りが点いていたのだ。
少年といっても、大学生くらいの人だった。
乗り物に乗ってきた様子もなく、懐中電気も持っていなかった。

私が「懐中電気も持たずに歩いてここまで来たの?」と聞くと、「そうです。暗くて
も目が慣れますから」と、小動物のような目をした少年は答えた。
大きなかばんを抱え、手に持っていたのは、3枚入りの白くて光沢のあるフキンと、
花柄のハンカチ。

「寄付を集めているので、寄付の一部になるこのフキンを買ってください。このフ
キンは汚れが良く落ちるし、ガスレンジからペットも拭けます」と言うのだ。
値段を聞くと「ニコニコ価格の2000円です」と、まじめそうな少年が真剣に言
うので、この少年は演劇部かもしれない、と思った。
ハンカチもあるけど、フキンの方がお勧めらしかった。

私はお勧めの汚れが良く落ちる、そのフキンの3枚入り2000円を買うことにし
た。
少年はとても喜んで、私にお礼を言って、暗い森のほうへ小走りに消えて行った。
それにしても、一軒一軒家を回って、ずっと遠くから歩いて来たというから、ご苦
労なことだと思った。
ちょっと、小雨も降りかけていた。
「マッチ売りの少女」のように、凍えてしまうことは屋久島ではないだろうし、マ
ッチ売りの少女ほど子供じゃないけど、少年が家に帰れたかどうか気になっていた。

次の日、他の人の家にもその少年が来たかどうか聞いてみたら、「そういう人は来な
かったよ。屋久島にも訪問販売とかいろんなものを売りに来る人が居て、後で後悔
するものを買わされたりしている人も居るみたいだから、あなたも気をつけたほう
が良いよ。」と言われただけだった。

でも買うかどうかは、本人が決めることなので、自分の意思で買ったのに、買わさ
れたと思うのは、買う前と後の心変わりから来ているのだろう。
昼間、家にいる奥様方は、訪問販売に会う機会も多いのだろうが、私は昼間家には、
ほとんど居ないのでお目にかかれないのである。
主人は「お前は何でも物を買いすぎるから、物が家の中にあふれてくる。でも、せ
っかくだからもっとたくさん買ってあげればよかったのに」と、矛盾したことを言
い出す。

3枚のうち1枚目を今使っている。
残りの2枚目が消耗したらまた、聖のようなフキン売りの少年が現れるかもしれな
い。
汚れを拭いて水洗いして、何度も使える魔法のフキン。
猫のトラの顔をフキンで拭きながら、本当だと思ったらトラが「ニャオーン」と鳴
いた。


その数日後、原集落の区民にチラシが配られた。
原集落にある千尋の滝に、お土産品などの販売所がオープンする。
木造のその建物自体はもう完成しているのだ。
それに伴い、販売所の愛称を募集している。
販売所に出店する人も募集していて、千尋滝やその近くにあるモッチョム岳にふさ
わしい品物を求めているようだ。
原区の活性化になればと、原区民は期待をしているようだ。

屋久島パインの事務所も原地区にあるため、販売所に関するチラシが配られた。
千尋滝に販売所は3月30日にオープンし、正規の販売開始は4月となっている。
ほとんどが原区民で運営され、手作りのお土産品などを観光客相手に売りに出すこ
とになっている。
人の購買意欲を高めるには、その品物の必要性以外に、心に残る印象を与えること
も大切なことだと感じた。
どうしてかわからないけど、何となく買ってしまったということは、誰にでもある
ことだろう。
フキン売りの少年を思い出し、そう思ったところだった。


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屋久島パイン株式会社   http://www.yakushimapain.co.jp/
発行責任者  角谷和雄   kakutani@yakushimapain.co.jp
本      社       東京都千代田区麹町1丁目8番14号
屋久島支店       鹿児島県熊毛郡屋久町原914番地
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