メルマガ:近現代史を考える
タイトル:近現代史を考える(18)  2003/01/28


18.毎日新聞の世界的スクープ
  (1995年11月21日)
   その1



(以下引用)
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毎日新聞1995年(平成七年)
11月21日(火)


 日米開戦の引き金
 米の「ハル・ノート」

 核心部分にソ連工作


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[ロンドン20日三瓶良一
 =前モスクワ支局長]

 日米開戦直前の一九四一(昭和
十六)年十一月、ハル米国務長官
が日本に突きつけたいわゆるハル
・ノートの原案作成者、故ハリー
・ホワイト米財務省特別補佐官は、
旧ソ連の協力者で諜報工作の対象
者だったことが、ソ連国家保安委
員会(KGB)の元対米諜報担当
者の証言で分かった。この担当者
は当時、自ら米国に赴いてホワイ
トに接触、ハル・ノートの核心部
分にあたる「日本軍の中国からの
撤退」などを、メモの形で渡した
とも証言した。日米開戦の直接の
きっかけとなったハル・ノートの
背後に、旧ソ連諜報機関の関与が
あったことが、ロシア側から具体
的に明らかにされたのは初めて。
(3面に関連記事)



   元KGB担当者証言



 毎日新聞のインタビューに応じ、
当時の模様を詳細に語ったのは、
KGB(当時はNKVD)で戦前
から対米諜報副責任者を務めてき
たビタリー・パブロフ氏(八一)。
 同氏によると、ホワイト工作は
英語で白を意味するホワイトの名
前の連想から、雪(ロシア語でス
ニェグ)にちなみ「雪作戦」と名
付けられた。同氏は回想録「スパ
イ半世紀」(未公刊)でも、「雪
作戦」と題し対米工作の実態を詳
細に記述しているが、その原稿も
毎日新聞に提供された。
 まず、この作戦を行った動機に
ついて、パブロフ氏は「日本のア
ジアへの拡大がソ連極東地域への
脅威になっていたし、対独戦もい
ずれあるとの予感があったので、
極東での第二戦線ができるのを避
けることにあった」と指摘。米国
を通じて工作を行おうとしたのは、
「ワシントンを呼び起こし、日本
の敵対進出に警告させてどうかと
考えたからだ」と説明した。
 工作の対象にホワイトを選んだ
ことについては、「海外諜報機関
の情報で、彼がモーゲンソー財務
長官の絶大な信用を得ており、ホ
ワイトの作った意見書に自分(財
務長官)の見解を書き加えて、大
統領やハル国務長官に提出するほ
どだった。財務長官を通じて米政
府の立場に影響を与えることがで
きるのではと考えた」と述べ、米
政府に影響を与えるため、ホワイ
トの力量を見込んだうえの決定で
あったことを明らかにした。パブ
ロフ氏は米国に住むスパイ組織の
リーダー、イサハク・アフメーロ
フ(暗号名ビル)とともに、具体
的な計画を練り上げたという。
 パブロフ氏はさらに(1)日本
による中国及びその周辺地域への
侵略の停止(2)大陸からの日本
軍の撤退とすべての軍事拡大計画
の停止(3)満州(旧中国東北部)
の占領を解放−−の三点を挙げ、
「諜報機関上層部の考えを取り入
れて最終的な表現にしたあと、
『雪』(ホワイト)に伝えられ、
『雪』はその内容にふさわしい根
拠ずけをし、米政府指導部に受け
入れられるような形を探し出すだ
ろうと考えた」と述べ、ホワイト
の自主性を尊重する作戦であった
ことをうかがわせた。
 「雪作戦」がソ連上層部により
承認されたのは、四〇年十月で、
ベリヤ内相は「作戦のせべてを秘
密とし、この件に関してはいかな
る痕跡も残してはならない」と厳
命。作戦は翌四一年五月に、パブ
ロフ氏自身が外交官の身分で渡米
し、直接ホワイトと接触、アフメ
ーロフ(ビル)からの伝言を伝え
る形で、実行に移された。  
 二人の接触はワシントン市内の
レストランで昼食を取りながら行
われ、パブロフ氏はホワイトにソ
連側の主張を盛り込んだメモを手
渡したという。


   x   x   x


 パブロフ氏の証言を基に、二十
ニ日からの三面で「ハル・ノート
−−もう一つの真実」を連載しま
す。



[ことば]ハル・ノート

 1941年11月26日、日米
交渉の最終局面でハル米国国務長
官が日本の野村・来栖両大使に手
渡した米国側の提案。すべての国
家の領土と主権の不可侵、中国・
仏印からの日本軍の全面撤退、重
慶にある国民政府以外の政府や政
権の不支持、日独伊三国同盟の否
認などが主な内容。日本政府は最
後通牒(つうちょう)と見なし、
12月1日の御前会議で8日の対
米英開戦が決まった。



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(以上 1995年11月21日
 毎日新聞朝刊第一面より:写真
 2枚有り)



           (続く)







平成十五年一月二十七日(月)
(西暦2003年)














          西岡昌紀

(「アウシュウィッツ『ガス室』
  の真実」(日新報道)著者)


 

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