メルマガ:ムアン・タイひとり歩き
タイトル:ムアン・タイひとり歩き No.39  2003/01/08


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ムアン・タイひとり歩き 第39号 (発行部数539部) 2003/1/5 (隔週刊)

   タイの人たちの素顔、人情、たたずまいを語る。
   タイ大好きの方々のためのコラム・メルマガ!
   タイ日本合作映画『 a love story 』(千原千樫・脚本監督)の製作推進も目指す!
   ついでに……イタリア・フランス・スペイン・モロッコを巡る旅行記も連載!

   ■ 発行者         : 夢童子 eguchi@mx9.ttcn.ne.jp
   ■ 発行者ホームページ : 夢童子の創作の部屋
                     http://yumedouji.fc2web.com/frame.html
   ■ 提携ホームページ  : 映画『a love story』製作準備委員会公式ホームページ
                     http://www.bd.wakwak.com/~chika/
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◆ INDEX ◆

   ・ ご挨拶
   ・ 今日のタイ・コラム  by daaw
   ・ 光の国・地中海を行く(No.20) by 夢童子
          『聖賎混淆、モスクとジュラバとシシカバブーのモロッコ』
   ・ 編集後記

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★ ご挨拶 ★


 あけましておめでとうございます。

 明日(月曜日)が仕事始めの方も多いことと思います。
 世の中が正月の眠りから覚めつつありますね。

 私事の宣伝をひとつ。
 この1月3日に発行されたWEB同人誌『UONOME』第2号に私の小説が掲載され
ています。私が20歳ぐらいの時に書いた若書きの小説2編です。時代が変わったのでや
やセピア色がかっていますが、ご笑覧いただければ幸いです。
 「うおのめ倶楽部」はこちら。 http://www.geocities.co.jp/Bookend/4527/ 

 「今日のタイ・コラム」は、残念ながら前回に引き続き今回も休載です。
 筆者のdaaw氏が、相変わらずネット接続できない環境にいるためです。
 1月中旬にはネット接続できるだろうということなので、次号での復帰を期待しましょう。

 ということで今号は私の旅行記「光の国・地中海を行く」だけです。
 タイ・フリークの方々には申しわけありません。
 スペインから地中海を越えてアフリカ大陸のモロッコへ日帰り旅行をします。

 旅行記がやや長めの文章になったので、夢童子のひとり言『ホームレスがやってきた』
の続編は次号以降ということでご容赦を。
 酒びたりの年末年始だったので続編がまだ書けていないという説も……(笑)。

 今年もご愛顧のほど、よろしくお願い申し上げます。

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▼▼▼▼▼   今日のタイ・コラム       by daaw
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 今回も休載です m(_ _)m

    『 a  love  story 』製作準備委員会公式ホームページ

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              alovestory@zc.wakwak.com  

 上記HPで「サポーター」を今年も継続して募集しています。
 よろしければ「サポーター」からサポーター登録を行って下さい ヽ(^o^)ノ

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☆    光 の 国 ・ 地 中 海 を 行 く   (夢童子)
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  20.聖賎混淆、モスクとジュラバとシシカバブーのモロッコ


 地中海を越えてモロッコの町タンジェ(タンジール)へ渡るフェリーの出ているアルヘ
シラスは、スペインの南端に位置する町だ。そのアルヘシラスまでは、エステポナからバ
スで海岸線を走ること1時間、乗車券は480ペセタ(349円)。

 アルヘシラスに着いた私たちは、バス停の近くにあった鉄道駅のコイン・ロッカーに旅
の荷物を入れて身軽になった。フェリー乗り場はそこから10分ほど歩いたところにある。
 フェリー乗り場まで行くとさすがに黒人やアラブ人たちの姿が目立った。案内標示板の
文字もスペイン語とアラビア語の両方で書かれている。
 いよいよアフリカが目と鼻の先に迫っているのだ。
 乗船券はBクラスで5920ペセタ(4316円)もした。
 出国審査所でパスポートに出国スタンプを押してもらいフェリーに乗りこむ。
 フェリーの船体は意外と大きい。
 正午とともに、フェリーはジブラルタル海峡へと出航した。
 モロッコへの入国審査は、航行中のフェリーの中で長い行列待ちの末にされる。
 入国審査といえば、イタリアでは入国審査はあったがスタンプは押してもらえなかった。
フランス、スペインでは審査すらなかった。だから私のパスポートを見ると、成田を発って
スペイン・モロッコ間を往復した記録しか残っていない。

 入国審査が済んで甲板に出てみた。
 甲板では陽気な白人観光客たちが大騒ぎをしながら記念写真を撮り合っている。どぎつい
陽光の下でベンチに寝そべってのんびりと日光浴をしている人もいる。
 アラブの頭巾で頭をおおった女性が、はしゃぎまくる子供たちをなだめながら手すりにも
たれて海を眺めている。船上のスピーカーからはかん高いアラブの流行歌がえんえんと流れ
ている。
 フェリーはユーラシア大陸からゆっくりと離れていった。海に突き出したジブラルタルの
ターリクの岩山が徐々に左後方に遠去かっていく。

 しばらくすると地中海から大西洋へと吹きぬけていく横殴りの風が激しくなった。外洋に
出たのだろう。
 手すりにもたれて海原を眺めていると、隣りで妻が、
 「アッ」
 という短かい声を上げた。
 妻の目線のある下を見やると、船体から2,3メートルの海面を、鋭利に切るように何か
が現われて消えた。灰色にてらてらと輝くものだった。イルカだ。イルカが二匹、並んで泳
いでいるのだ。
 「わあ、すごい。ジブラルタル海峡でイルカに出会うなんて、素晴らしいじゃない」
 妻が感激している。

 アルヘシラスを出航して3時間後の午後3時、フェリーはモロッコのタンジェ港に着岸した。
 生まれて初めてのイスラム教圏への上陸だ。
 ここがアフリカだ…。
 フェリーを降りると黒くて濃い口髭を生やしたアラブの男たちが多勢待ちかまえていて、
何を意味するのか口々に、
 「マーケット? マーケット?」
 と声をかけてくる。
 その中でも私たちにしつこく言い寄ってくるひとりの毛深いアラブ人がいた。
 「私は怪しい者じゃない」
 と言っているが、ノー・サンキューをくりかえす私たちにつきまとっているだけで十分に
怪しい。
 「私はここの職員なんだよ、ほら」
 と言って身分証明証のようなものを提示している。
 「さあ、どこに行きたいかね。どこへでも車で案内してやるよ」
 くりかえし言うがノー・サンキューだ。私たちは私たちのこの「足」で歩いてまわりたい
のだ。そう言って振り切ろうとすると、やっとあきらめてくれたのか、
 「わかった。ところで、スペインとモロッコは時差があるのを知っているか。今はモロッ
コ時間は午後1時だから、時計の針を合わせておいたほうがいいぞ」
 と言って離れていった。からかわれたのかと思ったが本当のことだった。モロッコとスペ
インの時差は通常期は1時間だが、今の時期はヨーロッパがサマー・タイムをとっているの
で時差が2時間になる。

 次から次へとつきまとってくる口髭の男たちを振り切りながら、港をぬけて町に踏みこんだ。
 町に一歩入るや、眼をみはった。
 何という喧騒、何という雑踏。
 人がごった返すようにあふれ、蜂の巣を突ついたような騒ぎになっている。
 車も通れないほどの狭い路地に、革製品の店や金物屋、衣装屋などの小さな店がひしめく
ように並んでいる。店先のカセット・デッキからはアラブ音楽がやかましく流れている。
 埃っぽい雑踏の中で、路上に木箱を置いて、煙草を1本ずつ並べて売っている少年がいる。
 獣の皮袋を肩から下げて、物乞いをして歩いている裸足の老人がいる。よく見ると物乞い
をしているのではなく、獣の皮袋から器に注いだ水を売って歩いているらしい。

 そんな雑駁な路地の一角に、モスク(回教寺院)もあった。
 モスクの狭い出入口が、色とりどりのジュラバ(アラビア服)に身を包んだ人たちで、こ
れまたごった返している。
 まるで、買い物から食事まで、物乞いから礼拝まで、聖賎混淆(せいせんこんこう)で、
いっせいに、ヨーイドン!で開始されたような騒ぎだ。
 それにしても女性の姿が少なかった。路上はどこを見ても体臭の強い口髭を生やした男し
かいない。暑苦しい上にむさ苦しい。薄着をして手も足もむき出しにしている妻が無遠慮な
眼つきであちこちからじろじろと見られている。
 背後から、
 「サヨナラ、サヨナラ」
 と日本語で声をかけられて、ぎくりとして振り向くと口髭男がにこにこしながら去ってい
く。見た眼だけがこわい男たちなのだ。
 唐突にこんな異境にほうりこまれてしまった妻こそ受難にちがいない。緊張して四肢が硬
直してしまっている。右へ行こうとしても左へ行こうとしても、
 「いやよ、いやよ」
 をくりかえしている。

 腹が減った。
 せっかく来たのだから何かこの土地の料理を食べたい。妻に言うと、かたくなに首を横に
振る。不衛生だと言うのだ。無理もない。日本人の私たちから見ると不衛生を看板にしたよ
うな小さな薄暗い食堂しか見当たらないのだ。
 妻は、西洋式のファースト・フードの店ならば入ってもよいと言ったがそんな店は見当た
らない。それに、それではアフリカに来た意味がない。
 絶対にイヤと言い張る妻を引っ張って、ようやく1軒のすすけた簡易食堂に入った。
 高い天井に扇風機代わりの大きなプロペラがまわっている。それでも屋内は少しは涼しい。
 厨房にいる料理人までが白いジュラバをまとっている。
 妻はビン入りジュースを注文し、私はシシカバブを焼いてもらった。この、香辛料をたっ
ぷりと染みこませた羊肉を串焼きにしたシシカバブがじつに美味く、もう一本追加注文する。

 簡易食堂を出ると、妻がもうメイン・ストリートに戻りましょうと言う。
 しかしメイン・ストリートも何もない、迷路だけで出来ているのがモロッコの旧市街だ。
 モロッコに来て楽しむべきは、この迷路歩きなのだが、今の妻にその余裕はない。
 こちこちに緊張して人形のようになってしまっている妻の手を引いて、迷路を右へ左へと
歩きまわり、やっとの思いで、最初に足を踏み入れた商店街に戻ることができた。
 ところがである。
 この商店街がとんでもない変貌を遂げていた。ついさっき港からこの商店街に足を踏み入
れたときの雑踏ぶりは、私にとって驚天動地のものがあったが、その雑踏が、このわずかの
間でかき消されたようになくなっていたのだ。
 嵐が去った後のように閑散としてしまっている。撮影が終わって灯の消えた映画セットの
ようなそらぞらしさだ。
 狐につままれたとはこのことである。ヨーイドン、で始まったありとあらゆることが、ハ
イココマデヨ、のひと言で終わってしまったとしか思えない。

 それでも所々の商店がまだ営業していた。
 妻が、色鮮やかな衣装がびっしりと吊るされている衣装屋を覗いている。店の中に入ると
高いものを売りつけられそうだったので、妻にそう耳打ちする。妻は入口の所で、出てきた
店主にこわごわと値段の交渉をしている。妻がかたくなに入口をまたいで店内に入ることを
拒み続けるので、店主から、
 「取って食うわけじゃないんだから、入ってきなさいよ」
 と笑われてしまう。2500ペセタ(1822円)の室内用サンダルを1500ペセタ
(1093円)で買った。

 妻はこの町で色々な土産品を買うつもりでいたようだが、この室内用サンダルと500ペ
セタ(364円)の手作りラクダ人形と、25ペセタ(18円)の絵葉書を6枚買うと手持
ちのペセタ硬貨がなくなってしまった。モロッコの通貨はペセタではなくディラハムだった。
私たちの持っているスペイン・ペセタは基本的に通用しない。店によっては硬貨だけは受け
付けてくれるが、紙幣は断られる。

 夕方5時、港に戻る。
 アルヘシラスへ戻るフェリーが何時に出航するのかわからなかったが、出国審査待ちの列
に並んで待った。
 ところが、あと3,4人で私たちの順番がまわってくるというところで審査官が席をはず
してしまったのだ。トイレにでも立ったような感じだったのだがいくら待っても戻ってこな
い。そのうちに着岸していたフェリーが出航してしまった。
 私たちの後ろに並んでいる大きなトランクを持った白人のビジネスマンが、
 「ジーザス・クライスト!」
 と叫び罵りながら他の職員に文句を言っている。職員は肩をすくめて首を横に振るばかり
だ。上のフロアでジュラバ姿の男たちが両膝をついてアラーの神に祈りを捧げているのが見
える。私たちの審査官は祈りのために席をはずしてしまったのだろうか。そんなことがあっ
てもおかしくない国のようだった。
 私たちとしても、今夜の宿泊はアルヘシラスから何10キロも先のセビーリャの近くのホ
テルを予約してある。こんな所で足止めをくったら致命的になってしまう。今夜の宿はスペ
イン国営の「パラドール」と呼ばれる中世の城を改造した高級ホテルなのだ。
 結局私たちは港で3時間も足止めをくわされ、次のフェリーが出航したのは午後8時半だ
った。

 ジブラルタル海峡を行くフェリーの上で日が暮れた。
 横殴りの強風にさらされた夕暮れの甲板は、行きと違って肌寒いほどだった。
 その甲板の上で身をすり寄せて眠っているヒッピー風の若い白人の男女がいた。今は亡き
歌手ジャニス・ジョプリンのようなストレート・ヘアに童顔の娘は、モロッコで買ったのか
小さな打楽器を大事そうに胸に抱えて眠っている。地べたに置かれた麦藁バッグの口からフ
ランスパンが覗いている。男のほうはイエス・キリストさながらの長髪と髭で、長旅なのか
顔がやつれている。お互いの旅疲れをかばうようにして身を寄せ合って眠っている姿が宗教
画のように美しい。

 午後11時半、フェリーはすっかり夜になったアルヘシラス港に着いた。
 駆け足で鉄道駅へと向かう。
 しかし、ああ、駅はもう真っ暗でシャッターが閉ざされている。
 どうしよう。今夜の宿をどうしようということもあるが、それ以上に、あれほど期待して
いた古城のパラドールでの1泊が不可能になってしまったことへの落胆のほうが大きい。
 妻は口をへの字に曲げて今にも泣きベソをかきそうな顔になっている。
 真っ暗な駅のシャッターの前で途方に暮れていると、ちょうど懐中電灯を片手に持った警
備員が脇から出てきた。駅のコイン・ロッカーに入っている荷物だけでも取り出す必要があ
る。警備員に頼んで裏口から駅構内に入れてもらう。暗闇の中で警備員の懐中電灯の明かり
に手元を照らされて、コイン・ロッカーから荷物を取り出す。
 暗い足元で、痩せ細った小さな野良犬が寂しげな眼差しをして私たちを見上げていた。
 「私たちも、君と同じ宿なしになっちゃったよ」
 妻が犬に向かって悲しいことを言う。

 駅前の大きな木の根元のところで、さっきフェリーの甲板で身を寄せ合って眠っていたヒ
ッピー風のカップルが寝袋の準備をしていた。
 私たちはしかし野宿というわけにもいかない。
 駅前にどっしりと構えた古そうなホテルがあったので入ってみる。オクタヴィオという名
のホテルだった。ツイン・ルームで9000ペセタ(6561円)と言うのでチェック・イ
ンした。
 ホテルからパラドールへ電話をした。今夜はアクシデントがあってそちらへ行けなくなっ
たと話す。明日は予約をしていないのだが泊めてもらえるかと訊くとOKだとの返事。
 よかった、よかった。

 ベッドに入って、きょう一日の出来事をふりかえってみた。モロッコが面白そうだと思っ
て旅程に加えたのだった。私としては期待通りの異境だったが妻はとんだ災難だっただろう。
帰りのフェリーには出国審査官の気まぐれで乗り遅れてしまったが、パラドールでの宿泊は
明日でもOKということになった。
 スペインの果てで宿なしになりかかったにもかかわらず、どうにかなるものだ。
 きょうはまるで、私と妻の二人三脚人生の縮図ででもあるかのような一日だった。
 そう思ってベッドの中でひとり笑いを洩らしている楽天的な私だった。

                        (次号へつづく)
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 (「ムアン・タイひとり歩き」次回配信予定日は2週間後の1月19日です)
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