メルマガ:ムアン・タイひとり歩き
タイトル:ムアン・タイひとり歩き No.37  2003/01/08


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ムアン・タイひとり歩き 第37号 (発行部数544部) 2002/12/8 (隔週刊)

   タイの人たちの素顔、人情、たたずまいを語る。
   タイ大好きの方々のためのコラム・メルマガ!
   タイ日本合作映画『 a love story 』(千原千樫・脚本監督)の製作推進も目指す!
   ついでに……イタリア・フランス・スペイン・モロッコを巡る旅行記も連載!

   ■ 発行者         : 夢童子 eguchi@mx9.ttcn.ne.jp
   ■ 発行者ホームページ : 夢童子の創作の部屋
                     http://yumedouji.fc2web.com/frame.html
   ■ 提携ホームページ  : 映画『a love story』製作準備委員会公式ホームページ
                     http://www.bd.wakwak.com/~chika/
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◆ INDEX ◆

   ・ ご挨拶
   ・ 今日のタイ・コラム(No.32)  by daaw
        『あまり教えたくない…タイでモテるコツ!』
   ・ daawからのお願い
   ・ 光の国・地中海を行く(No.18) by 夢童子
        『シエスタの真っ白な静けさ(地中海沿いにスペインを南下する)』

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★ ご挨拶 (夢童子)★


 こんにちは。

 61年前の今日12月8日は、日本がパール・ハーバーを奇襲攻撃して、アメリカとの
太平洋戦争が始まった日です。
 個人的な記憶としての12月8日は、戦前から戦中にかけて軍歌や戦時歌謡曲の作曲も
したらしい、海軍軍楽隊出身の祖父の命日です。
 しかし私にとっての12月8日というのは―――。

 Y.S君、元気にしてますか。
もう何十年も昔のことですが、何事につけ奥手の高校生だった私に、「ジョン・レノン」
や「エリック・クラプトン」や「ジャニス・ジョプリン」や「アール・クルー」がいかに
凄いミュージシャンであるかを、ギターの好きなきみから初めて教わって、私は夢中にな
ったのでした。
 なかでも私にとって「ジョン・レノン」は格別で、それ以来今だに私の頭髪は「ジョン
・レノン分け」(真ん中で分ける)のままです。

 K.O君、元気にしてますか。
 私は立教大学の学生で、きみは早稲田大学の学生だった。きみは中島敦の小説が好きで、
きみ自身もちょっと堅い古風な小説を書いていた。
 きみはジョン・レノンが殺された日の夜、私に電話をかけてきた。
「こんなショッキングな事件が起こったからにはアメリカに必ず暴動が起きますよ!」
 きみは興奮した口調で繰り返し語っていた。
 
 そのジョン・レノンが、住まいのニューヨーク、ダコタ・ハウス前で凶弾に襲われて命
を落とした日が、今日12月8日です。もう22年も前のことになるんですね。

 ガラにもなくちょっとキザな書き出しの「ご挨拶」になってしまいました(笑)。
 さて先週の「臨時増刊号」で、映画『a love story』製作準備委員会の公式ホームページ
のオープンをお知らせしましたところ、たいへん多くの方々にご訪問いただきました。
 今後ともお引き立てのほど、よろしくお願い申し上げます。
 新ホームページにからめてdaaw監督から「daawからのお願い」が寄せられていますので、
ご一読のほどを。

 私の連載旅行記「光の国・地中海を行く」は、今号はスペインをバルセロナから空路で
南下し、ピカソ誕生の町マラガからバスでさらに南下し、「太陽の海岸」と呼ばれるコス
タ・デル・ソルへと至ります。

 さあ、では「今日のタイ・コラム」から始めましょう。
 本日12月8日は「ホームページ開設記念訪問者感謝デー」だそうです!
 
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▼▼▼▼▼   今日のタイ・コラム(No.32)   by daaw
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      『 あまり教えたくない…タイでモテるコツ! 』 

みんなー!
『 a love story 製作準備委員会 』のホームページ、見てくれたぁ?
今日は、『 a love story 製作準備委員会 』のホームページ開設記念訪問者感謝デーとして、
とっておきの極秘情報教えるぞー!
訪問者感謝デーだからして、まだ行ってない人は行ってから読んでね!
ホラ、そこの人。
キミはまだだから。(笑)

その1:キーニャオはバカにされる
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しばらくやってないタイ語講座だけど…

   khii(母音のところ、上がって下がる)=〜の性癖がある、「お天気屋」
                         と言う時の「屋」に相当する言葉。
   niao(下がって上がる)=ベトベトした、ねちっこい

ってことをまず覚えてね。
あ、別に覚えなくてもいいけど。
教師と乞食は3日やったら辞められないって言ってね。少し、教えるってことを体験すると、
すぐこんな言葉が口を衝いて出るようになるんだ。
いやらしいね。ゴメン。

で、

khii  niao (キーニャオ)となると「ケチ」なんだ。直訳すれば「ネチネチした癖の人」なんだけど。
普通の暮らしの中でもっともケチだって分かるのが、やはり買物でね。
「もっと安くならない?」
「もう少し…」
「100Bでいいでしょ?」
なんて、ネチネチ値切るのは、もうkhii  niao さ。

それと、持ってる物をあげない人。これもkhii  niaoさ。
「えーっ?」って思うかもしれないね、このコラムを途中から読み始めた方は。
持てる者が持てない者に物をあげる、ってのは、タイではごくありふれたことでさ。
このコラムでは何度も言ってるけど、これは thambun (まぁ喜捨としておきましょう)の
いい機会を頂いてるんだから、あげない訳はないんでさ。
もう、タイ人は、人に物をあげる機会を毎日刻々と虎視眈々と狙ってるようなもんでね。

なのに、罰当たりなことに、こうした時、つまり物をあげるチャンスがある時、つまりあ
なたは持ってると思われて「チョウダイ」って言われた時、「嫌だ」と言えば、これはもう
すこぶる付きのケチな訳さ。
単にケチってことじゃなくって、タイ人ならほとんど全ての人の生活規範になってる南
伝上座部仏教の教えに背く、あるいはその信仰を理解しない可哀想な人って、映るんだよね。
(ま、教えだの信仰だのっても、要は富める者は貧しい者を救済しなさい、世の中お互い
様ですよー、ってことで、これはムハンマドさまだってイェスさまだって言ってるんだけどねー。)

もう、25、6年も前のこと。
おいらのタイ語は、ほとんどライヴで覚えたのだけど、覚えたての頃、多分渡タイ4、5回。
延べ滞在日数300日って頃、タイ語を習いに行ったんだよね。効率ってことを考えると、
習った方がいいと思って。
で、その時、いつも帰りが電車で一緒になるSさんって人がいてさ。
タイ経験は同じくらいだったと思うが、おいらより、遥かに熱心で、良く勉強してた。
少なくともタイ語ってことでは、おいらを遥かに超えていた。
この人がタイではモテない…。

ある時、一緒にタイに行って、アパートとかも一緒にしたりとか、しばらく行動を共にし
たことがあるんだけど…。
行動を共にして分かったことがあるの。
それは「もったいない」が口癖だってこと。
何かを買おうとすると、「もったいない」。
何かを捨てようとすると「もったいない」。
「疲れたからタクシーに乗ろうよ」って言うと「もったいない」。
1日一緒にいると20回は聞いた。。。。。。。

疲れますよ、これは。
疲れる以上に辛かったのは、接するタイ人の視線と言うか、バカにしたような表情とか、
同情してくれての冗談とか…。
結局これに耐えられなくて、ボクはアパートを替わったのだけどね。
以来、一度も会ってはいないけど、噂は聞いた…。
「なんか寂しそうにヒキコモリしてるらしいけど、タイにいる意味ないよねー」って。

ま、その後も宗旨を変えず、よって、徹底してモテなかったんだろうね。


その2:コマカイ人は嫌われる 
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ケチとは違ってコマカイ人っているよね。
何事もキチッと判で押したみたいにしないと気の済まない人。
スケジュール管理も。スキー(タイすきと言われてるしゃぶしゃぶ風鍋)のチェックビン
(check  bill=支払い伝票を見て暗算で間違いがないか調べる)も。部下の立ち居振舞いま
でもが気になる人。

チェックビンで注釈(ってフツー書くか?)しておくと、この言葉、和製英語ならぬタイ製英
語で「お勘定して」って言葉になってる。
「ビン」は「bill(紙幣またはお金の伝票)」のタイ人っぽい発音。
「r系l系の音は消えかかり、末子音の場合はn音になる」ってタイ語の法則通りね。

で、コマカイ人は、タイじゃモテない。
何事も決めておいて、その通りにするとか、その通りに生きるとかって、楽しいか?
ってのが、タイ人の考え方。
どうなるか分からないってのが、ワクワクして楽しいんじゃないの? って。

また、少々の間違いや遅れやミステークを許す寛大さを持ち合わせているのが大人(たいじん)。
心の大きな人でないと、カッコ悪いよ。って思ってるんだね、タイ人って。

ホテルのレストランなんかでキャンキャン吠える犬の如く、英語で怒ってる身なりの割と
パリっとした日本人が居てさ。
その前に、ややうなだれてる様子の浅黒い少女(ウェイトレス)が居たりするって光景、
良く見掛けるんだけど…。
なんか、どう見たって、怒ってる方がカッコ悪いのね。
キレイじゃない、って言ってもいい。
それに比べて、物腰柔らかく、しかし黒い大きな目を逸らさずに、じっと相手の方に向け
てる少女の顔ったら、なんか気品に満ちてるってゆーかー…。
決して尊大じゃなく、相手を軽蔑してるのでもなく、ひたむきに相手の怒りの理由を知ろ
うと耳を傾けてるのであり、可能な限り相手の気持ちに添おうとしてる心根が素直な瞳に
現れていてさ。
それは、美しく見えるんだよね。

何を怒ってるのか…が、またつまんないことでさ。
どうも「後から持って来て」って言っておいたコーヒーが、彼の考えた「後」より早く来
た…ってことらしくてね。
日本人って、みんな貧乏育ちだから、「一杯のかけそば」ならぬ一杯のコーヒーを重要に
考えてしまうのね。
まずオレンジジュースでトースト1枚食べて、2枚目にかかった頃に、熱いコーヒーが…なんてね。
1杯だと思うからそうなるんであって、グローバル・スタンダードでは、コーヒーなんて
ものは、いつでも何杯でも、なんだからさ。
先に出て来たコーヒーなんか冷めてもいいんだよ。
ニコッて笑って「熱いの持って来て」って言えばいいんだから。
そうすればニコッて、いい笑顔で頷いてくれてさ。喜んで持って来てくれるんだから。

時間だって、タイ人にとっちゃ、09:00のチャイムに合わせて朝礼の号令が掛かる
(おいらも今夜、そんな光景をTVで見てビックリした)、なんて、信じられないことであってさ。
(9時からの賃金しか払ってないのに8時45分にラジオ体操のち朝礼をやって、9時丁
度には車をスタート(配送関係の会社であった)させるって日系の会社が前にあったが、
これよりかはマシか? ちなみにこの会社は潰れた。)

12:00に一斉に昼休みで、すぐお昼ご飯を食べなさい。なんてのも、タイ人にとっち
ゃ余計なお世話って感じなんで、彼らにとっちゃおなかの空いた時が飯どきだから、一斉
に食べに行くなんてことがないのね。
だから、タイの食堂や屋台は、いつでも適当に客がいるでしょ。

チェックビンだって、どうせ半端なお金はチップにするんだから(エッ! しないか…?)、
目くじら立てて、10B多く書いてあるとか言わなくてもいいんだよ。


その3……あれ! 何行書いた?
あ、いけねー!
もう制限枚数、越えてるよ!

このあと3、4、5と続いて、「結論:モテル極意は?」なんてものある構成だったんだけど、
やむなく次号へと続く。
ってことで、ゴメンね!  (あと2回ほど引っ張るか…)(^_^;

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■daawからのお願い■

夢さんたちのお蔭で、やっと開設の運びとなりました
『 a  love  story 製作準備委員会 』のホームページですが、
あまり評判良くないですねー。(^_^;

こんなメールを頂いています。(紙数ないので一部抜粋)

「何かもうひとつとっつきにくい」
「映画製作なんてことに関われるとしたら面白いと思いますが、
どうしたらいいのか、どういうことなのか、
ホームページを読んでも分かりません」

メールを下さった方にもお聞きしていますが、
掲示板への書き込みが少ないなど、私たちも今一つ親しみにくいのかな? 
という反省があります。
もっと親しんで頂くために、楽しんで頂くために、理解して頂くために、
そして何度も訪れて頂くためには、
「こんなコーナーがあったらいいんじゃないの」とか、
「ここんとこ、こうすればー?」ってご提案がありましたら、
この機会に是非お聞かせ下さい。
 (発起人諸氏、現在工事中の上に新たな工事が増えるかも…
  スマン! (^^)。)

   『 a  love  story 』製作準備委員会公式ホームページ

       http://www.bd.wakwak.com/~chika/

    
           alovestory2003@yahoo.co.jp  


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☆    光 の 国 ・ 地 中 海 を 行 く   (夢童子)
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    18. シエスタの真っ白な静けさ(地中海沿いにスペインを南下する)
                                

 まだ夜も明けない午前5時に、バルセロナのサンツ・ホテルをチェック・アウトした。
 タクシーでバルセロナ・プラット空港へ向かう。
 空港まではタクシーで20分ほどだった。
 昨夜、ホテルのフロントの女性に頼みこんで、マラガ行きのイベリア航空機のチケット
を電話予約してもらったのだ。チケットはひとり2万2350ペセタ(1万6295円)
と高かった。しかし鉄道による移動できょう一日を潰すことを覚悟していた私たちは、空
席があったことで小躍りして喜んだものだ。
 朝7時、私たち(私と妻)の乗ったイベリア航空IB124便はバルセロナを離陸した。

 私たちが後にしたバルセロナはスペインではマドリッドに次ぐ大都会だった。
ランブラス通りにあった日本語案内センターの人に言われるまでもなく、本当はもっとバ
ルセロナに滞在したかった。バルセロナには昼の顔とは違う夜の部分があるような気がし
たからだ。
 好きな画家ミロの国に来て妻は元気そうだったが、私の方に旅の疲れが出てしまってい
た。そのためにバルセロナの夜の相貌をしっかりと見届けることができなかったのが悔や
まれた。
 昨夜、レストランで夕食とってホテルへ帰るタクシーの車窓から垣間見た夜のカタルー
ニャ広場は、ギターで歌う若者や大道芸人と、それを眺める老若男女の見物人たちでごっ
た返していた。
 昼間歩いたゴシック地区のレイアール広場も、夜になると有名なタブラオ(フラメンコ
専門店)やディスコの客がくり出して遅くまで賑わうらしい。
 そういう夜の相貌に触れないでバルセロナを(表面的にせよ)見たとは到底言えない。
 私の見たのは、「バルセロナ」ではなく「バルセロナ」のほんの一部分を切り取って観
光アルバムに貼ったような「ガウディの建築のいくつか」でしかなかった…。

 私たちの乗っている旅客機は、薄靄(うすもや)のかかった地中海の海岸線に沿って飛
行し、バレンシアのあたりで陸地に入った。
 やがて1時間20分のフライトの後、ゆるやかな丘陵に囲まれた空港が見えてきた。
 スペイン南部の都市マラガの空港だ。
 降り立ってみると、索漠とした荒野にぽつんとある寂しい空港だった。傍らに鉄道の無
人駅がある。そこから列車に乗って10数分ほどでマラガ市街のマラガ駅に着いた。

 マラガの町は道々に大きな棕櫚(しゅろ)の木が植えられていて、南国の古い港町とい
った風情の町だった。ここは、ピカソの生まれた町でありピカソの生家が今も残っている。
 しかし私たちは先を急がなければならない。
 すぐにマラガ駅の裏手にあるバス・ターミナルへ行き、エステポナ経由アルヘシラス行
きのバスに乗る。エステポナまでの乗車券は760ペセタ(554円)。

 バスの車内は冷房がきいていて快適だった。
 バスはマラガ市街をぬけると海岸沿いの自動車道路に出た。
 バルセロナからマラガまで飛行機で南下した私たちは、マラガから今度はバスで地中海
に沿ってさらに南下していることになる。
 このあたりからスペイン南端のジブラルタル海峡の町タリファまでの海岸線は、一年中
気候の温暖な有数のリゾート地になっている。
 この海岸線をコスタ・デル・ソル(太陽の海岸)と呼ぶ。
 コスタ・デル・ソルには海岸線に沿って走る鉄道がないので、旅行者が移動するには路
線バスを使うしかない。
 海に向かって建つ家々の壁面はクリーム菓子のように白く、いよいよ地中海も果ての、
いかにもスペインらしい土地にやって来たという感じだ。広々とした真っ青な空の下に
どっしりと根を張った大地。その大地に、太陽の光を身いっぱいに受けるだけ受けた真っ
白い壁の家々が虫の卵のようにへばりついている。

 トレモリーノス、フエンヒローラ、マルベージャといった地中海沿いの町をバスは走り、
マラガを出発してから3時間後の昼12時半、目指すエステポナに着いた。
 エステポナをきょうの目的地にした格別な理由はない。コスタ・デル・ソルのはずれに
あるので、それほどリゾート化されていないだろうと思ったからだ。ここを足場にして
「白い村」として有名なカサレスにバスで日帰りすることができるということもあった。

 バスを降りると道路をはさんで砂浜が広がっていた。
 砂浜には海水浴客がのんびりと寝そべっている。
 まずは今夜の宿を決めなければならない。旅の荷物を肩にかけて海沿いの道路を歩いて
みる。道路に沿ってリゾート用の賃貸マンションのような建物はあるが、飛びこみで泊ま
れるような宿は見当たらない。昼下がりのシエスタの時間帯なのか、あたり一帯は不安に
なるほど静かだ。
 路地を入っていくと道端にリンゴのように赤い頬をした10歳ぐらの少女が座っていて、
こちらから声をかけていないのにすぐそこにペンションがあることを教えてくれる。
 ペンションの小さな扉を押して中に入ると、隅の暗みから老人が出てきた。
 「空き部屋はありますか」
 しかし老人に英語は通じないようで、スペイン語でさかんに何か言っている。壁に貼っ
てある町の地図を指で示して何かを教えるふうだ。多分、ホテルの場所でも教えてくれて
いるのだろう。
 何だかわからないが老人にグラッシアス(ありがとう)と礼を言って外に出る。

 行くあてもないので、老人が地図を示して教えてくれた方へと行ってみることにした。
 海岸線から1本それた路地を妻と並んでとぼとぼと歩く。
 白壁にうがたれた小窓の向こうの暗みに隠れている柱時計の、時を刻む音まで聞こえて
きそうな、とでも言いたくなるほどの静けさだ。
 路地には相変わらず灼熱の太陽が照りつけている。肩にくいこむ荷物を右へ左へと持ち
替えながらしばらく歩くと、3、4軒のホテルが並んでいる所に出た。

 そのうちの1軒、ブエンナヴィスタというホテルに入ってみる。
 十代の太った女の子が受付番をしていて1泊4100ペセタ(2989円)だと言う。
随分安い。チェック・インして3階の部屋に入ってみると、冷房は付いていなかったがベ
ッドがふたつ並んでいてシャワー付きのバス・ルームもちゃんとそろっている。ベランダ
に出ると道路をはさんで向こうに広がる砂浜がよく見える。海浜に向かっているために
床は砂っぽい。
 「ホテルといってもここは海の家のようなものね」
 と妻が言った。
 妻の勘は的中していた。しかしそのことを知ったのはこの夜のことである。
 今は、荷物を部屋に下ろすと、休憩をとる間もなくすぐにまたホテルを出た。
 まもなく午後1時半にバス・ターミナルを発車する「白い村」カサレス行きのバスに乗
るためだ。

                        (次号へつづく)

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 (「ムアン・タイひとり歩き」次回配信予定日は2週間後の12月22日です)
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