メルマガ:月刊小説メールマガジン『君が好き!』
タイトル:月刊小説メールマガジン『君が好き!』2002/8/15  2002/08/15


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月刊小説メールマガジン         2002年8月15日 発行
『君が好き!』  vol.42
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皆さんこんにちは! 夏も盛りですがいかがお過ごしでしょうか?
瀬乃はお盆休みもなく働いております(笑) ああっ!学生時代が懐かしい〜。
さてさてサーバーがお盆休みでない事を祈りつつ、配信にチャレンジ〜♪(笑)
(瀬乃 美智子 拝)
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今月の目次
▼君が御世に・8     篠原美姫緒
▼ドラゴンラヴァ・30  瀬乃美智子
▼あとがき
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              君が御世に8
                          篠原美姫緒

こころをば尾花が袖にとどめておきて駒にまかする野べの夕暮れ


 ドキドキドキドキドキドキドキドキドキドキドキドキ
……… ……… …こ しょうこ 笙子!
 ふいに名前を呼ばれてハッとする。
「縁側をそんなに見つめて。なにかあるのですか?」
「お、お母様。起きてて大丈夫なのですか?」
「私(わたくし)の心配より、あなたが心配ですよ。どこか具合でも悪いので
すか?」
 そういわれて、顔が急に赤くなった。
「あらあら大変! 笙子、あなた熱でもあるんじゃありませんか?」
「いいいいえええええぇ、大丈夫ですわお母様」
「ほんとうに大丈夫なの? ばあやに支度させてあるから、おまえはお留守を
頼みますよ」
「お母様、どこかに出かけられるのですか?」
「ええ、祇園で筝を」
「お体の具合は大丈夫なのですか? 夕べはうなされていたようでしたが」
「おまえに宿下がりしてまで、見舞われるほどのものではありませんよ」
 母はほそく微笑むと、迎えの牛車に乗って行ってしまった。
 宿下がりとは、いわゆる休暇である。
 あの出来事以来、すっかりなにもかも手につかなくなってしまった笙子は、
中宮から「少しの間、休んでおいで」と、宿下がりを言い渡された。
 消しても消しても浮かんでくるのは、あのときの資盛の顔だけ…。
 抱きしめられた感触がまだ心地よい痛みとなって、体にしみついてしまった。
(ダメよ。彼は平家の公達。私のことはいつものただのお遊び…)
 縁側で枯れた朝顔を見ながら、うっすらと涙を浮かべるのであった。

 あの日、キスをされて、そっと手をひかれながら自室へと戻った。だが、それ
以来、資盛と顔を合わせても、彼はそっけない。
 何事もなかったかのような振る舞いと、そして、一度も来ない歌…。
「だから、私のことなどもうお忘れになってしまって…」
 心が痛い。
 涙はいつ乾くのだろう。
 ずっとながれて、流れすぎて。

 哀れしりてたれかたづねむなき人を恋ひわびいはとなるとも

「おひいさま、おひぃさま!」
「どうかしたのですか、ばあや?」
「あらあら、どうかしたのですか?」
 振り向いた先にいたのは、ばあやではなく中将の君であった。
「あ、こんな姿をあなた様に見られてしまうなんて…」
「夕霧さまから、あなたの様子が変だと文をいただきましたわ。さあ、涙のわ
けを聞きましょうか?」
「まぁ、お母様ったら…」
「あなたのことが心配なのですよ。そんなに泣いていたら、誰だって気になる
ではありませんか」
「皆さまに心配をおかけしてしまって…。すみません…。でももう大丈夫です
わ。」
「あら、わたくしにはその涙のわけは話してくださると思ったのに。わたくし
はてっきり、次男のことかと思いましたわ」
 笙子の顔は、ふたたび赤くなった。

                             《つづく》
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            ドラゴン ラヴァ・30
                        by瀬乃美智子

孵化が始まった卵を手に、海里はしばし呆然とする。

卵の殻にひびが入り、中の――人でいうなら羊水が出始めたということは、か
なり孵化が近いはずである。
竜族の孵化に立ち会った事はないが、とにかくまずい事態であるのは確かであ
る。

この卵は、…海里が資料で勉強した限りでは、通常より長い間卵の中で育って
しまっている。
普通なら海里の半分ほどの背丈で生まれてくるはずの竜の子供だが、この子は
そうとは限らないのだ。

元来、魔界の胎児は卵の中でおぼろげに体を構築しているだけだから、卵から
帰った途端、爆発的に成長する例も少なくない。
魔王クラスの魔族など、生まれた次の瞬間には大人に成長するものがいるほど
なのである。

この子がどれほどの成長を遂げた姿で生まれてくるかは分からないが……、海
里の不安はつのる。


大きければ、この非常事態に手がかからぬのは助かるが、いい面ばかりではな
い。
へたに体や保有する力が大きすぎれば、海里たちの身を隠すために張られたこ
の結界も隠し切れない。
そうなったら…。

(その時は、浅月さんだけは巻き込まないように…。)

海里は、目の前の人間の少女だけは巻き込むまいと、心に決めた。
火竜たちは、自分と卵の事だけ考えればよいと言ってくれたけど、そうはいか
ない。
元々、ここに敵が来るよう仕向けてしまったのは自分なのだし、何より、火竜
たちの力を借りても駄目なようなら、この卵を…この子を守りきる事はできな
いだろう。

なら…、最後は自分も一太刀なりとも魔王カリプトロスにあびせてやる!

海里は、決心したように自分の胸元に下がったペンダントを握り締める。
それはかつて彼が愛した竜の遺品。
その牙で作られた、竜の皮膚さえ貫く伝説の刃の仮の姿。


そこからただよう母の残思に、卵の中のものは少しだけ震えた。
海里も気付かぬ小さな震え。
その思いもまだ声に出せぬもどかしさ。


――もう…少し……。
どうか…、それま…で―――。
奴は…―――ボクが…。



「竜彦、浅月たちの所に行っていろ!」
『そうです、戻って!』

火竜の言葉と、竜の姿の浅月からの思念が竜彦に向けられる。
しかし、先程までは言う通り出口へ急いでいた竜彦の足は止まり、じっと、池
の方へと視線を向けている。

「行っても無駄だ」
「なに?」
「…―――『奴』は大きい。この太刀見家の敷地内から出ても、逃げ切れるか
どうか…。俺の足では、もう逃げ切れない」

竜彦の言葉に、火竜がきつく唇を噛む。
魔族の大きさとは、その体の大きさではない。
その体から発せられる魔力の大きさなのである。

この小さな街一つ分はあろうかという太刀見家の敷地を覆い尽くすほどの魔力
を持った魔族とは…。
相手の強大さに、火竜は苦虫を噛み潰したような表情を浮かべる。

「来るぞ」
「っ!」

竜彦が短い言葉を呟いた次の瞬間、竜の池は大量の水の奔流とともに、魔界か
らの訪問者を吐き出したのであった…。



「うわっ!」
「――きゃあっ!」
二度目の振動が、海里と浅月を襲う。

柱がきしみ、障子がたわむ。
火竜たちが部屋の四隅に貼ってくれた結界の呪符がはずれてしまわぬかと、浅
月は部屋の周囲を見回す。
しかし――。
その瞳は、障子の向こうにある不穏な空気に一瞬にして曇る。

障子に浮かぶ―――。
いや、確かにその向こうにいる何かに、浅月は体の奥が凍りつくのを覚えた。
憎悪と悪意の塊。
それは、おそらく自分たちに凶運を運んでくる者――――。

(…魔王カリプトロス!)

海里が心の内でその名を叫ぶ。

魔王の吐き出す力の波動にたわむ柱。
そのあまりの力の波動に、――おそらく、張られた呪符が持つのもあとわずか。


『海里どこにおる――。』

魔族の言葉が、屋敷に響く。

『汝の役目は終わった。―――竜を狩るぞ。剣を寄越せ』

「っ!」

海里は、元主の言葉に、再び胸元のペンダントへ手をやる。

(僕ではなくて、この剣を探してるんだ!…その…彼女の牙で作った剣で、火竜
たちを狩るつもりなんだ!!)

海里は自分の主の残酷さに頭に血が上る。
竜の牙で竜を殺そうとするなんて、なんて無慈悲な!

海里は手にしていた卵をぎゅっと抱きしめ、反対側の襖へと手をやる。

「ごめん、浅月さん!これ以上君を危険な目にあわせるわけには行かない!」
「ま、待って!海里!」

これ以上自分がとどまっては呪符が解かれ、浅月までも巻き込むと思った海里
は、……次の瞬間、彼女の静止も止めずに部屋の外へと身を放っていた―――。

                            《続く》
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あとがき
さてさて、早くベイビー産まれて来ないかな♪
ドララヴァ30回越えで、ちょっと焦っている瀬乃です(滝汗)
うーん。戦闘シーンの緊張感がなかなか出せなくて…。勉強します!

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 月刊小説「君が好き!」メールマガジン  2002/8/15 42号
 発行責任者 :篠原美姫緒  kimigasuki@1-emishop.com
 Webページ:http://kimigasuki.hoops.ne.jp/
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