メルマガ:月刊小説メールマガジン『君が好き!』
タイトル:月刊小説メールマガジン『君が好き!』200/6/15  2002/06/15


〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓
月刊小説メールマガジン         2002年6月15日 発行
『君が好き!』  vol.38
〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓
こんにちは、暑くなったと思ったら梅雨の時期ですね〜!
ごめんなさい、今回瀬乃の作品はちょっと短いです。
いろいろな事情があり、今回体調を崩してしまいました。
次はがんばりますので、また楽しみに待っていただければ幸いです。
(瀬乃 美智子 拝)
======================================================================
今月の目次
▼君が御世に・7     篠原美姫緒
▼ドラゴンラヴァ・28  瀬乃美智子
▼あとがき
======================================================================
              君が御世に 7
                          篠原美姫緒

 千代の秋すむべき空の月もなほこよひの影やためしなるらむ

 秋の気配が近づく晩夏。
 月明かりと庭園を舞う蛍が、笙子を照らす。夜の庭には化け物がでるという
噂もあるが、こんな綺麗な月夜だから化け物もでないだろうと、散歩にでてい
る。
 男を待つといった情事には縁遠い笙子であったが、やはり女房仲間がそうい
う話をするとうらやましく思い、いてもたってもいられない気持ちになった。
「みんないいなぁ〜、はぁ…」
 家柄・容姿・才能…。申し分ないはずなのだが、なぜか男だけはいなかった。
 それもそのはず。中宮付の女房であり、重衡、維盛といったいまをときめく平
家公達とも仲が良いので、男たちからは、一目置かれている存在であった。
 というようなことは、本人は知らない。
 折れた小枝を拾って、無造作に振り回す。
「右京どの!」
 突然、野太い男の声がした。
「ひぃ!」
「右京どの、こんな夜中になにをなされているんですか」
 蛍たちが、淡い光で声の主を照らした。
「ハッ、はぁ。隆信さま! 心臓が止まるかと思いましたわ!」
「ははははは、化け物ではありませんよ」
 隆信は笑った。笙子もそれにつられて笑う。
 藤原隆信は、宮中絵師であり、その腕は自他ともに認めるすばらしさであっ
た。最勝光院の御堂の檜の障子に、絵を描いている。「似絵師」としての彼の
評判はたいへん良い。
「娘が夜中にこんなところで散歩ですか?」
「ええ、まぁ…」
「誰かと待ち合わせでも?」
「いえ、月と蛍に誘われて…」
「そうですか。今宵の月はとても綺麗ですね」
「ええ。ところで、隆信さまこそこんなところで何をしていらっしゃるのです
か?」
「あっ、ああ。」
 聞くのも無駄かなぁと思ったが、このままでは会話がもたないので、一応、
聞いて見る。
「まぁ、あなたとおなじお散歩ですよ」
 と、ごまかされた。
 隆信は宮中きっての「遊び人」でも有名である。
 毎日毎日、いろいろなところの女房の部屋へと通っているらしい。
「今日はどなたのところへお出かけですか?」
「いやぁ、まいったなぁ。右京どのまでそういうことをおっしゃるなんて」
「いえ、すみません。」
 隆信は笙子にそっと耳打ちした。
「今度、あなたのところへお邪魔してもよろしいですか?」
 体中の血が頭に昇ったような感じがして、驚きとときめきと、心臓の音が聞
こえてしまうのではないか、と思った。
 そんな笙子に軽く会釈をして、隆信は女院の宮のほうへ去って行った。
「はぁ…」
 ため息ばかり。
 再び、笙子の背後から声がした。
「今度、あなたのところへお邪魔してもよろしいですか?」
 木の陰から、武装した男が現れた。
「き、き、き、聞いていらしたんですか!」
 その男は豪快に笑った。
「右京どのは初心ですね。」
「資盛さま、からかわないでください!」
 今宵の見回り当番で、庭をうろうろしていたところ、声が聞こえたという。
「こんな夜中に、娘の一人歩きは危険ですよ」
「月が綺麗なもので…」
「私が部屋まで送って差し上げます。化け物に襲われたら中宮に私が怒られま
すから。さあ、いきましょう」
 と、資盛は手を差し伸べた。笙子はちょっと残念そうに、「はい」と答えて
手を取ろうとした。そのとき、資盛は笙子の腕をぎゅっとつかみ、強引に自分
のもとへと引き寄せた。
 そして優しく抱きしめる。
 抱きしめて、そっと髪をなでる。
 笙子には、突然の出来事だったので、どうしていいのかわからず、なされる
ままであった。
「あ、あのう…」
 声を出そうとするが、上手く発音できない。
 ふと資盛の腕が緩んだ。おそるおそる顔をあげてみる。
 すると資盛の顔が近づき、笙子の唇は資盛の唇にふさがれてしまった。
 再び、資盛の腕に力がこもる。
 蛍たちが、そんな二人の周りを舞っていた。


                             《つづく》

======================================================================
            ドラゴン ラヴァ・28
                        by瀬乃美智子

竜の口から発せられた炎によって、一瞬にして燃え尽きた魔族の体がチリチリ
と燃えカスとなって落ちていく。
それは最後の最後床に付くまで、強すぎた炎を内に秘め。
『炎の飛沫』――――竜彦が「視た」そのままに…。


『殺れ!』
黒髪に真紅のマントを羽織る魔族が配下の魔族たちに命令する。
下級魔族のほとんどは無謀にも出現した竜に挑んでは敗れ去り、…しかし、利
口な一部は抵抗力の無さそうな竜彦へと目標を定めた。

竜彦は、竜の足元を避けながら、すめすめと屋外へ通ずる廊下へと足を伸ばし
ていた。正体がばれたら大人しく退く―――。それが、火竜たちと交わした約
束。

『逃がすな!』

自分を踏み潰そうと暴れまくる竜から自らも逃げながら、黒髪の魔族は叫ぶ。
下級魔族たちを一気に竜へと立ち向かわせ、自分は竜彦の下へと向かう。
怒り狂ったように暴れる竜。
彼女にとって、足元にまとわり付く下級魔族どもなど敵のひとつにも入らない
が、数に物を言わせ彼女の足に喰らい付く彼らは案外邪魔な存在だった。


魔族がもうひとり、残っている。
奴に、竜彦へ手を出すような真似をされる事だけは絶対さけなければ!


「――――…っ!」
竜彦は部屋の出口へと急ぐ。
部屋の朱塗りの大扉は堅く閉じられていて、外の様子は伺い知れない。

竜彦がその大扉へと手をかけた瞬間――――っ。

『待て!!』
魔族の手が、とうとう竜彦の着物の袖口を掴む。
魔族がそれを強く引いた瞬間…。

「竜彦!!」

朱塗りの大扉が勢い良く開け放たれ、走ってきた竜彦を受け止める力強い腕。
「火竜!」
「さがっていろ、竜彦!」

火竜の指先が竜彦の袖口を舞う。
魔族に掴み取られ、今まさに引き込まれようとした袖口が、はらりと真っ二つ
に切り離される。
魔族の手に残るは、空しい着物のはぎれ一枚…。


「貴様は一体!?」

魔族は鋭く挑戦的な視線を目の前の青年火竜へと向けたのだった―――…。

                            《続く》
======================================================================
あとがき
皆様今回のお話はいかがでしたか?
次回増刊号では、瀬乃の「ちょっと不思議な夫婦の話」がいよいよ最終回です
皆様、お見逃しなく!

君が好きはリンクフリーです。ご意見ご感想をお待ちしております♪
キリ番をGETされた方は、掲示板にご報告お願いいたします。
〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓
 月刊小説「君が好き!」メールマガジン  2002/6/15 38号
 発行責任者 :篠原美姫緒  kimigasuki@1-emishop.com
 Webページ:http://kimigasuki.hoops.ne.jp/
 君が好き!メールマガジンの、転載、複写など著作権法違反行為は禁止です。
 発行システム:『まぐまぐ』『melma!』『Mailux.com』『E-Magazine』
 マガジンID:0000025584 m00012567 ms00000142  loveyou
〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓

ブラウザの閉じるボタンで閉じてください。