メルマガ:月刊小説メールマガジン『君が好き!』
タイトル:月刊小説メールマガジン『君が好き!』2002/5/15  2002/05/15


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月刊小説メールマガジン         2002年5月15日 発行
『君が好き!』  vol.36
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皆様こんにちは!ゴールデイウイークも終わりましたが皆様はいかがお過ごし
でしたでしょうか?
瀬乃は、イベント参加、京都旅行(これも実はイベント目的(苦笑))、鎌倉散策
など、近年まれに見る忙しい休日でございました!
今回のお休み、楽しめ方はちょっとした息抜きに。
そして、なかなか楽しめなかった方はちょっとした娯楽に。
どうぞ、君が好き!の作品をお楽しみくださいませ♪(瀬乃 美智子 拝)
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今月の目次
▼君が御世に・6     篠原美姫緒
▼ドラゴンラヴァ・27  瀬乃美智子
▼あとがき
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              君が御世に 6
                          篠原美姫緒

 安元二年七月八日、高倉天皇の生母である建春門院が崩御し、翌三年七月七
日には、内裏で女院のための御八講が行われてた。
 笙子は、維盛の美しい姿を見ながら、春の出来事を思い出していた。そして、
資盛が霊前に御供物を捧げる番になった。
 資盛は、中宮の側にいる笙子にチラっと目をやる。
(目が…、合ってしまった?!)
 笙子には資盛が少し微笑んだように見えた。
 時折吹いてくる風が、心地よい。蝉の声が煩いほどに聞こえてくる。
 けれども、笙子には目が合った瞬間に、時が止まったように思えた。蝉の声
にふと我に返るが、自分の部屋にかけてあるくすだまを思い出した。
 五月五日の菖蒲の日、この日には親しい人々の間で、菖蒲の根とくすだまを
贈る習慣があった。麝香や沈香などの香料を袋に入れて蓮や菖蒲で薬玉に糸で
かがり、その五色の糸を長く垂らしたもので、菖蒲の節句にこれを柱にかけれ
ば邪気を払い、長生きするという。
 中宮職権大夫の時忠から中宮へ、薬玉のまいた箱のふたに、菖蒲の薄葉を敷
いて、おなじように薄葉に書いて、とても長い長い根をからませたものが贈ら
れた。

  君が代にひきくらぶればあやめ草ながしてふ根もあかずぞありける

 と歌が沿えてあった。この頃の「君が代」という言葉は、「あなたの命」、
「あなたのこと」、「あなたの存在」という意味が含まれている。決して、天
皇のことを指しているわけではない。
 中宮のお返しを、笙子が代わってしたためる。

  心ざし深くぞ見ゆるあやめ草ながきためしにひける根ならば

 その使いの者が資盛であった。
「右京は歌が優しいね」
 初夏を思わせるような日差しの中、青年の爽やかな笑顔が笙子のまぶたに焼
きつく。
「これは、僕からあなた(右京)へ」
 そういって、素朴ながら愛らしいくすだまを、笙子の手のひらに乗せた。
「まぁ、かわいい!」
 笙子のまわりを一瞬にしてなごませてしまうような笑顔に、資盛は顔を赤ら
めた。その顔を見て、笙子も顔が赤くなる。
「こんど、花見にでもいきませんか?」
「はい、喜んで」
 不思議な気持ちに包まれた思い出であった。
(そういえば…)
 そう約束したにもかかわらず、これ以降、資盛からの誘いはなかった。
 それもそのはず。三月には、歴史に残る事件がおきていた。
 後白河法皇の意を受けた院の近臣達は、京都の鹿(しし)ヶ谷に集まり、平
氏打倒の計画を試みたが未然に失敗した。俗に言う鹿ヶ谷事件である。
 後白河法皇のもとに、新大納言成親、成経、西光法師、法勝寺執行の俊寛ら、
院宣と申して源氏の兵士どもが集められ、平家討伐の相談をしていたのである。
 西光法師が捉えられ、成親が西八条へ招かれて行ったまま監禁され、院の近
習はほとんど捉えられた。
 西八条で西光法師が斬られたとき、成親も斬られるはずであったが、成親の
妹は重衡の北の方(本妻)、娘は維盛の北の方であったということから、監禁
ということに。成親の妻の一人は、俊成の娘で、後白河院の京極局であった。
笙子にとっても、この事件は他人事ではない(笙子の母は俊成の元妻であった)。
 その事後でも、平家の強硬さはかわることはなかった。
 笙子は、こんな歌を詠んでいる。

 欺くことありて篭りいたりしころ、菖蒲の根おこせたる人に、

  あやめふく月日も思ひわかぬまにけふをいつかと君ぞしらする

 成親の娘であり、維盛の妻から「薬玉をありがとう」と

 君におもひ深き江にこそひきつれどあやめの草の根こそあさけれ

 と歌が添えてあった。お返しにと

 ひく人のなさけも深き江に生ふる菖蒲ぞ袖にかけてかひある


 後白河法皇は、お経を聞いているのか、目を瞑ったまま微動だに動かず、た
だ正座していた。
「右京や、今宵の一興に筝をひいてはもらえぬか?」
 にこやかにいわれる法皇の笑顔を思い出す。
(あんなにお優しい方が…)
 法皇や清盛が何を考えているのか、一介の女御である笙子にはとうてい理解
できるものではなかった。


                             《つづく》
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            ドラゴン ラヴァ・27
                        by瀬乃美智子
『太刀見――…?』
 その名前に、二人の魔族は反応する。
 それは確か、この屋敷の当主の名のはず。
『女ではなかったのか?』
『別に気にすることもなかろう、相手は人間。我らと生きる尺度が違う』
 魔族たちは、以前の海里からの情報で、漠然とした情報を掴んでいた。
 しかし、寿命という点で人間と明らかな差がある彼らは、竜彦の存在をそれ
ほど変に思っていないようだ。
自分たちが聞き及んでいた人間がいないとしても、それは時の流れのした事…。
寿命が短い彼らが姿を消し、また別の人間が待っているということはよくある。
彼らにとっては、さほど問題ではないようだ。

「帰れ」

 竜彦の物怖じしない言葉が、室内に静かに響く。

「お前たちはそれ以上一歩も進んではならない。進めば、そこで未来が確定し
てしまうだろう」
『未来?』

 占い師である竜彦の独特の言い回しに、二人の魔族は軽く眉根を寄せる。
 背後に控える低級魔族たちにいたっては、まったく理解できていないようで
ある。

「――炎の飛沫。――二つの赤きはためき。…俺だとて、そんなものが見たい
わけではない」
『――…?』
『何を言っている?』
「あれはおそらく、お前のあるべき姿」
『っ!?』
 竜彦の言葉に、二人の魔族は、一瞬だけ目を張る。
 なぜこの人間は、自分たちの本当の姿を…。
『確かに、私の根源は赤い布切れだ』
 黒髪に真紅のマントを羽織る魔族が口を開いた。
『――国民を虐げ、それ故に返り討ちとなった国王の血に染め抜かれた真紅の
マント。国王の無念の思い、そして、国民の憎悪の念がこもったもの…、それ
が私の根源。しかしおまえ、何故それを知っている?』
「お前たちも、死ぬ直前は本来の姿に戻るだろう。俺はそれを『視た』だけ。
俺には、未来を『視る』力があるから」
お前たちが敗れた後、死して帰りしお前たちの本来の姿を見たのだと、竜彦は
言っているのだ。

『――随分面白いことを言う人間だ。それなりの力を持っているようだが…、
あの結界を張ったのはお前か?』
「そうだ」
『竜はどこにいる?』
「竜―――…?」
 竜彦は、何のことだ?という表情を浮かべる。
 しらをきっても分かるぞと、銀髪に漆黒のマントを羽織る魔族が告げた。
 ここは竜の力に満ちている…。お前のうそはお見通しだと、魔族の目は言っ
ていた。
 それに…。
『私の根源は炎の飛沫などではない』
にんまりと笑って、魔族は一歩足を踏み出した。
「それは……。」
 竜彦は、残念そうな眉を寄せた。
「お前の体が、元の姿に戻る事もできぬから」
『うん?』
 意味がわからず、銀髪の魔族を小首を傾げる。
 魔族はさらに歩を勧め。竜彦のすぐそばまで近寄った魔族は、しかし、次の
瞬間地下から湧き上がってくる膨大な量の力と振動に、一瞬、体のバランスを
崩した。
『っ!?』
 銀髪の魔族の体が、床の石板を跳ね除け、地下から現れた何かに持ち去られ
る。
『グレリフ!』
 反射的に後退した黒髪の魔族が、その名を呼ぶ。

 一体、どうやってその巨体を隠していたのか――――。
 床を突き破って現れたのは、一匹の竜であった。
 床板ごと魔族を口に咥えた竜は、その巨体を全て現すと、ギロリと足元の魔
物たちを見据える。

『くそっ!』
 その口元で、銀髪の魔族がもがく。
 胸から上と、脚の部分は口からはみ出しているものの。その胴の部分は、竜
の鋭い牙によってがっちりと咥えられていた。
それをどうにかして牙を外そうとした次の瞬間―――!
『っ!???』
 その体は、竜の口から発せられた炎によって、一瞬にして燃え尽きていたの
であった――――…。
                            《続く》
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あとがき
ドララヴァとうとう戦闘シーン突入です!(汗) がんばって書きますので、ラ
ストまでお付き合い下さいませね♪

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 月刊小説「君が好き!」メールマガジン  2002/5/15 36号
 発行責任者 :篠原美姫緒  kimigasuki@1-emishop.com
 Webページ:http://kimigasuki.hoops.ne.jp/
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 発行システム:『まぐまぐ』『melma!』『Mailux.com』『E-Magazine』
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