メルマガ:月刊小説メールマガジン『君が好き!』
タイトル:月刊小説メールマガジン『君が好き!』 増刊号vol.7  2000/09/01


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月刊小説メールマガジン         2000年9月1日 発行
『君が好き!』   増刊号vol.7
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こんにちは。『君が好き!』web担当の篠原です。
 暦は順調に月日を重ね(謎)、とうとう9月になってしまいました。メール
マガジンも順調に読者様の数を増やしています(笑)。
 さて、今回の『ちょっと不思議な夫婦の話』は、初の前後編と瀬乃美智子は
気合いを入れております。シリアス調の内容に、ハラハラドキドキ。あのおと
ぼけ夫婦が今後どのように大歩危かますかとても楽しみです。

▼小説の感想などゲストブックに一言お願いします。
それでは、増刊号行ってみよう!
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増刊号 今月のラインナップ  
●愛の寸劇劇場『ちょっと不思議な夫婦の話〜罠編〈前編〉〜』瀬乃美智子
●『聖獣戦記』第五章 篠原美姫緒
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 『ちょっと不思議な夫婦の話 〜罠編〈前編〉〜』
                        b y 瀬乃美智子
 

 某国情報部の腕利き情報部員にして十数名の部下をまとめる女課長の奥様、
さやか=ド=コンボイと、常識人のようでやっぱりちょっと変わってる(?)、
妻に溺愛される夫、武(たける)の熱々だけとちょっと不思議な夫婦の話、は
じまりはじまりです……。

「貴様! 何度言ったら分かるんだ!!」
「その台詞、聞き飽きたわ。私は納得出来ないから出来ないと言っているだけ
 よ。自分の信念に背く事はやらない、それが私のポリシーです。やりたいの
 なら、自分たちの力だけでおやりなさい!」
 さやかは言うだけ言うと、後は用はないとでもいうようにその場を去って行っ
た。取り残された相手はまだ怒っている。
「あの女、何様のつもりだ!」
 彼女と言い争っていた青年は怒りのあまりどかりとソファーの背に体を埋め
た。その隣では、様子をうかがっていた彼の上司が軽いため息をついていた。
「おやおや、やはり駄目だったかね…?」
 そこに、彼女とすれ違うように初老の男性が入って来る。二人は立ち上がっ
てその人物を上座に座らせ、自分たちもソファーに座り直す。その態度から、
この人物がこの二人にとってとても重要な人物だという事が一目で分かる。お
そらく、二人にとっては後ろ盾…、陰の黒幕的な人物なのだろう。
「やれやれ…。彼女が納得しなければ、この件は暗礁に乗り上げたも同じだな」
「何とか納得させてみせます!…でなければ…、彼女の存在が今回の我々の計
 画に邪魔だというのなら、彼女をこの情報部から追放してでも計画を成功さ
 せてみせます!!」
 若い青年の方が、初老の人物に訴えかける。その隣では、上司が最早諦め顔
だ。
「彼女を辞めさせる? そんな事、君には出来やせんよ」
「あの女は情報部内のどの派閥にも入っていません。一匹狼をつぶすのなんて、
 わけありません」
 どの世界にも、そこを仕切る派閥というものはあるものだ。そこに所属しな
い者は、自分を守る力にも限界がある。
「派閥ね…。別に派閥に入る必要もないからな、彼女は。しいて言うのなら、
 財閥という金が彼女の後ろ盾という事になるかの」
「コンボイ…財閥の事ですか?」
 青年も、その単語に少し言葉を濁らせる。確かに彼女の実家、コンボイ財閥
は世界でも三本の指に入る大財閥で、彼女はその財閥を取り仕切る財閥長の長
女だと聞いている。
「ですが…、彼女の実母は彼女が幼い頃に亡くなり、その後父親も再婚。父親
 と再婚相手との間に跡継ぎが生まれた事を期に、家を嫌った彼女は実家を出
 て情報部に入ったと聞いています。以来、彼女と実家は絶縁状態だとも…。
 今頃になって彼女に何かあっても、コンボイ財閥が何か言ってくるとは思え
 ません!」
 青年の言葉に、しかし、初老の人物は口許の笑みを深くしただけだった。
「君は…、コンボイ財閥から情報部にされる寄付金が毎年どれだけになるか知
 っておるかね?」
「は?」
 突然の質問に、青年の勢いが止まる。戸惑ったままでいる彼を見て、彼の上
司が代わりに深く落胆した声で答えた。
「…十億ドルです、副長官」
「十億!?」
 青年があまりの金額の大きさに目を見張る。十億と言えば、情報部の予算の
何割とまではいかないが、かなりの金額であることは確かだ。
「その他、物や土地、情報…、金には換算出来ぬいろいろな面でコンボイ財閥
 には情報部をバックアップしてもらっている。ちなみに、彼女が入部する以
 前の寄付は一億にも満たないものだった。ゲインズ君…。」
 初老の人物は話はもう終わったというように、立ち上がり、部屋を出る前に
青年へと静かに告げた。
「コンボイ家が彼女をまだ大切に思っているのか。それとも、情報部に彼女を
 引き取ってもらっているという迷惑料として寄付をしているのか…、そんな
 事はどうでもよいのだ。………彼女を辞めさせるのはかまわん。しかし、そ
 の時はそれによって失うであろう金額を君が用意出来てからにしたまえ。こ
 れから毎年、十億ドルもの大金を…、君は用意出来るかな?」
 パタンっ…、とドアが閉まると同時に青年の体がドサリとソファーに崩れ落
ちる。ほとんど放心状態の彼の隣で、やれやれやっと納得とたかという表情で
彼の上司が軽いため息をついている。
「寄付金の事は、情報部の面子もあるからね…。あまり広めていないんだよ」
 寄付金欲しさに彼女を首に出来ないと知られては、情報部の面子が立たない
のだろう。それに、実家が勝手にしているだけで、彼女自身は寄付金の事はまっ
たく知らないかもしれない。もし彼女がその事を知るような事になれば彼女は
怒り、寄付を止めさせるかもしれない。そんな事になったらそれこそ情報部は
大事な収入減を断たれる事となる。
「あぁ、彼女が何かミスの一つでもしてくれれば、その弱みを突けるのだがな。
 仕事が出来る上に、頭もいい。今まで彼女を陥れようと画策し、逆に足元を
 すくわれたという人間を私は何人も知っているよ。どこにも付け入るすきが
 ない。まったく、鋼鉄の女というのはああいうのを言うんだろうねぇ…。」
 彼女に弱点があるとすればご主人ぐらいかなと、上司は苦笑を浮かべた。か
なり溺愛しているらしいからと…。
「それです、部長!」
 呆然としていた青年が、はっと我に返る。そうだ、あの女にも弱点はあった
んだ!
「俺が何とかしてみせます、見ていて下さい!」
 青年ゲインズは、ニヤリとその口許に笑みを浮かべたのであった……。

                                          《罠編〈後編〉へと続く…》


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      『聖獣戦記』            篠原美姫緒

              第五章 礼門院


 皇帝軍が無血制圧したというニュ−スと、大神官イアンが暗殺されたという
ニュ−スはヒンメル中を駆け巡った。
 皇帝がオ−カスを丞相に任命し、大胆な行政改革を行なった。先代の皇帝の
遺臣は全て解任し、蔓延していた官僚腐敗を一掃した。法を整備して、功績の
あった者には褒賞を、罪を犯したものは罰を与えた。この法は一見当たり前の
ようだが、今までは華族・貴族・外戚には法の適用を免れていた。それが今度
は皇帝も守らなくてはならい。民衆は大歓迎だが貴族達は猛反対である。また
マスコミによるイメ−ジアップをはかる。皇帝が独身をいいことに民間人から
の花嫁を募る。もちろんこれはオ−カスのアイデアだが。
 こうして民衆を味方に付けた皇帝軍は、徐々に勢力を拡大し始めていった。
 面白くないのは、皇帝に反旗を掲げている地方の有力人物たちである。
 フラメ公国の独立自治を勝ち取っているヘスリヒもその一人だ。なにせ「皇
帝政権からの解放」を大義名分に掲げているだけに、皇帝政権が根本から変革
を行ない、それが民衆に受け入れられているとなると、支持率が下がる一方で
あった。
「『皇帝政権からの解放』とか言ってたって、やってることは皇帝政権と変わ
りないもんな」
「そうそう、結局はヘスリヒ大統領の独裁政権だもんね」
「うちらあんな勉強して、こんな学校に入って、結局…戦場行きだもんね」
「幹部候補生‥‥か」
 ヘスリヒは独立自治の第一歩として、フラメ公国内での身分制の廃止と全国
民に教育を受けさせるということを行なった。それまで学校へ行けなかった貧
民や犯罪者の子供たちも学校へ行けることになった。それは国民の質の上昇を
生んだが、階級差別は今だ改善されていない。
「あの特待生の咲羽(さわ)は、模擬シュミレ−ションでまた優勝だって」
「貧民出身のくせに」
「やってらんないよね」
 フラメ国立士官学園はフラメ最難関である学校で、官僚・軍隊の幹部が約束
されている。入るのも難しいが、卒業するのには更に何倍も難しいという、エ
リ−ト学校であった。
 その特待生ということになれば、よほど優秀でなければならない。
「さわ」
 小声で呼ぶ声がする。
 丁度咲羽は授業を受けている最中であった。しかも超級コ−ス在籍する咲羽
にとっては大事な指令講義であった。その最中に、
「さわ! おい咲羽起きろよ!」
 咲羽の後ろに座っていた礼門院星(れいもんいんじょう)が声を掛けていた。
「田中咲羽! 田中!」
 教授の怒鳴り声が教室中に響いた。
 咲羽は目を開ける。何故怒られたか分からない様子であった。
「これだから貧民は! よく中途編入特待生で入れたな!」
 この学校に入学してから二年間、ずっと言われ続けている言葉だ。
 さすがに咲羽も慣れたので、無視することにしている。それが教授の癇に障
るらしく、成績に響くこともしばしばあった。だが学校側は全面的に咲羽を支
持していた。貧民がこの学校を卒業するということは、身分差別廃止への国側
のアピ−ルであるからだ。
「授業に戻る」
 教授は再び黒板に向かい、生徒たちは再び雑談を始めた。つまり、はなから
教授には授業する気はなく、生徒たちも授業を聞く気はないが、一応咲羽を怒
ることにより、教師としての威厳を保っていたのであった。
「咲羽もいい迷惑よねえ」
 隣に座っている悠紀子が言った。
「しょうがないよ」
 そういって机に向かいノ−トを取るふりをした。だが、ノ−トに書いている
のは、後ろにいる星への手紙である。
 そっと星にノ−トの切れ端を渡した。
『イアンは生きている。東の魔法陣の封印が解かれた、といっていた。イアン
はそこにいる。それから北に聖獣の匂いがするとも言っていた』
「なんだって!!」
 思わず大声を上げる。
「どうかしたのですか、礼門院君」
「いえ、なんでもありません」
 ふと視線を咲羽に戻すと、咲羽はまた寝ていた。
 咲羽と星の関係は『姉弟』である。フラメ公国の戸籍を得るために星の家の
養女になっているからだ。けれども咲羽は実家の姓を名乗っている。が、咲羽
と星の関係はそれだけではない。咲羽には父親がいない、いやいなかった。咲
羽の母親は貧民のため、お金を稼ぐ手段として「代理母」をした。星の母親は
子供が生めないので、代わりに咲羽の母親の体を借りたのだ。星の両親はフラ
メ公国内でも有力な豪族であった。だが子供がないというのは恥であり、体外
受精などという技術は神技とされ、軽蔑の対象となっていた。それゆえ、フラ
メからはなれ、フラメとリヒトの境にあるがリヒト国内の貧困層が住む、秘密
が漏れない裏の病院で体外受精を行ない、咲羽の母親の体を借りた。それは成
功した。後日妊娠の確認をすると、胎児が二人いることが判明した。片方は着
床後まもない胎児であるが、もう片方は妊娠六週目に入った胎児であった。つ
まり手術を行なったときには、咲羽がお腹にいたのである。
 咲羽と星は同じ母から一緒に生まれたのだが、血のつながりはないという不
思議な関係である。しかし、星の両親は十年間、星を引き取りには来なかった。
仕送りはして来るものの、会いにすら来なかった。咲羽と星は一緒に育ったの
である。星は両親に引き取られる条件として、咲羽も一緒にフラメ行くことを
提案した。最初は礼門院家の召使いであったが、星と同じ私立の学校に通わせ
てもらっていた。咲羽は学内でも成績が優秀であったため、学長が国立士官学
園の編入試験を咲羽に受けさせた。学内の生徒が士官学園に入学するというこ
とは、私学側にとっても栄誉なことであった。咲羽は特待生となったが、国籍
がリヒト公国のままであった。このときリヒトとフラメは国交断絶状態にあり、
リヒトに帰ることができなかった。国籍を得るためには、咲羽が未成年なため
保護者が必要である。ならば手っ取り早く、国籍を得る方法として誰かのうち
の養女になる。それが咲羽が礼門院家の養女になったいきさつであった。
 今日の授業が終わり、学園内は生徒たちの活気づいた声が校舎に響いている。
「おい咲羽! なあ東の魔法陣って、もしかしてミュ−ラスの?」
 急いで帰る咲羽に、星が声を掛けた。
「学校内ではあまり話しかけないでって言ってるでしょ」
 女生徒達が、睨むような目で咲羽を見ている。礼門院一族はフラメ国内でも
有力な豪族である。その御曹司である星には女の子たちの熱い視線が注がれて
いた。咲羽は必要以外はなるべく星と接しないようにしていたが、星は話しか
けてくる。
 咲羽がだまったまま、急ぎ足で学校を出ていく。その後を星が追う。
「待てよ、咲羽!」
 星が咲羽の腕を掴んだ。
「あそこへ行くんだろう。一応命日だし、俺も行く」
「好きにすれば」
 会話もなく、電車を乗り継いで礼門院の実家がある新川のほとりへやってき
た。川は濁り悪臭を放っている。その前に、前に通っていた私立学校があった。
 咲羽達は誰にも会わないように、正門を避け、裏門へ回る。道路を挟んで反
対側には、大きな公園があった。その公園の隅に墓地がある。その一つの墓の
前に大きな人だかりが出来ていた。
 咲羽の足が止まる。
 泣いている前の学校の同級生や卒業生をただじっと見つめていた。
 星も何も言わない。
 そのうち、一人が咲羽と星に気がついた。
「人殺しが来た!」
 その女の子は叫んだ。
「来るんじゃね−よバカ!」
「おまえのせいで毅彦は死んだんだ!」
「来てもらったって毅彦先輩は嬉しくないよ」
 口々に好き勝手なことをいう。
「星君もまだこんな奴のお守やってんの」
「だまされてんだよ星君は」
 何か反論をすれば、倍になって仕返しがくるだろう。咲羽も星もだまったま
ま、彼らが立ち去るのを待った。 咲羽の肩が小刻みに震えている。
 そんな咲羽の肩を星は押さえた。
 彼らが立ち去った後には、男が立っていた。
「透弥先輩‥‥」
 咲羽が声を掛けた。
「ご無沙汰しております」
 星が言った。
 約一年ぶりの再会であった。
「やあ、なにも知らないというのは、恐いね。平気で人を傷つける言葉を吐く」
 透弥は咲羽に声を掛けた。
「毅彦、とうとうイアンを殺ってしまったな」
「それが、イアン様は生きていらっしゃいます。今日、夢でお会いしました」
 咲羽が答えた。
「毅彦が殺したのイアン様のダミ−です」
 星は毅彦の墓を蹴った。供えてあった花や供物をめちゃくちゃにした。
 二人は星を止めなかった。あの時、死んだと見せかけて、実は生きている。
毅彦の真の姿を知っているのはこの三人だけだ。
 皆が知っているのは、嘘で固められた毅彦の姿である。頭が良く、スポ−ツ
も万能、誰からも好かれ、才色兼備で学校のアイドルだった。


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 モザイク的あとがき
 チャオ! モザイクのアイドル”上条七歌”だよ!
 いやいや、『聖獣戦記』いよいよ核心に迫って来たね。一応、主要登場人物
は出そろったみたいだし。これから、どんなすごいことがおこるのだろう、と
ワクワク。でも、伏線がたくさんあってそっちも気になるぅぅぅぅ。
 愛劇はいつもにまして、今回はちょっぴりシリアス。七歌はケインズ君がちょ
っと好みかな。
 さて、来月のモザイクはナナカが七歌に変身するかなぁ。早く変身したいな。
だって、ちょっぴり大人になれるんだもん。
(作者はおもいっきり魔法少女を意識してるよな:悠輔談)
(ステッキもって、呪文唱えるやつね:沙明談)
(字数的に、ほぼ間違いなくさ来月になるでしょう:シンバ談)
(まあ、モザイクは基本的になんでもありですから:メラル談)

 それじゃ、また15日に会おうね!!
(な、、、ナナカじゃない?!:マイン談)
 
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 月刊小説「君が好き!」メールマガジン  2000/9/1 増刊号
 発行責任者 :篠原美姫緒  kimigasuki@1-emishop.com
 Webページ:http://kimigasuki.hoops.ne.jp/
 発行システム:『まぐまぐ』『melma!』『Mailux.com』『E-Magazine』
 マガジンID:0000025584 m00012567 ms00000142  loveyou
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