月刊小説メールマガジン『君が好き！』 2000/08/17

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タイトル：月刊小説メールマガジン『君が好き！』 2000/08/17

＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝月刊小説メールマガジン　　　　　　　　　2000年8月17日　発行『君が好き！』　　vol.7 ＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝こんにちは。『君が好き！』web担当の篠原です。　暑いですね。息苦しいほどに暑いですね……。　さてさて、コミケに行ってまいりました！　今回のコミケは、オンラインでお世話になっている方々との対面式状態で、感激しました。しかも、取材写真まで撮られちゃったりして（英字新聞らしい）　コミケ会場は、相変わらずの人・人・人で、西館東館の往復はとってもきつかったですね……。　こんど、「お出かけライブ」で地方に委託参加します。ヾ（＞▽＜）ゞ　感想など下さると嬉しいです。君が好き！はリンクフリーなので、どんどんリンクお願いします。こちらでもリンクします！ ☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆ 　今月のラインナップ　　 ●『ドラゴン　ラヴァ6　第二章』　瀬乃美智子 ●『宇宙刑事モザイク』陵　しお ●『聖獣戦記』篠原美姫緒 ☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆ 『ドラゴン　ラヴァ６　第二章　正体　』瀬乃美智子　　あんまんを食へ終えた竜彦は、浅月のとなりでぼんやり庭を眺めている。浅月はそんな彼の傍らで、ぽつりぽつりと肉まんに手を付け出していた。　まだ若い二人が庭を眺めて楽しむというのははた目から見れば不自然のように見えるが、世間を知らず、しかも娯楽らしい娯楽のないこの太刀見家においては、このぐらいしか余暇はなのだろう。それに、この二人はこの環境しか知らぬだけに、この状況自体ににあまり苦痛を感じていないようだった。（しばらく、お二人だけにしていた方がよさそうね…。）　浅月に下がるように言われたものの、心配で廊下の隅に控えていた使用人は、やっと安心してその場を離れて行った。　廊下を抜け、母屋の東側の一部にある浅月様のお世話当番の使用人専用の休憩所へと向かう。途中、厨房を横切ると夕食の支度をしていた給仕係に、どうしたのかと声をかけられた。「竜彦様と二人っきりでおやつをお召し上がりになってるわ」　その言葉に、ああ、道理で数が足りないと思ったら、竜彦様が持ち出したのねと、給仕係は一人で納得していた。どうやらあの肉まんはここから持ち出したものだったらしい。おそらく使用人用のおやつだったのだろう。「ああしてらっしゃると、とても仲良く見えるのだけどね…。でも、浅月様は　ちょっと困っていらっしゃったみたい」　浅月が最後に見せた悲しみの表情が、離れた所から様子を伺っていたこの使用人には困惑の表情に見えたのだろう。「そりゃそうよ、あんなえたいの知れない人間と一緒にいなければならないん　だから……。ご心労、お察しするわ」　えたいの知れない人間とは、どうやら竜彦の事らしい。　―――ここの使用人たちは、当主が交替すると共に一新するのが慣例だ。元々この太刀見家の当主は世襲制ではない。当代の当主が己の力の衰えを感じるとまず竜にお伺いを立てる。すると竜から一族の中より次代の当主になるべき人間のお告げがされ、当主交代となるのである。　当代の浅月様は先代の琴音様から十四歳のおり、当主の座を引き継いだ。先代の世話をしていた使用人たちは琴音と共にこの屋敷を去り、今の使用人たちは浅月の世話をするべく新しく選ばれたものたちばかりだ。新しい使用人を選ぶには多くの場合、元々新しい当主のそば近くにいた者たちが選ばれるのが慣例だ。なぜなら、今日（こんにち）では一族の中にもいくつかの派閥があり、敵対する派閥の者が使用人に選ばれる事で当主の仕事に支障をきたす事がないようにである。　よって、今ここにいる使用人たちは浅月の実家の元使用人や遠縁の親族たち …、浅月に好意を持つ者たちばかりである。その使用人だちが、何故か竜彦にだけは態度がよそよそしい。必要以上に彼が浅月に近づこうとする事を嫌い、同し屋敷の中にいても自ら進んで彼の世話をしようという者はいない。　えたいの知れない人間という給仕係の発言に、世話係の使用人が周囲を伺いながらも小声で返す。「人間ならまだいいわよ。竜彦様がここに来た時の事、覚えてる？　とてもじ　ゃないけど、人間業〈わざ）ではなかったわ」「ええ。あれは『来た』というより、『現れた』って感じだったもの！」「あぁ！　今思い出しても、恐ろしかったわあの時は…。」　その時の恐怖を思い出したかのように使用人の女は身震いし、ため息をついた。　それが起こったのは今からニ年前、浅月が十八を過ぎた頃であった――。　二年前、太刀兄家のここ、本家内部では少々問題が起こっていた。半年ほど前から当主である浅月が、占いが出来なくなってしまっていたのである。…竜のご神託が突然、『聞く』事が出来なくなってしまったのである。今まで十代の若さがその力がなくなった当主など存在せず、何とかカを回復させようと使用人たちはやっきになっていた。「さぁ、浅月様。『竜の池』ヘ…。」　その日も、再び未来が占えるように竜殿にお頼いしてみましょうと、使用人たちは半分あきらめきっていた浅月を説得して『竜の池』へとやってきた。そして、人々は見たのである太刀見家の建物の中でも最奥にあり、何人（なんびと）も太刀見家の者の断りなしに入り込む事のできぬはずのそこにたたずむ、全身ずぶ濡れの金髪の青年の姿を！「よぉ、お前が『浅月』だな？　うん、『視（み）た』のと一緒で…いや、も　っと美人だな。うん、お前のような美人を嫁に貫えるなんて、俺はなかなか　の幸せものだな」　見れば青年は着物姿だ。袴（はかま）の裾（すそ）からはいまだ水がしたたり落ちている。外は確かに雨か降っているが、それにしても濡れ過ぎてはいないか…？「ああ、俺の名か？　竜彦だ。将来一緒になる女がお前だと『視た』日からず　っと、この日が来るのを待っていたら本当はもっと早く来たかったんだがな　…、俺が視た『占い』では、今日のこの日でなくてはどうしても駄目たとい　うんで、必死で我慢してたんだぞ？」「占い！？」　その言葉に、使用人たちがざわめき出す。この青年は一体…。　青年と間近で向き合う形となっている浅月の顔からは、血の気が引いていた。「そう怖がるな、浅月。未来の視ることが出来ないお前にはわけが分からぬだ　ろうかな、それが俺たちの運命なんだ。何も心配する事はない」　そんな事は彼女にとって問題ではない。未来を竜の「お告げ」という形で『聞く』のは、元より彼女の役目、恐れの対象ではない。それより彼女が恐れているのは……。（…の、『運命の人』！）　浅月の体に自身も気づかぬうちに、震えが走る。　竜彦と名乗った青年は、目の前でいまだおびえる少女に向かってにっこり微笑んだ。その体を、まるでその背後にある『竜の池』から這（は）い出て来たかのようにずぷ需れにしながら―――。「今思い出しても、あの時の竜彦様の姿は恐ろしくて…。」「本当に。まるで竜殿が人間に姿を変えて池から通い出て来たかのようだった　ものね…。」　その声は半分本気だった。竜彦自身の出現の仕方も尋常ではなかったが、それ以上にその後の彼の挙動はもっと不可思議なものだった。世間というものをまるで知らぬし、食事も肉はほとんど食べず、薬草入りのおかゆばかり…、その量も極端に少ない。これはたぶんに誤解も含まれているのだが、どこの誰かも知れぬのに態度は大きいし、かといって固執しているものと言えば浅月の事ぐらいで、その他の事については全くの無関心と言っていい。…とにかく、筋金入りの正体不明人物なのである。　だから、『あの噂』がでても仕方がないと言えば仕方がないのである。今では噂も尾ひれがっいて、竜彦様は元々太刀見の池に住んでいた竜で、いつも占いの為に竜の池を訪れていた浅月に恋をした。そして竜である彼は浅月様の『聞く』カを奪い、彼女をわざと困らせたしで人間に姿を変え、彼女の前に現れたのだという…。『竜彦様は竜の化身』という噂は、今ではこの太刀見家の人間の間で当然の話として通ってしまっている。「仕方ないわ。どう騒ごうと、竜彦様をここから追い出ずわけにはいかないも　の…。」「…浅月様お可哀想に、好きでもないのに許婚で居続けなければならないんだ　もの。竜彦様の言う事を聞かなければ、大変な事になるものね…。」　ふう…、と二人は同時にため息をつく。とにかく、竜彦様を起こらせない事だわと締めくくり、二人は話を終えてしまった。　――しかし、好きでもないのに彼を追い出せない理由とは？　不審な現れ方をし、素性も分からぬ彼が何故、その言葉通り当主である浅月の許婚になれたのであろうか？　竜の化身かもしれないというただの『噂』を信じて？　ただそれだけの理由で？　…それはこの晩、『竜の池』に忍び込む海里たちによって明るみにされるのである――…。　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　《続く》 ☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆ 『宇宙刑事モザイク』　　　陵　しお　　　　　　　　　　　　四、風が止む時「はぁ、ここもだめか。次はっと」「ねぇ沙明、ビャクヤの足取りを追ってどうするの」「今、どこにいるのかがわかるでしょ」「でも、銀鉄は使わないと思うよ」　沙明、ナナカの二人は、ビャクヤの行き先を調べていた。そこで宇宙から来訪者が必ずと言っていいほど使う銀河鉄道は、日本の富士山の真下、青木ヶ原樹海に駅がある。そこの入星チェックリストを調べていたのだ。「でもさ、念の為ね」　先程、メラルがしていたように魔法陣を使えばどこにでも行けてしまうのであった。「いないとおもうよ」　ナナカがぶつぶつ文句を言いながら、あやしいと思われる人物をリストアップしていた。「ほんとだ。ちょっと失敗だったね」「そうだよ。他行こうよ。……！　あああっ、クール・氷上がいる！」　カウンター越しにクール・氷上の姿を見つけた。彼はナナカの声に気付くと近付いてきた。「お仕事どうですか」　いつもの凍るような声で話しかけてきた。「うん」　ナナカはそう言ってまたリストに夢中になっているふりをした。「クールこそどうしてここへ」　沙明が言った。「私は人間ですからね、銀鉄に乗らないと地球に帰れないんですよ」　銀河連邦宇宙警察太陽系支部の本部は火星にある。火星は地下都市になっており、銀河連邦すべての機関の太陽系支部の本拠地にもなっている。「どうです？　仕事ははかどっていますか」「ぜんぜん。相手が相手なだけに手がかりなしってとこ」「沙明、今度の仕事の鍵は”宝石”にある」「宝石？」「鏡をもっているかい？」「ええ、いつもバックの中に入っているけど」「すぐに取り出せるところにいれておいた方がいい。じゃ、急ぐので失礼」　とクール・氷上が方向転換をし、その場を離れようとした時、「ねっ、ねーーっ！　沙明！　ラーダス公国の第三王女ダイヤって人が一年前に入星してる！！」　とナナカの超音波VOICEが駅内に響いた。「ナ、ナナカ……。耳元で叫ばないで(>_<)」「ごめんちゃい」「ナナカ、その人の出星データを探してみなさい」　ニヤリとニヒルな笑みを浮かべてクール・氷上は去っていった。ナナカはおもいっきり”あっかんべー”をすると、データの見直しを始めた。「あっれー、ないよ。おかしいなぁ」「何年前からやっているの？」「五十年まえから…。何度やっても出ない」「じゃあ、ラーダス公国の関係者を捜しましょう」　沙明が見事な手さばきでキーボードを打った。しかし、二百年先まで遡っても出てこない。「出るときは魔法陣だったのかなぁ」「ねぇ悠輔の持っていた写真の女の子って、このダイヤ王女でしょ。ってことはダイヤ王女は、宇宙人？！」「わかった！　宇宙から来たけど、人間としてこの地球に潜り込んだんだ！」　そうすれば、銀警にも疑われないし、入星管理局にも怪しまれない。　二人がカウンターを出、バス乗り場へと行くと、ビラを配っている男がいた。「お嬢さんたち、このチラシ持っていってね」　そのビラは、例の宗教団体のものだった。「どうしてここにまで配っているのかしら」　ナナカは頭に来て、そのチラシを男の目の前で燃やして見せた。「貴様！　魔法使いか！」「天使だよ」　男はナナカの後に廻り、羽交い締めにした。「あっ！　ナナカ！」「この地球にいるってことは、お前、堕天使だな。それはそれは」　男は口の中で呪文を唱えると、ナナカと共に消えてしまった。「ナナカ！　（￣□￣；）！！」　沙明は一瞬焦った表情を見せたが、すぐに笑い出した。「あーあ。まったくナナカったら。自分からおとりになっちゃって。まあ、彼女のことだから……」　沙明は想像して笑った。「でかしたぞナナカ！」　沙明の報告を受けて恭彬が言った。「ナナカがどうしたって？」　悠輔は車の下から顔を覗かせて言った。「ビャクヤ側に潜入したらしい」「ほう。で、こってちはセット出来たけど」　二人は、国会議事堂爆破のために霞ヶ関に来ていた。「本当に上手くいくのかぁ？」　悠輔は半信半疑に、コードをつなぐ。「任せなさい。じゃあ行くよ」　衆議院本会議を生中継しているＮＨＫにチャンネルを合わせて観ている。「お、クリスタルⅢ世が来た来た！　悠輔、スイッチ入れていいぞ」「おう！」　スイッチが入ると、突然、ものすごい地鳴りと共に地震が起きた。　ところが、この地震は国会議事堂だけ。　しばらくして揺れが止まり、その１０分後には、国会議事堂は爆発した。多少の怪我人はでたものの、死亡者はいなかった。「防災訓練で習ったでしょ。大きな地震が来たら、まずドアを開けて、揺れが止まってから広いところに避難するって。それから、建物から十分離れること」　天才恭彬の発明『なまずの田中君』が超局地地震を起こし、みんなが避難したところで爆破させるという、なんとも賢い方法だった。「恐れ入りました恭彬殿」　悠輔はシンバの真似をして言った。　翌日、花橘コンツェルン代表取締役秘書川原誠一氏から、今度は『ホワイトハウス爆破』の以来が来たのであった。　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　《続く》 ☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆ 『聖獣戦記』　篠原美姫緒　　　　　　　第四章　フォールラードゥング（後編）　メール山標高五千メートルに高山列車の終着駅シュラがある。そこから登山道が三本に分かれており、大寺院へは自力で登らなければならない。駅周辺は温泉街になっており、旅の疲れを癒したり、これから登る準備をしたり、あるいは観光客で賑わっていた。　二年前の夏、その日の最終列車がシュラに到着した。降りたのはアレリニオただ一人。なにしろ、シュラに着いたのが深夜一時を回っており、さすがに温泉街もしんとしていた。しかも雨が降っていた。　アレリニオは今宵の宿を探すべく、遊女街へと足を運んだ。旅館はとうに閉まっており、泊まれるところは、そういうところしか開いていなかった。　駅前の広場を横切り、ネオンのある細い道へ駆け出した。そのとき、見知った僧侶に出会った。雨合羽を着て、走っていたのか、息を切らしていた。「アル、少女を見なかったか？」「少女？」「ショートカットの十四・五の小娘だ」「いや、列車には誰も」「見かけたらすぐに連絡しろ」「どうかしたのか」「北殿の大神官セイヤ直々に呼ぱれたらしい」「どこかの寺院の尼か」「それが、フラメとの国境の市の外れにある貧困層の出身だとか」「貧民出？」「北殿領内に入る前にこちらで捕まえた方がいいでしょう」「そうだな、何かあるな」　ヒンメルには身分制が存在する。頂点に皇帝、二番目に華族、貴族、三番に豪族、聖人、そして一般階級者（市民）、その下に貧民、犯罪者…。僧侶たち聖人は豪族と並ぶ身分であり、大神官は皇帝に匹敵する。一般階級の人々さえ、いや一般の僧侶さえ、普通ならば大神官に個人的に会うことはまずない。極限られた僧侶や信者たちしか会うことはできない。それがいきなり貧民が、しかも大神官が直接呼んだとなると、誰もがなにかあると思うだろう。　よくよく辺りを見回すと、北殿の僧侶たちが血眼になって少女を探している。どうやら少女はこの辺で逃げたらしい。　各登山道は夜でも登れるように、明かりが灯されているが、今宵は雨が降って、もう少し上に登れば雪が降っている。登山道の第一休憩所までは石段が続き、道が整っているが、そこから先は獣道になっており、野犬や狼、熊、猪などといった野性の動物も五千メートル付近にはまだいる。「各登山遣は僧侶たちが監視している。いまだ連絡がないところを見ると、登ってないようだ」「下山道は？列車の線路とか、車道とか」　メール山へは、高山列車のほか、バス、自動車でも来られるようにと車道があった。また、この温泉街は麓まで、断続的ではあるが続いているし、三千メートルから下は、ごく普通の住宅地になっておりヽこの辺に隠れてしまえばまず見つけることは不可能であろう。「下山か…、もう少し下を探してみるか。じやあ、見つけたら連絡を」「ああ」　そこでアレリニオは僧侶と別れた。「顔も分からないのにどうやって見つけるんだ」　ふと、素朴な質問を呟いてみた。「その子は、北殿に連れて行かれたくないのだろうか。名言なことなのに、か？」　アレリニオは再び駅前に戻った。黒と赤の法衣が走り回っている。黒は北殿のカラー、赤は南殿のカラー、黄色は本殿のカラーである。黄色…？　数人の黄色い法衣を着た集団が、本殿の登山道を登って行くのが下からでもはっきりと見えた。どうやら修業僧の集団らしい。「北殿と南殿が欲しがっているのに、本殿が静観ということはないだろう」　一目散に本殿の登山道へと駆け登った。黄色い集団はかなり上の方にいる。しかも、アレリニオは本殿の登山道を登ったことがなかった。「くそ！階段の一段が高い！」　かなりのハイペースで登っているにもかかわらず、その距離は一向に縮む気配がない。いつしか雨は雪に変わった。「うわあ！」　勢い余って滑った。「やはり違うのか、女の子にはとても登れないだろ」　やっとのことで、休憩所までたどり着いた。だが、事態は急変していた。黄色い集団は、黒い集団に囲まれていたのだ。　アレリニオは慌てて草むらに身を潜めた。「咲羽！なぜ本殿に行くのだ。北殿に来いと言ったはずだ！」　頭らしき男が言った。頭といってもまだ少年のようだった。「答えろ！咲羽！」　それはまるで取られた恋人を取り返すかのようだ。「少年、そこをどけ！」　こんどは黄色い集団の頭が言った。　まさに一触即発である。　ガツン！　アレリニオは後頭部に強い痛みを感じた。次に胸倉をつかまれ、輪の中に放り出された。「毅彦様、南殿のネズミがいました。いかが致しましょう」　だいの大人が『タケヒコ』と言う少年に向かって指示を仰いでいる。「殺せ！」　言うか否か、一斉に銃口がこちらを向き、乾いた音が幾重にも鳴った。　だが玉は皆外れた。　黄色い法衣を着た一人が毅彦の胸に短剣を突きつけていた。「北殿には行かない。大寺院にも行かない。あたしの中の毅彦はあの時死んだ。決めたの。カはいらない。自由に生きたい」「おまえの大切な星（じょう）がどうなってもいいのか」「かまわない。それがどういうことを意味するか、知ってて言ってるんだろう」「わかった。大寺院には絶対に来ないという約束だ。おまえを解放してやる」　少女は剣をしまうと堂々と輪の真中を通り、下山道へ向かった。「殺彦様いいのですか！」「希に見る適材です！このままみすみす見逃しては！」「毅彦様が逃しても、私は」　一人の僧侶が咲羽に飛びかかった。細い青白い光が僧侶の背中を貫いた。咲羽が僧侶を蹴り倒すと、僧侶の体にぽかりと穴が開いた。焦げていて、血も出て来ない。急所を外したのか僧侶は生きている。　咲羽の手から青白い光が放たれているが、何かを握っているようだった。「星の操作なの」　光が消えると、ペンのようなものに変化した。咲羽はそれを懐にしまった。「無駄だ。咲羽に技を仕込んだのは俺だ。おまえらじゃあ無理だ」　毅彦が言うと、一斉に僧侶たちが退いた。「本殿、北殿、南殿がそろっているわけだな」　本殿の頭が言った。「咲羽、そなたにこのメール山への立ち入りを禁ずる。即刻立ち去れい！　たとえ大神官といえどもこの咲羽を大寺院に呼ぶことは禁ずる。これはフォールラードゥング掟。口外は無用！」　フォールラードゥングには「一定の身分以上の本殿・北殿・南澱の僧侶が集まった場合、罪を侵した信者に対し制裁を加えることができる」という信者に対する掟がある。これば、集団の規律を守るためにも、信者の質を良くするためにも必要なことだ。「この南殿の男は僧侶ではないぞ！」　本殿の僧侶が言った。「南殿のエドル氏だ」　毅彦が言った。　咲羽はアレリニオに目をやると、再び視線を殺彦に向けた。「咲羽、楽しかった」　毅彦のその言葉に咲羽は頷くと、下山道を滑って行った。下山道は登山道と別にあり、板があれば滑って一気に降りられるようになった。「この中を無事に通り抜けることができるかな…咲羽」　毅彦が不適な笑みを浮かべた。「本殿に咲羽を入れることは、この俺が許さぬ。イアンに会わせてみろ、イアンの首はいただく。そのつもりで」　毅彦はそう言い残して、闇の中に消えていった。「われわれも行くぞ」　黄色い集団は振り向かずに、登山道を登っていった。　アレリニオは咲羽が気になり、後を追った。案の定、なにもまだ知らされていない南殿の僧侶達に囲まれて、戦っていた。　その戦いぶりは、少女とは思えないほどの見事な『舞い』であった。「やめやめやめーい！」　アレリニオが止めに入ると、僧侶達は退いた。「先ほど、この娘はメール山への出入りを禁止された者。この私が南殿の代表として立ち会った。北殿の奴らももう引き上げた」「なんだと！」　咲羽は、さっさと板に乗り降りて行った。「南殿に連れて行くことはもうできない。私が責任を持って娘を麗まで送り届ける」　アレリニオは再び後を追った。　　　　　　　《続く》 ☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆ モザイク的あとがき　どうも、モザイクリーダーの恭彬です。今回は、コミケレポートをお届け致します。　君が好き！が参加したコミックマーケットは、１３日日曜日ということもあって、雨にもかかわらず、多くの人出に恵まれた（謎）のであります。したがって会場内はいつものように酸欠。（特に東館らぶひなスペース……）　でも、創作文芸は至って平和な西館に配置されたこともあって、空気はありました（大謎）。　今回のコミケでは、入り口付近に配置されてしまった「君が好き！」でしたが、皆、足早に中央へと通り過ぎていってしまいました。φ(゜〇゜;) 　そんな中、ＨＰでお世話になっている方々から、励ましのお声をいただき、涙ながらにうれしかったです。ほんとうにありがとーヽ(∇⌒ヽ)(ノ⌒∇)ノ♪ 　篠原氏は、会場で今度の小説の絵描きさんをゲットしたり、瀬乃氏は陰陽師スペース（東館）にご挨拶に行ったり、となかなか収穫はありました。　こんどは、地方の方にも姿を現したいと、モザイク一同考えております。 ☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆ ぜひ感想をお寄せください！お待ちしています。さて、増刊号は、夫を溺愛する奥様が大暴走を起こしている『愛の寸劇劇場』と聖獣戦記をお届けします。聖獣戦記、とうとう月二回になってしまった…。　夏ばてしないように、スタミナつけてがんばりましょう。それでは、次回お会いしましょう。＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝　月刊小説「君が好き！」メールマガジン　　2000/8/17 7号　発行責任者　：篠原美姫緒　kimigasuki@1-emishop.com 　Ｗｅｂページ：http://kimigasuki.hoops.ne.jp/ 　発行システム：『まぐまぐ』『melma!』『Mailux.com』『E-Magazine』　マガジンＩＤ：0000025584　m00012567　ms00000142　　loveyou 　君が好き！メールマガジンの、転載、複写など著作権法違反行為は禁止です。＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝

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